紫希が安心している事など露知らず、丸井は桑原と二手に分かれて単身仁王を探して居た。
(しかし居ねえな・・・これだけ広いと、仁王だけを見つけるのは結構難しい注文だろい。)
泥棒に会えば何でも良い、というわけではない。
警察だろうが泥棒だろうが関係なく、ピンポイントで仁王と会わなければいけないのだ。
おまけに向こうは合流の意思があるわけではなく、加えて自分はスタミナが弱い。
かなりハードルの高い事をしなければならないわけだ。
まあ、止める気はないけど。
(えーと、あっちは探しただろい?で、そっちは今ジャッカルが行ってくれてるから、後行ってないのはこっち・・・)
「・・・丸井?」
「・・・っくりさせんなよ、警察かと思ったじゃねえか!」
「そりゃ悪かったのう。」
背後から徐に声をかけてきたのは、探して居た仁王の姿だった。
「しかしどうした、きょろきょろして。なんぞ探しとるんか?」
「お前だよ、お前。」
「俺?」
「そ。お前は時間の話があるから春日を助けんなって言ったけど、こうして偶々会う分には問題ないだろい?」
「思い切り探しとったようじゃが。」
「気の所為、気の所為♪ほら、時間も無いしナイフ貸してくれい。」
「・・・・・・」
手を出す丸井に、仁王はそろりそろりとポケットに手を入れ、ナイフを取り出した。
「よっしゃ!サンキュ・・・」
「おっと。」
サッと後ろ手になる仁王。
なんだ、貸してくれるんじゃないのか。
「なんだよ。」
「貸す前に聞きたい事があるんじゃが。」
「?」
「・・・お前さん、春日を助ける為にこれが必要なんじゃな?」
「おう。」
「俺がこれを貸したら、お前さんは食糧庫に向かってこれで春日を出してやると。そういうわけじゃな?」
「だからそうだって言ってんだろい?」
いきなり何を分かりきった事をくどくど言ってくるんだろうか。
「?」な顔で手を引込めないで待っていると、仁王は急に静かな目つきになって言った。
「お前さん、そうやって助けた後に春日が捕まったらどうするつもりじゃ?」
そうやって。
助けた後に捕まったら。
どうするつもり。
どうするつもり、とは。
「・・・なあ。」
「なんじゃ。」
「お前言ってる事矛盾してねえ?交流が目的だから、捕まったからって自分を責めなくて良いとか言ってただろい?」
「ああ、違う違う。別にその所為でチームが負けたらとか、そういう話をしたいんじゃないナリ。」
「じゃあなんだよ。」
「お前さんはよう分かっとると思うが、春日は気にしいなんじゃ。」
それは知ってる。
よーく分かってる。
少なくとも仁王よりは自分の方がよく分かってる筈だと丸井は思う。
「今の状態は閉じ込められとるだけじゃ。捕まった人数には現時点でカウントされとらんが、もしかして下手に丸井が逃がした事で、正式にっちゅうのもおかしいが今度こそ完全に捕まる可能性もある。挙句負けたりしようもんなら、もう目も当てられん。」
「・・・・・」
「その時お前さんはどうするんじゃ?そっちのが春日としては自分を責めるんじゃないかのう。」
「・・・確かにな。」
それはそうかもしれない。
というか、そうだろう。
もしそうなったら、紫希は間違いなく自分を責める。
自分があんな所に閉じ込められたりなんかするから、折角丸井君が助けてくれたのに、とか言ってそりゃあもう気にするに違いない。
「どうなんじゃ?それでもお前さんは助けに行くんか?」
「当たり前だろい。」
仁王はキョトン・・・とした顔をした。
まさか即答されると思ってなかったのだろうか。
仁王を吃驚させられるとは思ってなかったので、ちょっと愉快。
「そりゃあお前の言う事は正解。もしそうなったら春日は気にするだろうな・・・っていうか、其処まで行かなくても助けられた時点でもう気にするんだろうけど。」
「・・・・・・・」
「でもさ。そもそも何で助けたいのかって言われたら、春日がどうのとかチームがどうのとかじゃなくて、単に俺が助けたいから。それだけなんだよ。」
仁王には電話の時に止めろと言われた。
紫希本人からもしなくて良いと言われた。
桑原は賛同してくれたが、真田辺りは本人も良いと言ってるし不利になるのなら止めろと多分言うだろう。
でも、突き詰めて考えるとその辺全部、今どうでも良いといえばどうでも良いのだ。
だって、自分がそうしたいと思ったから向かったんだもの。
「・・・お前さん割と我儘じゃのう。桑原の言う事がなんとなく分かってきたぜよ。」
「誰が我儘だよ、普通だろい?」
「いやいや・・・見上げたもんじゃ。俺にはなかなか真似出来そうにないナリ。・・・ほれ。」
「おっ、と!」
仁王の放り投げた十徳ナイフが、丸井の手の中に転がり落ちた。
「サンキュ!」
「いや。良いから行ってやれ。待っとるじゃろうから、とは言いづらいが。」
「ああ、待ってはねえだろうな。」
多分行ったら、リーダーに止められているのに、どうして其処までして・・・!とか言って、感謝と謝罪であっぷあっぷし始めるだろう。
想像しただけで笑ってしまう。如何にも紫希らしい。
「それから、扱いには気をつけんしゃい。刃物じゃからな。扱うお前さんもそうじゃが、間違って春日が怪我でもしたら各方面からブーイングじゃ。」
「オッケー。サンキューな!」
ポン、とナイフを一度リリース&キャッチして、丸井はポケットにそれをしまった。
これは今、自分の唯一の装備。
囚われの女の子を助けるのだ。