「僕らのー口笛はー、遠く遠くあの虹をー・・・ううううあああああーーーーん!もーやだあー!誰かー!もー誰でも良いから誰かー!」
入ってから暫く。
歌う事で恐怖を誤魔化していた紀伊梨の精神は、もう限界さんであった。
もう此処から出ちゃおうかしら、という気持ちと、いやいや皆こんな暗い中ライト1本で頑張っているのに、自分だけ逃げるなんてそんな、という気持ちの間でせめぎ合い。
実は今紀伊梨以外の全員が、敵チームととはいえ2人行動出来ている事を、紀伊梨だけが知らない。
(ううう、怖いよう、怖いよう、怖いよう!)
せめてライトがもう少し大きければ良いのに、と願う紀伊梨の目には、ジッとしてるには十分明るいライトがとてもちっぽけに見えてしまう。
「助けてえ~・・・」
「あれ?五十嵐?」
その声。
その姿。
そのタイミング。
正しく、後光が差して見える、神の子どころか神そのものーーー
「って、眩しい!眩しい眩しい、明るすぎるよゆっきー!」
「ああ、ごめん。下に向けるよ。」
「・・・なんですかい、そのライト!?」
「ふふっ。これは、特製ライトだよ。とは言っても、ライトを5本束ねただけ、なんだけれどね。」
チーム毎に1人1本、計5本づつ与えられるライト。
その全てを幸村に預けると言うのが、Aチームの作戦だった。
「明るいだろう?仕組みは単純だけど、かなり強力なんだ。」
「ほえー!すっごーい・・・って!」
紀伊梨はハッと顔を上げた。
「・・・ねーゆっきー、此処に5本あるって事は、紫希ぴょんや千百合っちはライト・・・」
「無いよ。」
聞いただけで血が下がる紀伊梨。
これには幸村も苦い顔になる。
「危ないから、そういう意味ではデメリットも多い作戦なんだ。効率という意味では確かに良いんだけれど、それでもね。」
「危ないって言うか、それより怖いよー!ゆっきー、ひどーい!こんな暗い中で女の子放りだすなんてさー!」
現時点で、この神の子に向かって痛い所を遠慮なく突ける人間が居るとすれば、それは紀伊梨に他ならないだろう。
ああ、刺さる刺さる。
「・・・仕方がないんだよ。勝つ為だ。」
「勝つ為って言ったってさー!もー!紀伊梨ちゃんだったら、ぜーったいそんな作戦きょーりょくしないよ!ライト無しとか有り得ないーっ!」
幸村の言う事は正しい。
効率という点では、この方法に勝る方法は無い。ある程度運が必要とされるとは言え、上手くBチームのコバンザメになれさえすれば、実質Aチームは紀伊梨のそれを除くとしても、ライトを9本持っているのとそう変わらない。
この暗闇で、それはあまりにも大きいアドバンテージだった。
ただ、心情的にやりたくないという気持ちも、幸村は十分持っていた。
紀伊梨の言う事も又正しい面があると思う。
「だからこそ、俺は早くゴールを見つけないと。皆頑張ってくれているんだからね。」
「う・・・・」
「じゃあ、俺はもう行くよ。」
「あ!ま、待って!紀伊梨ちゃんも一緒に・・・」
「一緒に?」
「連れてってよう!1人怖いもん!」
縋る様な目つきの紀伊梨に、幸村は苦笑した。
「気の毒な様だけれど、怖いならばこそ、ここに居た方が良いと思うよ?」
「でも1人だよ!」
「でも明るいよ、その代わりに。此処は暗いけれど、其処の扉を開けさえすればもう廊下だ。廊下は日が差してるから、怖くないと思うんだけど。」
「うむ・・・」
「五十嵐。ずっとここに居たんならあまりピンと来ないかもしれないけれど、此処の先に進んで行けば、基本的には出たいと思っても直ぐには出られないんだよ。例え誰かが傍に居るとしても、逸れるかもしれない。そうなった時、怖いから一旦明るい所に行って落ち着こうと思っても、出来なくなってしまうんだ。」
「う・・・ううう~~~!」
そう言われると意思の揺らぐ紀伊梨。
「Bチームの皆も、五十嵐が怖がると分かっていて、此処に居て良いと言ってくれたんだろう?無理と思ったら、直ぐに廊下に戻れるように、って。違うかい?」
「ぬ・・・・」
「だから、俺について来なくても・・・いや、ついて来ない方が良いんじゃないかなと俺は思うよ。これは敵だとか味方だとか関係なく、友達としての忠告だけど。」
幸村だって、今入口に戻ってきたのは、言うなれば偶々。
入口方向に足を向けてみたら、おっと、出られたか、という程度の事。
途中で怖い、出たいと紀伊梨が言い出しても意図的に連れ出してやれるかと言われると、かなり辛い。
「だから、此処に居た方が良い。」
「・・・・・・・」
「心配しなくても、ゲームが終われば流石に照明が点くよ。そしたら、」
「やだ・・・・」
ぐ、と歯を食いしばって紀伊梨は言う。
「でも、」
「だって、皆行っちゃったんだもん!幾ら明るくたって、皆が居ないと怖いだけだよ!」
紀伊梨は確かにホラーが苦手である。
暗い所もスプラッタも、お化けだとか幽霊だとかも大嫌いだ。
でも、明るい所から離れるよりも、1人で居る方がより怖い。より堪える。
それなら暗くても良いから、誰かと一緒が良い。
それが信頼のおける親友なら、尚更だ。
「五十嵐・・・」
「お願いゆっきー、連れて行ってよう、一緒に行こうよー・・・」
「・・・やれやれ。しょうがないな。」
幸村は諦念気味に小さく笑った。
多分、今此処で突き放しても紀伊梨は後を追ってくるだろう。
付き合いが長いからこそ分かる、という奴。
「連れてってくれるの!?やったー!ありがとゆっ「ただし、条件がある。」きー?」
再三言うが、幸村だって皆を、特に千百合を、暗闇で孤立状態のまま放置するなんてしたくは無いのだ。
勝つ為に必要だから仕方なくやっているだけで、進んでそうしたいと思ってるわけじゃない。
あれこれ我慢しているのは勝つ為であるのに、此処で紀伊梨に情けをかけた結果負けたなんて事になったら、もう目も当てられないじゃないか。
「俺と一緒に居るのは良いよ。」
「お、おう・・・・」
「でもその代わり。」
「・・・代わり?」
幸村はそれは良い笑顔で言った。
「五十嵐、君のライトも貰おう。異論は無いね?」