Solicitation:3rd game 7 - 2/7


「ナイフ・・・ゲット・・・良し。」

桑原はホッと溜息を吐いた。

紫希の救出に付き合うと決め、手分けして仁王を探していたが、丸井からナイフを貸して貰ったとの連絡。
これで一先ず目的は達成だ。

(という事は、もう仁王を探さなくて良くなるな。よし、なら俺はこれから、俺自身が逃げ切る事を考えて・・・)

と、思った矢先。

(ん?又連絡か?)

今度はなんだろうか。
行動方針の変更か何かかな、と思っていた桑原は目を剥いた。

「真田が・・・!?おい、嘘だろ!」

もう残り時間が迫っているのに、此処でチーム内でも逃げ切れる可能性の高い真田が捕まるのはとても痛い。

(どうする!?助けに行くか!?いやでも見張りが五十嵐みたいだから、近づいたらその時点でスピーカーされちまうし、)

「桑原。」

後ろからかけられた声に驚いて振り向くと、其処には仁王が居た。

「仁王・・・」
「真田からの連絡は見たか?」
「ああ、見たけど・・・どうする?助けに行くか?」

「いや、行かん。」

仁王は即答した。

「・・・でも、」
「勿論状況に応じて対応は変える。助けないといかん展開もあるき、ある程度檻の近くに居た方が良いが・・・それでも、原則は助けん。」

もう少し。
後少しで、逃げきりなのだ。

確かに捕まったのがよりによって真田というのは痛いが、無理して助けて妙な展開になるよりは、このまま進めたい。

「・・・・・・」
「今檻に居るのは1人。捕まったと書いてあるが、ある意味では捕まえて「しまった」わけじゃ。五十嵐はもう、これで檻から離れられなくなってもうた。これはこっちにとってラッキーぜよ。」

紀伊梨のスピーカーとしての役割は、この終盤に於いて本当に怖い。
タイムアップが迫って、皆が多かれ少なかれパニックに陥り出す中、あの大声は行動指針を警察側に与えてしまう。

「兎に角此処まで来たら、如何にこの状態を固定するかが肝じゃ。それに、真田の救出だけに気を取られてもおれん。」
「・・・?っていうと?」
「春日の居る部屋に近づけさせん事ナリ。相手の気を引く算段もそろそろ考えんといかん。」


「ーーーーーー」


桑原は絶句した。

待て。
ちょっと待てよ、おい。

「・・・なあ。」
「ん?」

「お前、ブン太にナイフを渡したよな?春日のトラップ解除用にって・・・」

なんだか今の口ぶりだと。
まるで、紫希がずっと囚われの身で食糧庫に居続けている事が前提のようではないか。

おそるおそる尋ねる桑原に、今度は仁王が目を真ん丸にした。

「・・・どういう事じゃ。」
「いや、どういう事も何も、」
「俺は知らんぜよ。と言うか、助けるなと言うたじゃろ。」
「そ・・・ま、まあ、それはそうなんだけど・・・」

それはそうなんだけど、あの我儘マイペースな丸井が大人しく言う事を聞くかと言われると、それも望み薄。

仁王もそれは分かっていたし、なんだかんだ合流を図って来る事も予想がついたが、自分が「駄目なものは駄目」と言って突っぱねればそれで済む話。そう思っていた。

のに。

「・・・いや、兎に角後じゃ。桑原。」
「あ、ああ、なんだ?」
「確認じゃが、現状丸井はナイフを持っとるんじゃな?それは間違いないな?」
「多分。携帯を誰かに取られたりして、勝手に操作されてるとかじゃなければ。」
「その可能性も・・・まああるが、一旦置いておいてくれ。で、じゃ。持ってるとして、その目的は春日の救出。それも間違いないな?」
「ああ、それは絶対間違いない。」

それは携帯伝い、とかではなくて目の前でそうしようとしているのを見聞きしたのだ。

「・・・・・・・」
「なあ、仁王・・・ブン太はお前から受け取った、って言ってるんだが、お前は渡してないんだよな?」
「ああ、俺は渡しとらん。」
「じゃあ逆に、誰がやったんだ?」

それである。
仁王自身はやってないのだから、自分じゃない事は確かだが、他に誰が丸井に手を貸せると言うのだろう。
しかも、ただ手を貸しただけじゃない。

(丸井は、「俺から」ナイフを借りたと連絡を入れた。っちゅう事は少なくとも、丸井は借りた相手が俺じゃっちゅう勘違いをするような何かがあって、その結果ナイフが手に残ったわけじゃ。)

しかし。
例えば仁王が携帯を落としたりなどして、それを誰かが拾うなどしていれば、誰かが仁王のフリをして「ナイフ置いといたから持って行って良いよ!」なんて嘘を吐く事も出来よう。

しかし、仁王の携帯はちゃんと今持っている。

なら、嘘を吐くにしてもどうやって?

「・・・・・・」

(何か考え出したけど・・・俺はどうすべきなんだ?)

そうでなくても、余り一所にぐずぐず止まって居るのは避けた方が良い。
でも下手に動いて仁王の計算を狂わせるのも嫌だし、僅かとはいえ丸井の件には関わっているので、取り敢えず俺は逃げるぜ!と言って去るのもなんだか気が引けるし。

じっとしててもいけない気がするし、動いてもいけない気がするし。

どうしたもんかな・・・と思い、不意と窓の外に目をやった。

その時。

「・・・おい、仁王。」
「ん?」
「あれ・・・」

桑原が指指した先。
窓の外に見える部屋の、更に中に。

「・・・・!」
「・・・おい、なんだよあれは!」


仁王が居た。


向こうの仁王はこちらが気づくとほぼ同時に、視線を感じたのかこちらを向き。

「!野郎!」

もう1人の仁王は逃げた。

しかし視認はできていた。
どっちに行ったかは予想がつく。
今から追いかければ捕まえられるかもしれない。

「逃がすか!待て・・・」
「桑原、待ちんしゃい!」
「なんだよ!」
「落ち着け、ええか?どんなカラクリか分からんが、味方があんな事をする筈はない。ちゅう事は警察側がやっとるんじゃ。行くな、罠かもしれんナリ。」

見たとはいえ、距離がある上に2枚の窓と中庭を間に挟んでの目撃。
見間違い、或いはなんらかの仕掛けという可能性も十二分に考えられる、と仁王は思い、桑原を止めたのだが。

だが、しかし。

「でも見ただろう!」
「じゃから、」
「罠かもしれない事は分かってる!それこそあれが警察の誰かだったら、泥棒側の俺がわざわざ追う方がおかしい!でも、少なくともお前は彼奴を追いかけて側に居ないと、泥棒側の俺達が騙されるだろ!」

真田は今捕まっているから、逃げ出さない限り仁王を見かけても、逆にこれ以上どうともならないかもしれない。
でもそれこそ、丸井や紫希が騙されたりしては遅いのだ。

いや。

(・・・遅いと言えば、もう既に遅いんか。)

もうほぼ間違いない。
自分を装って丸井にナイフを渡したのは彼奴だろう。

そしてもう、その時点で既に後手に回っていると言えば回っているのである。

「・・・・」
「どうするんだよ・・・追わない方が良いのか?」
「・・・兎に角、丸井と春日に連絡じゃ。」

もう何もかも、遅いかもしれないけど。