Solicitation:4th game 4 - 7/7


幸いな事にこの広い書庫には見取り図があって、北がどちらかもちゃんと書かれている。
だから北ってどっち?なんてボケはしなくても良くて、Aチームはちゃんと真北を目指す事が出来た。

目指すだけは。

「・・・・・」
「春日、下がっていろ。顔色が悪いぞ。」
「すみません・・・」

「ほんとにこっちが北なの?」
「残念だけれど、地図場ではここ以外に最北は見当たらないね。」
「まあ、何処かしらでこういう目には遭うぜよ。そういうゲームじゃき。」

室内階段を上がり、吹抜けを見下ろしながら2階部分の廊下を歩き。
此処を真っ直ぐ進めば最北ですね、と思っていたら、なんとどっこい。

床が抜けている。
落ちたら怪我は免れまい。

「何でこんな事になってんのよ。」
「多分、あっちにある背の高い本棚の為だろうね。アレを移動できるように、此処の床は跳ね橋みたいになっているんだ。」
「関係ない。要はその跳ね橋を下ろせば済む事だ。」
「まあスイッチの所在はこっちから丸見えじゃき。」

抜けた床の向こう側の壁には、確かにそれらしきスイッチがある。

「棒無いか、棒。」
「おい、黒崎千百合。念の為に聞いておくが、まさか長い棒を探してきてその棒で押すなどと言うまいな。」
「言うわよ。」
「今求められているのはそういう方法ではないだろう!」
「はあ?知るか。要はあれを押せばいいんでしょ、方法とかどうでも良いわ。」
「ま、まあまあ・・・どちらにしろ棗君の性格上、棒を使うとかの手段は潰していると思いますし、」
「結局、正攻法が一番のショートカットだからね。こういう場合は面倒だからこそ、直球で解決するべきじゃないかな。」
「お前さんらしい意見じゃのう。」
「そうかな?まあ仁王は搦め手の方が好きだから、そう映るかもしれないね。」
「いや、そうじゃなくて・・・まあええが。」

正攻法を推せるのは、正攻法で押して押し切れる実力があるからこそである。
それが必ずしも出来ない事があるから、人は他の方法を模索するのであって。

「兎に角、先ずはやってみんといかんのう。」
「無論だ。方針は明快なのだから、行動に移すべきだな。」
「っちゅうわけで、春日。やってみんしゃい。」
「・・・え?」

完全に不意を突かれた。
何故だ。何故そうなる。

「ま、待って下さい!私失敗してしまいますから、」
「じゃから言うとるんじゃ。」
「どういう理屈よ。」
「春日。別に失敗しても良いんだよ。外したからって取り返しがつかないとか、そんな事は無いんだから。」
「でも・・・」
「そうじゃ。失敗しても構わんから、今の内に練習がてら打っときんしゃい。」
「う・・・」
「黒崎、お前もじゃ。春日の次はお前じゃき、そのつもりでな。」
「はあ?」
「練習じゃ、練習。最終ゲームが何なのかは知らんが、テニス絡みなのは間違いないじゃろ。」

だから出来なさそうな人から優先してやらせて、最終ゲームまでにちょっとでも慣れて貰おうと言う魂胆である。
なあに大丈夫、例え全員外しても幸村だけは外さないさ。と思えるから提案出来ることでもあるけど。

(私達、企画者ですから最終ゲームが何なのかは知ってますけど・・・)
(知ってるだけに言い返せない・・・あれ思いっきりテニス絡むからな、くそ。)

「わ、分かりました・・・兎に角やってみます・・・」
「紫希、あんまり無理して前出るな。危ないから。」
「はい・・・えいっ!」

紫希の打球は真っ直ぐ伸びた。

真っ直ぐに伸びて、スイッチ・・・ではなく、その隣のスペースにガツンと跳ね返った。

「きゃ・・・あ、あれ?」
「大丈夫かい、春日?」
「幸村君・・・有難う御座います。」

紫希の打球はある意味見事に自分の所まで帰ってきた。
こういう時、運動が苦手だと反射的に体が動いてはくれない。

完全に頭にぶつかるのを覚悟したが、その前に幸村が処理してくれた。

「綺麗に跳ね返ったのう。」
「しかし、狙いが甘いぞ。もう少し前に出るか、出来ないのならば代わりに腕の振りをもう少し素早くして、重心を腰に据えてだな、」
「はい、ごめんなさい・・・」
「お前は「失敗した人間に追い打ちかけないと死んでしまう病」かよ。紫希、気にしなくて良いよ。」
「誰がそんな妙な病の罹患者だ!」
「あ、あの、気にしなくて良いと言ってくれるのは有難いですけれど私が下手なのは本当ですし、真田君も追い打ちではなくて教えて下さってるだけなので、」
「まあまあ。弦一郎も、春日に向かってあんまり無理を要求してはいけないよ。元々運動は苦手なんだし、此処は高くて床も抜けてるしね。何かを怖がりながらプレイしても、上手くいかなくて当たり前だ。」
「む・・・・」

(いかん、どうしても猛獣使いに見えてしまうぜよ)

知り合ってから2ヶ月になるが、真田に対して何かを言い聞かせられる存在と言うのは希少種なんだなという思いは、日に日に深くなるばかりである。
紫希も宥める事は出来るが言い聞かせるとまではいかないし、幸村と柳くらいの物ではないだろうか。
そのメンバーに千百合が入らないから、事態はややこしいのであろう。

「さあ次じゃ。黒崎。」
「はいはい。」

ああ、お鉢が回ってきた。もう怠い。

「千百合、もう少し膝を曲げてご覧。もう少しで良いよ。」
「ん。」
「うん。それから右足をもう半歩引いて。少し角度が必要だから、横の腕の振りを意識すれば出来るんじゃないかな。」
「ん。」
「おい、聞いてるのか!」
「聞いてます、聞いてます!返事はちょっとだけ素っ気ないですけれど、千百合ちゃんはちゃんと聞いてますから・・・」
「聞いてるんなら流石にもう少し、相応の返事をしてもええと思うがの。」

千百合にとってはこれは一応「相応の返事」に値するのである。
一応。
傍目には見づらくても。

「よっ。」

軽ーい感じで千百合はポンッと打った。

そして、さも当然の様にボールはスイッチの所を綺麗に押したのだった。
ギギギと軋みながら跳ね橋が降り始める。

「凄いです千百合ちゃん!」
「うん。綺麗なフォームだったよ千百合。」
「ありがと。思ったより上手く行った。」

「何故出来るくせに普段からやらんのだ・・・!」
「まあ、出来る事があるのとそれをやるのとは別の話じゃき。」
「出来るのならやらんか!大体そういう仁王、お前ももう少し「ああ・・・ほら。もう通れるようになったダニ、その辺は後でな。」

仁王も、自分の事に突っ込まれると流石に弱い。
実際、ちょいちょい授業をサボったりもしているので余計に。

「で?続きは何だっけ。」
「藍色の双子のその中、です。藍色って言うのは、本の色だと思うんですけれど・・・」
「双子という部分が解せんな。」
「双子か。単に同じのが2冊あるっちゅう話か・・・」
「若しくは、上下巻。シリーズものって言う可能性もあるね。」

件の本棚の中から、藍色で2冊括りの本を物色し出すAチーム。

大きい本棚ではあるがそれでも限度はあるし、色まで限定されると結構絞れる。
千百合が探した海底2万リューの上巻からカードが見つかるのは間もなくであった。

「おお。」
「見付けたんですか?」
「うん。でもよく分かんない。」

千百合の手の中のカードには、「**??*****?」。
成程、分からん。

「それは、当て嵌めだよ。」
「当て嵌めだと?」
「そう。元々のヒントに書いてあった文字数と、*の部分の数が一致するだろう?」
「1、2・・・ええ、確かに。」
「で、この埋まっとらん?の部分にEを入れるっちゅう事か?」
「待て。?の部分に共通の文字が入るのは予測できるとして、何故それがEだと分かるのだ?」
「それがこれだよ。」

幸村が取り出したのは、紀伊梨と仁王が見つけたリボン。
そこにはヒントとして、こう記されている。




HINT:SideA
エネルギーとその方向
数の奥底で
輝く電子の名は





「これの指し示している答えが、Eっちゅう事か?」
「うん。」
「どういう事ですか・・・?」
「それ程難しくは無いよ。「エネルギー」「エネルギーの方向」「数の底」「電子の名」これらは何と呼ぶか、っていうだけのなぞなぞさ。」
「いや、わからーーー」
「成程、エネルギーはE。そして力の方向、ベクトルの単位系数もEというわけか。」

分からないから。
と続けようとした千百合は、あっさり遮られた。

「数の底、っちゅうのもEか?」
「そう。自然対数の底を小文字のeを使って表現するんだ。」
「電子の名と言うのはなんですか?」
「これは単に電子そのままの事だろう。e-と書いて、電子を表す事が分かっていれば、然程難しくは無い。」
「あんたらなんでそんな事知ってんの?」

勉強が出来るとかって、そういうレベルじゃねえぞ!な知識量の幸村と真田は、本当に12才なのか千百合的には疑わしい。
大人でも今の会話が分からない人はそれなりに居るだろう。

「凄いです2人共・・・私ももっと色々知らないと、」
「いや、もう十分よ。良いよ。」
「おい、何を言う!知識があるのは素晴らしい事だ、それに向かって進もうとしている友人を止めるなど、何を考えているんだ!」
「嫌よ。只でさえ紀伊梨は人外に片足突っ込んでるのに、紫希まで仲間にしてなるもんか。」

向上心があるのは良いと思うけれど、年相応に可能な範囲でやって欲しい。
今もう既に周りが常識から外れたスペックを持ってる奴で溢れているのに、数が増えるなんて。

「人外・・・彼奴も言うのう。」
「ふふっ。千百合はああいう所、少し大げさなんだよ。俺達なんて、少し他の人より出来るだけなのに。」

(もう突っ込む気も起きん)

兎に角、2つ目のヒントも滞りなく手には入れられた。
次だ。

「あ。良かったね。」
「ふふっ。うん。楽しみだ。」