「やったーーーーあ!勝ったーーーー!やーぎゅ凄ーーーーい!」
「いえいえ、大袈裟ですよ五十嵐さん。五十嵐さんを始め、皆さんの協力のおかげです。」
ぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶ紀伊梨を見守る柳生は、とても爽やかな笑顔で微笑んでいる。
謙遜する気持ちもあるが、勝って嬉しいのも本当なのだろう。
「ふふふ。でも、五十嵐の言う事は本当だよ。」
「幸村君?」
「今回の勝利は、間違いなく柳生の作戦あってのものだ。遠慮しないで、誇っても良いんじゃないかな。」
「私もそう思う。」
「ああ。勿論時には後手に回る事もあったが、それ以上に的を射た作戦や推測が多かった。」
特に最後の作戦が嵌ったのは大きかったと思う。
思うが、それは偏に柳生の推測が正確だったから成り立った事だ。
「皆さん・・・有難う御座います。恐縮です。」
「きょーしゅく?ってなんだっけ?」
「恐れ入ります、という意味です。」
「おお!そだったそだった、忘れてたー!」
(機嫌良く返事してるね。)
(よっぽど気分良いのね。)
(まあ無理もない。勝ったのも勿論だが・・・)
勝った負けた以上に、あれだろう。
千百合達3人はちら、と隣を・・・Aチームの方を見た。
「・・・・・・・」
「あ、あのな仁王・・・」
「あー・・・」
「に、仁王君・・・」
「・・・・・」
こんなに暗い仁王見た事無い。
というくらい落ち込んでいる仁王に、誰も声をかけられない。
顔はなんとか無表情を保っているが、敗北感の化身になったようにどんよりしている負のオーラは隠しきれない。
「・・・ごめんなさい!」
紫希は深く深く頭を下げた。
「本当にすみません、私が足手纏いで、」
「おい、お前だけの所為じゃないだろい。」
「そうだぜ。こういう事は、チームの全員が悪かったのであって、」
「いや、誰が悪いと言うなら俺が悪い。」
「真田!?」
「お前まで何を言い出すんだよ・・・」
「俺が捕まったのが敗因だ!捕まった経緯からしても、俺は逃げられた筈なのだ!そこをみすみす捕まって・・・!」
「いやいやいや・・・しょうがねえって!なあブン太!」
「おお・・・っつうか、誰が悪いとかって話になると、俺も結構悪いからこの話止めねえ?」
「お前は・・・!」
桑原は丸井のこの責任回避能力の高さが結構羨ましい。
「お前ら、もうええよ。止めんしゃい。」
仁王が盛大に溜息を吐きながら言った。
「仁王君・・・ですけど、」
「良いんですよ、春日さん。皆さんも。」
割って入ってきた声は柳生だった。
Bチームはどうやらひとしきり喜び終わったらしい。
「そういうわけにはいかん!というかそもそも、お前は勝った側だから良いだのと言うがだな、」
「勝った、負けたの話じゃないんだよ弦一郎。」
「む・・・?」
「これはゲームにどうこう、と言うよりも、仁王君の敗北。仁王君が敗因、という事です。そうでしょう?」
「ああ、分かっちょるよ。」
仁王が悔しさを滲ませた声音で言った。
「ニオニオが悪いのー?なんでー?」
「正直言ってじゃな。俺は丸井が俺との合流を企んでくるとは思っとったんじゃ。」
「マジ?」
「おう。お前さんが駄目っちゅうて聞き分ける性格じゃないのは知っとるからのう。」
それこそゲーム中は、幾らあれはするなこれはするなと指示出しした所で、強制力はない。側にいるわけではないのだから、言う事を無視しようと思えば出来るのだ。
「じゃが、其処までは予想しとった。だから合流された時に、刃物は貸さない助けるなっちゅうて言い聞かせたらそれで済むと思っとった。」
「そして、それ以上・・・俺達Bチームが、更に考えを進めていた、とお前は思わなかったわけだな?」
「ああ。しかし口に出されると尚辛いぜよ。」
丸井は合流を考える。
そして本当に合流されたら改めて断る。
そこから更にもう一歩、考えを進めねばならなかったのだ。
柳生の性格を見込んで、柳生と勝負しようというこの状況で、この油断は致命的だった。
馬鹿じゃないし、ゲームが得意な頭脳派。
その事は分かっていた筈なのに。
「・・・いやでも、やっぱり仁王が悪いとは一概に言えないと思うぜ、俺は。」
「どういう事よ。」
「だって、誰も考えないぞ普通!柳生が変装出来るだとか!」
そう。
桑原の言う通り、柳生は途中から仁王に変装していた。
丸井にナイフを渡したのも、桑原と仁王が見た2人目の仁王も、勿論最後の最後で紫希と丸井を捉えたのも柳生である。
自分達は泥棒側の筈なのにいきなり警察側がとか勝ちがとか言い出す仁王に、何を言ってるんだと疑問符を抱いた2人。
棗のアナウンスの直後、その目の前で鬘を取って柳生が姿を見せた時、紫希も丸井もこれ以上無理というくらい目をまん丸に見開いて驚いた。
「そーそー!私達もちょー吃驚したんだよー!」
「やるからって言われてもね。実際問題、仁王じゃあるまいし変装なんて出来んのかよって思ってたけど。」
「まあ確かに、一度もお見せした事の無いものを信じろというのも難しいものです。疑われても当然でしょうね。」
「ふふっ。俺達も、半信半疑だったよ。実際に目の前で見せられるまではね。」
「ああ。柳生にこんな才能があったとは、データになかった。」
「死ぬ程吃驚したぜ、こっちは。」
「ええ、心臓が止まるかと思いました・・・」
変装は仁王の専売特許。
その思い込みが全員に・・・仁王本人にさえある、其処を突いた作戦だった。
鮮やかと言う他無い。
「・・・しかし、それにしてもかなり危険性の高い作戦ではないか?」
「お?真田っち、どゆ事ー?」
「無駄が多いと言おうか、他人に変装して活動する事そのものが、かなりリスクを背負う行為だろう。しかもお前は仁王と違い、普段から変装して慣れているわけでもなければ、他の手段が取れなかったわけでもない。もっと楽で確実性の高い作戦もあった筈だ。」
「確かに・・・俺と仁王が終盤で見つけたのも言ってみれば偶々で、もっと早くに見つかる場合もあっただろうしな。」
真田の言う事は正論である。
もっと他の手段もあった。
でも、今回はこれで無ければならなかったのだ。
「こうしなければですね、”仁王君に”勝った事にはならないんですよ。ですから、この作戦で行かざるを得なかったのです。」
「やっぱりそれか、性格の悪い奴ナリ。」
「仁王君から言われるとは、心外ですね。」
「ああ、そういう話。」
やっぱり食えない奴だと千百合は思った。
ゲームに勝とうが負けようが、交流が深まれば良し。
そう思っている仁王に勝つには、仁王の土俵で勝負して勝たねば心を折れない。
相手が心理的に弱い所を容赦なく突くそのやり方。
(うん、良いね。良い逸材だ。)
幸村は思わず笑みが零れた。
ゲームをする程に強くなってきた思いだが、柳生は良い。テニス部に来てもらえるなら喜んで迎えたい。
あの隙の無い、事に当たって仕事をきっちりやりきる姿勢。
頭脳。努力を厭わない態度。
そしてあの負けん気。
仁王は良い人材を見つけてくれたものだ。
幸村がほくほくしていると、向こうの方からずっと不在だった棗が歩いて来た。
「おーい!第4ゲームだ、始めるよー!」