Solicitation:4th game 4 - 5/7


柳生の案内で、Bチームは件の鍵の置き場所に向かった。
向かったのだが。

「・・・なあ、鍵の置き場所って・・・」
「此処です。」
「って事は一番近い本棚って、あそこだろい?」
「そうなるな。」

「えーーー!あんな高い所手が届かないよー!」

鍵の保管場所はデスクの隣のちんまりした一角で、すぐに特定できた。
しかし周りに本なんてないじゃない・・・と思っていると、柳生がすっと上方を指差したのだった。

高い高い位置にある吊戸棚。
その中に本が10冊ほど片されている。

「梯子が要るな?取って来るから・・・」
「いや、良い。どの道、其処らの梯子では届かないだろう。」
「えー?じゃあじゃあどーするのー?あ!分かった、テニスだ!」
「テニスでどうしろってんだよ?」
「あの棚の下へ行くっしょー?んで、思いっきりばっこーん!ってやったら、ゆらゆらーってきて落ちてくるよ!どお?あったま良いー!」

紀伊梨的には、マリオがブロックからコインを出すかの如く、下からゴン!とどついたらポロッと落ちて来るに違いない、と思っている。
確かに、条件が重なれば出来ない事はない、場合もある、かもしれないが。

「無理言うなよい。」
「えー?出来ないのー?」
「いや、それは出来ないだろ!」
「あのぎっちり詰まった本棚では、多少揺らしても弾みで落ちたりなどしないでしょう。力任せという事になると、それこそ棚ごと壊す勢いが要るでしょうね。」
「でも他に方法あんのー?」
「勿論です。あれですよ。」

柳生が指差したのは、少し離れた所の壁に据え付けられている梯子である。

「えー?でもあれも高いとこにあるよ?手が届かないし、なんだか短いし!」
「短いのは折り畳み梯子だからだな。」
「折り畳み・・・って事は、あれは伸びるのか?」
「つまり、あれを伸ばして移動させれば取れるって事だな?」
「ええ。そして伸ばすためには・・・」

梯子の上方。
其処に、なんだか梯子の色と全然違う木材が挟まっている。

「おお!何か変なのくっついてるよー!あれなーに?」
「あれが楔の役目をしているというわけだ。あれが噛んでいるから、あの梯子は今伸ばせない。」
「つまり、あれを外せば梯子は下りると言うわけです。そしてその方法は先程五十嵐さんが仰ったとおりですね。」
「んお?」
「テニスですよ。」

ラケットを振りながらにっこり笑う柳生。

つまり、ボールを跳ね飛ばして梯子にかかっている木の楔を、弾くなり落とすなりなんなりしなくてはいけないのだ。

「コントロールよりは、今度は勢いを要求されるな。」
「そうですね。障害物を飛ばさねばならないわけですから。」
「はいはいはーい!やりたいやりたーい!」
「出来んのかよ?」
「やってみるくらい良いじゃーん!それにさっきよりは簡単そうですよっ!」
「確かに、さっきと比べたらボールの扱いはそれなりに簡単だけどな・・・」

それでも結構難しい。
標的の位置が前じゃなくて上方だし、マシになったとはいえコントロールは要求される。

「ですがもし失敗しても、だからと言ってペナルティなどあるわけではありませんので。やりたいと仰るなら、五十嵐さんがやって下さって結構ですよ。」
「ほんとっ!?やったー!流石やーぎゅ、話がわかるー!」

「柳生って、五十嵐の扱い上手いよなー。」
「妹が居るというデータがある。つまりそういう事だろう。」
「あ、成程。」
「因みに柳・・・成功確率とかって、分かるのか?」
「そうだな。大凡だが、今の状況と五十嵐のスペックから考えるとーーー」

「よーし!やっちゃうぞー!」

さっきみたいな細かい要求は流石にキツイが、これなら自分でも出来る気がする。

ブンブンとラケットを景気よく振り回しながら、トスを上げて。

「せーいやあーーー!」

パコンッ!と良い音がして、ボールは伸びる。

伸びて、伸びて。

ポカッ!

「いてえっ!」
「うおっ!?跳ね返ったー!桑ちゃんごめーん!」
「成功確率、18.92%。まあ、厳しいな。」

狙いを僅かに逸れたテニスボールは、跳ね返って桑原の額にクリーンヒットした。

「いててて・・・」
「いけると思ったのになー。」
「勢いは良いと思いましたが。」
「コントロールが甘いだろい。的もそんなに大きいわけじゃねえしな。」

成功確率、18%。まあ控えめに言って、5回の内4回は外す。

「ねーねー、もっかい!もっかいさせて、もっかい!」
「止してくれ、俺の額がもたない・・・」
「そんなに何度も外さないよー!」
「いいや、こういう時痛い目を見るのは俺なんだ。頼むから止めてくれ、俺がやる。」
「おや、桑原君。立候補ですか?」
「ああ。」

肌の色の所為でちょっと分かりにくいが、若干赤くなったおでこをさすりながら桑原は前に出る。自分が貧乏くじ体質なのはもう知っているし諦めているから、せめて防がせて。自衛させて。

「俺がやろっか?心配しなくても、外したりしないけど?」
「ブン太はもっとコントロールの厳しい所で頑張ってくれよ。」
「やりたかったなー。ねーねー、次も簡単ぽかったら私がやってみて良い?」
「ええ、勿論。危なくなければ。」
「わざとじゃないってー!」
「わざとじゃないから危ないんだ。」

そう、此処は狭い。
おまけにさっきと違ってソフトに打っても目的は果たせないから、紀伊梨でなくても外すと直ぐ跳ね返ってあらぬ所へ飛んで行ってしまう。

(いやいや、落ち着け!確かに俺はコントロールには今一つ自信がないけれど、この位なら出来る筈・・・!)

「・・・ファイヤー!」

パアン!
と鋭い音がして、梯子の根元から2方向に何かが飛んだのが見えた。

そしてその直後、カシャンカシャンという音が鳴り出す。

「おーー!凄い凄い、梯子が伸びてるよー!」
「流石ですね、桑原君。コントロールは今一つと仰っていましたが、十分お上手では?」
「いや、まだまだなんだ、本当に。謙遜とかじゃなくて、うちはそういうレベルの部だからな。」
「その自覚がある、というだけで纏める側としては有難いが。」
「やっぱり向上心の有る奴のが伸びるって感じ?」
「それも勿論だが、自分の長所と短所を自覚出来ない者はそもそも甘い。敵を知り、己を知れば百戦危うからず、という奴だ。敵を知るのは俺の仕事だが、己を知るのは各々で心がけて貰わなければ、話にならないからな。」

そういう意味では柳は今こうして一緒に居るテニス部メンバーは、実に見所があると思っている。表面上はどうあれ、皆それぞれ自分の事をかなり現実的且つ正確に評価しているからだ。

「よっしゃー、梯子だ梯子だー!ねえねえ、登って良いー?」
「「「「駄目。」」」」
「なんでー!?」
「危ねえからだよ。」
「足でも滑らせては洒落になりませんからね。」
「滑らせないよー!」
「お前それは、さっき梯子から落ちて仁王を下敷きにしてた奴の台詞じゃないだろい。」

登るだけなら身体能力的には全く申し分ない。
申し分ないが、如何せん注意力が足りない。
あれをやりながらこれもやる、が紀伊梨はとても苦手なのである。

「良いから黙って待ってろい、取って来るから。ジャッカルが。」
「俺かよ!ったく・・・」
「すみません、お手数をかけます。」
「ああいや、別に良いんだ。良いんだけど。」

良いんだけど、極当たり前みたいに自分に振ってくるのがギョッとするのである。

本棚の中の、たった1冊の赤い本を抜いて桑原は下りてきた。

「栞も挟まってるし、これであってるな。」
「よっしゃー!じゃあ早速ヒントを・・・」
「その前に。」

本を開けようとする紀伊梨の手を柳生が制した。

「どったの?」
「今度のヒントを当ててみたいので。構わないでしょうか?」
「え!?それって、書いてあることが分かるの!?もしかしてやーぎゅがかけてるのって、物が透けて見えるスーパー眼鏡!?」
「違います。」
「俺も当ててみて良いだろうか。」
「マジかよ、お前も分かんの?」
「構いませんよ。答え合わせといきましょう。書いてある言葉は・・・」

「「GREEN。」」