現代人はテレパシーで繋がっているようなもの。という見方がある。
お互いに携帯というツールさえ持っていれば、いつでも伝えたい時に伝えたい事を伝えられる。
筈。
でもそれはあくまでも例えなのであって、本当にテレパシーを持っているわけではないから、弊害もある。
例えば、片方が伝えたい事があっても、携帯に手が伸びるのが遅かったり。
或いは、受け取る側が携帯を見なかったり。
結局超能力を持たない人類には、双方にお互いに対する興味が無いと意思疎通がままならない。
という大原則からは逃れられないのだ。
今の丸井のように。
(警察は・・・居ないな、よし!)
食料庫に向かう丸井は、今この場に警察が居るとか居ないとかより、もっとずっと重大な事に気付いていない。
事に気付かないまま、とうとう辿り着いた。
「・・・春日。居るか?」
「はい・・・丸井君、ですよね?」
居た。
取り敢えず、状況は動いていない。
「おう!待ってろい、出してやるから。」
「ええっ!?」
思わず声をあげる紫希。
待ってくれ。
待ってくれ。
「待っ・・・待って下さい、私を逃がさないというお話は、」
「あれは、無理に逃がそうとして不利になったら、って話だったんだよ。俺は偶々仁王に会って、偶々ナイフが手に入って、通りがかったから助ける、ってだけ。大丈夫、大丈夫。」
「そんな・・・」
偶々。
偶々が続いて良いのは二回までという古畑任三郎の説を信じるなら、丸井の偶々は絶対嘘だ。
「で、でも、2人纏めて捕まってしまいますよ、」
「かもな。」
「かもじゃなくて、そうなんですよ!折角助けて頂いても、私足は遅いし、」
「おう、知ってる。50m11秒台だっけ?五十嵐が言ってたぜ。」
「12秒台です・・・じゃなくて!ですから、足を引っ張るだけというか、」
「うん。」
「ご迷惑を・・・」
「そうだな。」
「・・・丸井君、聞いてます?」
「ん?返事してるだろい?」
返事はしてるけど、聞き流してやしないだろうか。
ちゃんとこっちの言う事の中身考えて返事してる?と紫希でなくても問いたくなるだろう、この場合。
「・・・・・・・」
「よっ。よっ・・・あれ?これは何処から伸びてんだ?」
「・・・・・・・」
「・・・あ、これか!で、此処がこうだから、こっちを切って、」
「・・・あのう、丸井君。」
「んー?」
「・・・・・・・」
シュル、シュル。
偶にブツッ。
音がする度に、紫希は目の前の扉が解放に向かって一歩一歩近づいていくのを感じる。
「・・・私。」
「おう。あれ?これはこっちから出てこねえわけ?ん?」
「・・・・・」
「聞いてるぜ?」
「あ、はい。そうなんですけど・・・」
違う、そうじゃない。
聞いていないと思ったから言葉を切ったわけじゃなかった。
紫希は、ずっとずっと丸井に対して聞きたい事があった。
(・・・どうして丸井君は、こんな風に何時も私を助けてくれるんですか?)
助けるだけ無駄だとか思わないのだろうか。
どうせ逃げ出したって、丸井だけなら兎も角自分が居てはすぐ見つかるに決まってるのに。
仁王と丸井が電話でどういうやり取りをしたのか、紫希は知らない。聞こえなかったから。
でも、仁王が自分を助ける事を「損」とみなしている事はなんとなく会話の雰囲気から伝わってきた。
それはとても妥当な判断だと思うし、だからと言って仁王は自分を嫌ってるとか、意地悪されてるだとかそんな事は決して思わない。
勝利の為だ。納得のいく話でしかない。
別に今回に限った話じゃなくて、もう何度も助けて貰ってるが、丸井は何故嫌にならないのか。紫希は不思議で仕方がない。
GWの時は「自分にも都合が良いから」とか言っていたけど、流石に今の状況で丸井に都合の良い事なんて何処にも無い気がする。
少なくとも紫希には見当たらない。
足手纏いだし、負けの可能性が高まるし。
「こうして、こうして・・・春日?」
「はい・・・」
「悪い、もうちょい時間かかっちまう。」
「そ、そんな事良いんですよ!というか・・・」
「というか?」
「・・・時間がかかるなら尚更、見つかるといけないので丸井君は逃げた方が、」
「やだ。」
「何故です・・・」
「逆にお前は、なんでそんなに逃げたくねえの?」
「え。」
なんで。
何でと言われるとというか。
「・・・あの、私逃げたくないわけでは、」
「本当に?」
「本当です、でも・・・」
皆多かれ少なかれ思っているが、この閉じ込め状態と言うのは一時隔離。
ゲームから少しの間、強制的に人間をバインドする。
だから閉じ込められてる側は楽しいかと言われると、どう頑張っても楽しいとは言えまい。
この状況をラッキーと思えるのは、千百合のような面倒がり位のものである。
「・・・でも、やっぱり逃げると迷惑が、」
「捕まるから?」
「はい・・・」
「別に良いんじゃねえ?捕まったって。仁王も、交流が目的だから、負けたからってそんな目くじら立てねえみたいな事言ってたぜ?」
「ですけどそれは、自ら進んで負けに行くような真似を見過ごすと言う意味じゃないと思います・・・結果的に負けてしまってもそれは責める気はないというだけで、それは皆が勝を目指して全力を出す事が前提なのであって、というか・・・」
確かにナイフを最終的に仁王は渡したのかもしれない。
でも、此処までして貰って自分が逃げる事がチームの為に如何程役に立つかと言われると、紫希は殆ど役立たないと思う。
寧ろ邪魔をするのではないか。
負けても責めないとはいってもそれは各々一生懸命チームの為に頑張ったから、が前提なのであって、今自分が逃げたらそれは「チームの為に頑張る」行動にはきっとカウントされない。
「・・・・・・」
「ですから・・・・」
「・・・・・・」
「やっぱり、止めた方が皆の為では・・・」
「・・・・・・」
「・・・?あのう、丸井君ーーー」
「・・・ぃよっしゃあ!」
ブチン!
と景気の良い音が聞こえて、紫希は驚いて少し扉から離れた。
薄暗がりに慣れ出して居た目には些か眩しすぎる、と思える日の光が隙間から漏れ出して、その向こうに。
「よ!お待たせ♪」
笑顔の、丸井。
(・・・・ああ。)
紫希は顔を両手で覆った。
「って、どうした?目にゴミでも入ったか?」
「違います、ただ自分がみっともなくて・・・」
「え、なんで?どっからそういう話になった、今?」
「だって私、足も遅いですし、皆に迷惑ばっかりかけてるのに・・・」
此処から出て、どうしようと言うのか。
すぐ見つかる、すぐ捕まる、瞬く間に元の木阿弥、容易に想像出来るこの後の展開。
でも。
でもさ。
でもだな。
思ってしまうのだ。
「・・・なのに、嬉しいんです。助けて頂いて・・・」
皆とゲームするのが楽しい。
だから逃げたり隠れたり、偶に仲間と合流したり、そういう事をしていたいのだ。自分が居ると迷惑かかると分かっていてもだ。
「すみません、足手纏いのクセに、なんて図々しいんだと自分でも思いますけど、」
「まあすぐ捕まるのは本当だな。」
「仰る通りで・・・」
「俺すげえ吃驚したもん。捕まったって連絡入って、さっき逃げたのに早過ぎだろいって。」
「御尤もです・・・・」
「だから、ちゃんと離れないで付いて来いよ?」
「はい・・・え?」
顔から手を外してキョトンとする紫希を、丸井はニッと笑って返した。
「まだゲームは終わってないだろい?」
そう、まだ終わりじゃない。
ゴール目前は、ゴールじゃないから。
「・・・はい。」