Solicitation:3rd game 7 - 1/7



「・・・・おい。」
「・・・・・」
「・・・おい!聞いているんだろう、返事をしろ!そしてもう少し離れんか!」
「嫌ー!」

紀伊梨は真田に捕まり・・・いや、最早へばりつきながら件の寝室へと、のろのろ歩みを進めて行った。

「これでは碌に歩けんだろう!幽霊だのなんだのを信じるのなら尚更、それに対する備えとして直ぐに動けるよう体勢をだな、」
「お化けに会った時に体勢なんか気にしてらんないもーん!真田っちは怖くないんっしょー、なら良いじゃん!紀伊梨ちゃんの事安心させてよー!!」

(この2人のやり取りは興味深いな)

基本的に真田は勢いが強く、自己主張ははっきり鋭くするタイプだが、それに対して一切怯まず自分の主張を盛り返す紀伊梨との会話は、喧嘩ではないけれどまったり穏やかとも何か違うものがある。

「うう・・・やなぎーは何やってるのー?」
「いや。面白いデータが取れているなと・・・む。」
「どうした?」
「真田、其処だ。其処の部屋が、五十嵐の言っていた寝室に該当する部屋だ。」

こんな時間の惜しい時に、のろのろとした足取りでではあったが、なんとか3人はあの寝室に辿りついた。

「此処だな。よし、開けるぞ。」
「あー!待って待って待って、心の準備が、」
「その心の準備とやらは、待ってやったら終わるのか?」
「う!」
「たわけが!良いか、勝負は先手必勝!こちらがまごまごしている間に相手に反撃の準備を整えられては、勝てる戦も勝てはせん!」
「う・・・」
「分かったら行くぞ!そうでなくても時間が惜しいのだ!」

こうと決めたら有無を言わさない真田の頑とした態度は、こういう時は逆に良い効果を生み出す。
放っておくと1人でずんずん進んで行ってしまうので、意見が食い違うと幸村や柳がそうしているように宥めて止めるか、そうでなければ全てを諦めて従うしかないのだ。

半ば強制的に腹を括らされる紀伊梨だが、この場に於いてはその位の方が良いのかもしれない。

「まあ落ち着け五十嵐。」
「ういううう・・・どーしてやなぎーはそんなに落ち着いてるのさー!」
「狼狽えても得な事は無いからだ。」
「得とかそーいう話なの!?お化け相手に!?」

そりゃあ何事につけても、慌てたって損は生ずれど得は生じない。
その原理は分かるが、だから慌てるの止めるねなんて、そんな事出来るんだろうか。
紀伊梨には一生分からない世界である。

「良いか?行くぞ。」
「ああ。」
「うにゅ・・・」
「良し。1、2の・・・3!」


バン!


と音を立てて開かれる寝室の扉。

「ふむ。特に変わった所はないようだが。」
「おい、目を瞑るな!お前が先刻と見比べん事には、何も分からんだろう!」
「だってー!」
「件のクローゼットは・・・これだな。真田、開けるぞ。」
「いや待て、俺が開けよう。柳は下がっていろ。」
「そうか?」
「ああ。五十嵐、お前は来い!見ろ!後ろを向くな!」
「だあってー!」

隙あらば目を閉じて耳を塞ぐのを止めて欲しいと真田は思うが、ここに居る事そのものがダメージな紀伊梨にそれは無茶という物だろう。

「行くぞ・・・むん!」

開かれるクローゼット。
その中は。

「・・・特に変わったものは無いな。」
「ああ。もう到底着られないような服が何着かあるばかり・・・ん?」
「どうした?」
「・・・五十嵐、喜べ。」
「ふえ・・・?」
「種が分かったぞ。」

柳が服を何着かどけると、仁王が蹲っていた穴があっさり姿を現した。

「おおおお!?穴が開いてるー!」
「これは床板が抜けていて・・・下まで貫通しているのか?」
「ああ。此処に布でも、それこそこの服など被って座り込むと、人など居るだけのスペースが無いように見えてしまうから、一瞬無人だと勘違いする。」
「しかし、それこそ一瞬だろう。こんな重くも無い物、容易く取り上げられてしまう。そうなったらもう姿は丸見えだぞ。」
「ああ、普通は只の付け焼刃なんだ。普通はな。」
「・・・成程、普通はな。」
「そう、普通は。」
「ふつーふつーって何さー!2人共、紀伊梨ちゃんがふつーじゃないみたいにー!」
「ならば聞くが、お前はこの仕掛けに気づいたか?」
「う・・・!」
「此処に積んであったこの服を、自分の手で退けたか?此処に誰も座っていないのを目で確認したか?」
「・・・それはしてないけどー!」
「しろ!物の怪だなんだと騒ぐのはその後だ!」
「だって怖いんだもーん!怖いものなんかわざわざ良く見ようなんて思わないよー!」

「そう、それだ。」

「「え?」」

暫し言い合いを忘れて、紀伊梨と真田は柳の方を向いた。

「人間誰でも、怖いものや嫌な物を進んで良く見る気にはならない。勿論日頃からそれを理性で制する癖が付けられているなら話は別だが、そうでないなら基本的には目にしたらサッとその場を離れるだろう。これはその心理を上手くついた仕掛けだ。」
「?どーゆーこと?」
「端的に言うと、五十嵐お前は嵌められたという事だ。ホラーを連想させる声色、単語でお前の恐怖心を煽り、探索を切り上げさせて部屋から追い出す。敵ながら天晴、という所だな。」
「という事は、此処に隠れていたのは・・・」
「仁王である確率、99.99%だ。一応、ゲーム後に本人に聞かなければ確証にはならないが、先ず間違いないだろう。」

此処にはお化けなんて居なかった。
居たのは、無い物をあるように見せかけるのが得意技のイリュージョニストが1人。

いっそ恐ろしいほど正確な推測だが、柳としては「こうして事後に全てが分かってもなあ・・・」と思うとちょっと息を吐きたくなってしまう。

「ええと・・・?じゃあじゃあつまり、ここに居たのはお化けじゃなくてニオニオで、紀伊梨ちゃんを怖がらせて追い出す作戦だった?って事?」
「ああ。」
「・・・あーーーーー!良かったーーーー!」

紀伊梨はドッと息を吐いた。

「ほんとのほんとにお化けだったらどーしよーかと思ったよ!もー!ニオニオってば人騒がせなんだからー!」
「人騒がせなのはお前の方だろう!全く、こんな時間の惜しまれる時に!」
「まあそう言うな真田。」
「しかし・・・」
「確かに余計な時間がかかったと言えばかかったが。しかしこれで、ゲームが動いた事にもなるさ。」
「?どういうーーー」

がっちり。

としか形容できない位の、ぎりぎり痛くない絶妙な痛さで、柳は真田の手首を握っている。

「・・・・・・」
「これで逮捕だ。五十嵐、真田を檻に連れて行ってくれ。」
「おお?」

「・・・・くそ!」

あえなく捕まってしまった真田は、思わず悪態を吐いた。

ゲーム終了まで今少し。