Solicitation:3rd game 6 - 5/6


一方、もう1人の囚われの少女はというと。

「嫌、無理、やりたくない。」

「ふふふっ。そう言うと思ったけど、残念ながら今回は聞いてあげられないかな。」

間仕切りの内側で、胡座をかきながら背を向ける千百合。
その向こうには穏やかな幸村の声。

味方が来たのだから、悠長に喋ってないでさっさと救出したら良いのに・・・と思いきや、なんと。

今千百合は籠城しているのだった。

「なんて言われても嫌なもんは嫌。」

「でも、これは勝つ為に必要なんだよ。というか、柳生にはyesと返事したんじゃなかったのかい?俺は「黒崎さんから了承を得られましたので」って言われたから来たんだけどな。」

「それがそもそもおかしいの。私「はい」なんて言ってない。」

何故警察が同じ警察に向かって籠城などしているのか?
それは偏に、柳生の「作戦」という奴が気に入らないからであった。

やりたくない。
協力したくない。

大体、自分は「作戦」としか言われてなかった。
具体的な中身なんて聞いてないし、快い返事なんて一切した覚えがない。

(なんだかんだ優しい奴と思ってたけど、撤回するわ。とんだ食わせ物よ、柳生比呂士。)

「ううん、困ったな。ねえ千百合?」

「・・・何。」

「何がそんなに気に入らないんだい?」

「・・・・・・・」

「難しそう?それとも怖い?大丈夫だよ、俺がついて・・・」

「分かってるわよ!でも恥ずかしいの!作戦そのものより、この部屋から出るのが恥ずかしい!」

この部屋に立ち寄った際、柳生は間仕切りトラップが解除可能かどうか調べてみた。
が、解除はおそらく千百合側でスイッチパネルを探してみるしかなく、正解のスイッチが何処にあるかはおそらく仁王辺りしか知らない。

だから柳生は考えた。
なら、其処から出なければ宜しい。

間仕切りと天井の間には、子供なら通れるくらいの僅かな隙間がある。
そこから幸村に向こう側に行ってもらい、更に其処からステージ上部にある、火事の時に使用される非常用窓から、バルコニーに出れば良い。
というのが柳生の作戦であった。

ただ、この作戦には条件がある。

「ねえ、なんで私が受け止められなきゃいけないの?指示さえ出してくれれば一人で行くわよ。」

「それはやっぱり、一人じゃ危ないからだよ。」

そう。
一人で行かせるのは危ないからという理由で、千百合は幸村に連れ出して貰う事、という条件をくっつけられたのだった。

「真下にバルコニーがあるとはいえ、そこそこの高さから降りるわけだし。1階ならともかく此処は二階だしね。」

「精市が居れば危なくないっていうの。」

「危なくないよ。俺は千百合にも自分にも、怪我一つ絶対に負わせない。」

「・・・・・・」

「大丈夫、安心してくれ。」

命より大事な千百合と、命より大事なテニスに打ち込む為に万全の状態が要求される自分の体。
傷の一つだって付ける事は許されないし、この状況でそれを成し得るだけの能力が幸村にはあった。
幸いにも。
そう、これは幸いな事と言えるのだ、本来。

千百合だって、信頼はしている。この上なく。幸村ならやれるという、その確信がある。

でもだ。

「・・・可能不可能の話してるんじゃないの、私は恥ずかしいから嫌なの。」

「それも大丈夫。俺と千百合しか此処には居ないんだから、誰も見てないよ。」

「見られてるとか見られてないとかじゃなくて!抱えられる事が恥ずかしいんだって言ってんの!」

女性1人でバルコニーまで飛び降りろなんて、危ないよね!
そんな事、紳士として放っておけないよね!
そんな柳生の(要らない)気遣いの末、幸村に「先に降りて受け止めてあげて下さい」との指令が下った。

しかし、受け止めるとか簡単に言うが、ちょっと想像してみてほしい。

受け止めるんだぞ。

顔の距離とか体の距離とか絶対近いに決まってる。
肩とか腰とかに手とか回されたらもうどうしたら良いのか分からん。
顔が近いって、もうおでこにキスまでして貰ったじゃない、と思う人も居るかもしれないが、千百合には理解出来ない。
これは好きな人との話なのだ。
勉強とか逆上がりとかの話じゃない。
一度其処まで進んだんだから、もうその前のステップは楽勝だよね、なんてそんな風に行かない。

何度手を繋いだってドキドキするし。
何度近くに行ったって恥ずかしい。
何度抱きしめられたって慣れるまでは程遠い。

それなのに、受け止めて貰えって?
ゲーム中に?

出来るか、お前が代わりにやれよと柳生に言える物なら言いたい。

というか、逆に幸村のポジションを柳生がやってくれれば良いのに。
柳でも良い。幸村以外なら誰でも。

「・・・真田とか、めっちゃ良いな。」

「弦一郎?」

「うん。真田が受け止めてくれるって言うんだったら、私欠片の遠慮も持たないで景気よく飛べるわ、絶対。」

真田が相手なら、もう恥ずかしいとか全く思わない自信がある。
受け止め損ねるなよ、とか平気で言えるし、向こうも愚弄するなとか言ってわあわあ騒ぐだろう。

男子に受け止めて貰うとか、その位の距離感が自分には一番良い。

幸村は本当に辛い。
2重の意味で。

「ううん・・・でも残念だけど、今ここに居るのは弦一郎じゃなくて俺だから、俺で我慢して貰うしかないかな。」

「・・・いや、残念とか我慢とか、そういう話でもなくてさ。」

「違うのかい?」

(・・・紫希助けて、この感情をどう言えば伝わるのか、言い方を教えて)

なんだかそういう言い方をされると、幸村が不満みたいになってしまう。
違うんだ、不満だとか嫌だとかじゃないんだ。

ただ、恥ずかしい。
とんでもなく恥ずかしい。

「ん?」

「・・・今度は何よ。」

「・・・千百合、残念だけど。」

「何が。」

「時間切れだよ。作戦を開始しないと、間に合わないかもしれない。」