「あ。」
「む?」
図書館などで、偶然にも2人が1冊の本を同時に手に取ろうとする。
良くあるシチュエーション・・・更に言うと、良くある「恋愛の」シチュエーションだが、殊この2人。千百合と真田の間にそれは有り得ない。絶対。
「・・・・」
「ちょっと。」
「何だ。」
「なんで引込めんのよ。見たかったんでしょ、その如何にも感ある聖書。調べれば良いじゃん。」
「お前に譲ってやるつもりなのだ!そのくらい分からんか!」
「知るか!大体、譲って「やる」って何よ「やる」って!あんたのそういう、いちいち上からなところが嫌なのよ!」
「言葉の綾だろう!何もお前に対して優位に立とうとして言っているわけではない!」
ぐぬぬ・・・とお互いに歯噛みする千百合と真田。
幾らかお互いに慣れてきたとはいえ、ちょっとした火種がゴウッと大火事になるのはまだ相変わらずである。
「兎に角!それはお前が調べれば良い!俺は他所へ行く!」
「はあ?お前が調べれば良いじゃん。私怠いし、調べたいって言うんなら喜んで譲るわよ。」
「お前と言う奴はまた・・・!どうしてそう楽をしようとするのだ、たるんどる!」
「だから・・・」
楽出来る時に楽するのが悪いみたいな言い方すんな!と言いかけて千百合は歯を食いしばった。
落ち着け。
これが真田なりのやり方なのだ。
真田がこうだからと言って、別に自分に何か困る事が起こるわけじゃない。
落ち着いて落ち着いて。
「・・・分かったわよ。私が調べれば良いんでしょ。」
「ああ。わ・・・」
「わ?」
「・・・いや。なんでもない。」
分かれば良い、と口をついて出そうになった真田は、ぐっと言葉を飲み込んだ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
疲れる。
此奴と2人はまだまだ疲れる。
世の中には良い奴かどうかに関わらず、相性の良い奴とよろしくない奴が居る。
千百合と真田はお互いと居ると、それをとてもとてもよく実感する。
「ふう・・・・」
「・・・おい。」
「何よ。」
「溜息を吐くくらいなら俺の傍に居なければ良いだろう。」
その言葉も飲み込んだ方が良かったんじゃない、と真田に突っ込む人は大勢居るに違いなかった。
でもこれは言う。
もし喧嘩になっても、その末に離れて行くだろうからもうそれ以上悪化はするまいと思った。
此奴の隣に居るの本当嫌とか思われながら、傍に居られる趣味は無い。
「・・・・・嫌。」
「おい。言っておくが俺は・・・」
「勘違いしないで。別にあんただけの為に頑張ってるわけじゃないわよ。」
「・・・春日か。」
「そ。」
唯一の同クラスとして、都度都度間に入らねばならないのはもう半分宿命みたいなものである。その面倒な役を、紫希は困った顔はすれど、うんざりした顔は一切しないで何時もやってくれる。
しかしそれに対して、お前らいつまで甘えてるつもりだよと言われれば、正直千百合も真田も返事に窮する。
時が解決してくれる気配は感じられるようになったものの、正直このままでは亀の歩み過ぎて年単位先になるやもしれない。
だから無理のない範囲で意識して一緒に居ないと。
「後、精市の為かな。」
「幸村の?」
「当たり前でしょ。あんたは精市の一番の友達なんだから。」
「・・・・・・」
一番の友達。
幸村にとって自分がそうであると言う自覚は真田にはちゃんとあるが、千百合もそういう風に思ってくれているのだと思うと、
真田はなんだか感慨深い。
それと同時に、ちょっと居心地も悪い。
なんだか自分が一方的に意地を張ってるみたいで。
(いや!確かに入学前は多少そういう気持ちがあったのは事実だが、今は違う!俺とてちゃんと此奴の事を、幸村の掛け替えのない恋人だと思っているのであってだな、)
「・・・黒崎千百合。俺もーー「ま、一応ね一応。暫定で。今はって話だから。」
「あのな!だからどうしてお前はそういう・・・!」
「あ、ちょっと。」
「む?」
ひらん、ひらん、と真田の足元に落ちる紙。
「それ。」
「・・・ああ。ヒントだな。」