「・・・・・・・」
紫希は今、極限まで集中している。
(・・・然るに、マグダラのマリアと言う存在の聖書に於ける現代的な意義とは、単なる模範生、母性、処女懐胎に見られる神秘性に止まらず、イエスキリストが元来人間であったという事の裏付けをする者とし、更にイエスの妻マリアとの関係性に於いて、その当時タブー視されてきたキリスト教の政治的利用、つまり宗教へ生産性を求るに当たっての不都合なーーー)
「よ。」
「・・・はい?あ、丸井君。」
いけない。
ちょっと読み込み過ぎた。
「何読んでんの?」
「これです。本棚にあったんです。」
紫希の持つ本の表紙には、「現代における宗教のキャラクター性考察-キリスト教編-」と書かれている。
それだけではない、傍らの本棚には他にも本が置かれていた。
冊数は控えめだし、本でなくてドライフラワーなどの飾り棚スペースとして利用されている辺り、どうやらここの持ち主はそれほど読書家ではなかったらしい。
ただ、小物が綺麗にディスプレイされているので女性らしくはあったようだ。
「中を開いたら、普通に読めそうだったので、ちょっとだけと思いまして。」
「ちょっとだけ?」
「はい、ちょっとだけ。」
「ふーん。ちょっとねえ?」
「・・・うう。」
可笑しそうに笑いながら言う丸井は、紫希が本当は読み込みたいのであろう事を見透かしている。
「お前本当に何でも読むんだな。楽しい?」
「ええ、楽しいです。」
「小論文が?」
「はい、とっても。」
小論文の何処が楽しいんだろうか。
丸井にはさっぱり分からないが、紫希が嬉しそうなのでまあ良いとしておこう。
「しかし宗教の本ね。こんな女の子女の子してる部屋だし、置いてあるなら恋愛小説とかかと思ったけど違うんだな。」
「そうですね、というか・・・」
「というか?」
「逆に、置いてあるのは殆ど宗教系の本なんです。」
「マジ?」
丸井は何冊か取って表紙だけサッと目を通した。
「「厩から始まる神様の話」、「十字軍と陰謀論」、「ローマ法王のいろは」、「バチカンの歩き方ーカトリック教徒としてー」。本当だな。」
「こっちも似たようなものなんです。「聖水の作り方」、「プロテスタントとは何か?」、「礼拝の文化史」・・・」
「お?これは背表紙に何も書いてなくねえ・・・ってあれ?表紙にも何も書いてねえな。」
「あ、それは!」
「へ?」
丸井は開きかけた手を止めた。
「何?」
「そ、う、いうのは、日記帳である事が多いので、そのう・・・」
「あ、ああ!」
丸井は慌てて本を閉じた。
引き出し程度なら兎も角人の日記、それも年頃と思われる女の子の日記を読むのは流石にちょっと憚られる。
「ふう、あっぶね・・・」
「あ、あはは・・・あ、でも、もしかしたらヒントが書いてあったかもしれませんね、見ても良かったかも。ああ、でも・・・」
「いや、良いよ。どうにもならなくなったら見るけど、女子の日記とか進んで見るもんでもないし。」
「そうですね・・・あら?丸井君、足元に・・・」
「ん?」
丸井の足元には、さっきまでなかった紙が落ちていた。
「挟んでいたのが落ちたんでしょうか?」
「多分な。新しいし、黒崎が入れておいたんじゃねえ?」
という事はヒントである。
丸井は拾い上げたそれをピラリと捲った。