「ふむ・・・・」
柳は立ち止った。
行き止まりだったので引き返さなければならない。
「戻らんとな。」
「ああ。右にはまだ行っていなかったから、そちらにするか。」
と言って振り返った矢先。
「柳?」
「仁王君、ですか?」
パッと横から照らされたと思えば、紫希と桑原の姿。
「お前達もこの辺りに居たのか。」
「お互い、お疲れさんじゃのう。」
(春日を連れている、そして春日も又手ぶらと見える。という事はやはり、)
(作戦は上々のようじゃな。)
紫希が捕まえたのが桑原だったのは、非常にラッキーと仁王は思う。
紫希に「敵だけど可哀想な自分に情けをかけて連れて行ってくれ」という交渉は如何にも難しいと思っていたが、丸井と桑原はかなり頼みやすい手合い。
良いぞ良いぞ、の意を込めてこっそり紫希に頷いて見せる仁王だが、紫希としては戸惑い顔しか返せない。
結果として上手くは行ったけど、実は自分から交渉もしてないんだ。
何を言う前に連れてってあげようと言われ、どの道お前は助かるとか言われて、あれよあれよという間に此処に来てるだけで。
「そっちに行ってきたのか?」
「ああ、行き止まりだった。引き返さねばな。」
「分かった。柳はどっちに行くんだ?」
「俺は右を未だ見ていない。其方へ行こうと思う。」
「分かった。なら、俺は左に、」
「待て、桑原。」
「え?」
「仁王を連れて行け。」
ほうれ、来ると思った。
紫希はぎょっとした顔をどうしてもしてしまうが、仁王はこうなると分かっていたから何処吹く風である。
「え・・・待て、それは俺が2人連れて歩くって事か?」
「いや、選手交代じゃろう。参謀もどうせついて来られるなら女子の方が良いっちゅう話じゃ。のう?」
(それ、通るんでしょうか・・・)
Aチームとしては、1対3になるのは避けたい展開である。
如何に相手のライトに頼って探索するかを考えるのなら、Bチーム1人に対し1人付いているのが一番良い。
これが覆ると、バラバラに動けない分効率が落ちる。
仁王もそれを見越して、わざとそらっとぼけて見せているのだが。
「再三言うが、仁王。俺にそれは通らない。桑原と行って貰う。」
ですよね。
紫希と仁王は内心でシンクロしている。
「良いか桑原、この状況はBチームの作戦だ。」
「作戦!?」
「そうだ。この2人は今、俺達のライトを借りて迷路探索しているも同じ。恐らくライトを一極集中して使う事によって、特定の誰か・・・まあ幸村の探索スピードを上げているんだろう。」
「え・・・」
恐ろしい。
参謀の名に恥じない、作戦の掌握ぶりに、紫希と仁王は内心でかなり焦っている。
「とはいえ、流石にこの状況で1人放置をするのも少々考え物だった所だ。仕方なく同行していたが、これで少し楽になる。」
「分かった。」
「頼んだぞ。お前達も、大人しく桑原について行け。」
此処で無理に柳を追おうとすると、桑原は柳を庇うだろう。
其処で追撃すると、「相手を襲った」としてペナルティになりかねない。
どうする、と言いたげな紫希の視線を受けて、仁王は小さく息を吐いた。
「・・・仕方ない。従うぜよ。」
「理解が早くて助かる。・・・それから桑原。」
「ん?」
柳は一言だけ、桑原の耳元で何かを囁いた。
「えええ・・・」
「頼む。」
「・・・分かった。」
軽く手を振り合って、柳は再び闇へと消えて行く。
「じゃあこっちも行くぜよ。」
「お前は連れてってもらう側なのになんでそんな偉そうなんだよ・・・」
もう完全に開き直りきっている仁王。逆にこっちが困る。
かといって。
「すみません、桑原君・・・」
「あ、いや、別に春日に文句があるわけじゃ。」
こうしおしおとされるのもちょっと弱る。
「それに、仁王は兎も角お前に関しては、俺の方から一緒に行こうって言い出したんだしな。」
「ほう?そうじゃったんか。やっぱり女子を見捨てて行くのは可哀想か?」
「それもちょっとあるけど、どうせブン太が後後助けるだろうなと思ってな。」
「ああ、それもそうかもしれん。」
「???」
(やっぱりよく分からない・・・仁王君はどうしてわかるんでしょう?)
丸井が自分を助けるだろうと2人共言うが、何故当たり前のようにその推測が出て来るのだろうか。
「分からん、ちゅう顔しとるの。」
「まあ、本人はそうだろうな。逆に仁王は分かるのか?」
「少なくとも、丸井の運の強さと春日に良く構う事は分かるナリ。」
なんだかんだピンチを切り抜ける事の出来るタイプである事は、今日1日一緒にゲームしていてよく分かる。
紫希を気にかけているのは、それこそライブの作戦の時から知ってるし。
(良く構う・・・)
「・・・・・」
「春日?どうかしたか?」
「・・・私、やっぱりもう少ししっかりしなくてはなりませんよね。」
「「ん?」」
話の流れおかしくないか。
「なんでそんな話になるんじゃ。」
「丸井君はお優しいですから、頼りない私を日頃からそんなに心配して下さっているんだなあと、つくづく・・・」
「「違う、そうじゃない。」」
この2人の意見が此処まで合うのも珍しかろう。
「あれ?でも、そういう話を今なさってるんでは・・・」
「してないしてない。」
「こりゃあ丸井も苦労・・・いや、せんな彼奴は。」
忘れがちだが、丸井は紫希を「友達として」気に入ってるのだった。
本人も友達と言ってたし認識してるから、苦労は別にしないだろう。
忽ちは。
無意識下でどうなのかは知らないけど。
「???」
「まあ兎に角、お前さんが思うとるような理由じゃないぜよ。」
「そうそう。ブン太が春日を構うのはまあ・・・趣味みたいなものというか。」
「趣味・・・!?」
「言い得て妙じゃな。」
「えええ・・・・」
ますます解せない紫希だが、桑原は自分で言っておいて上手いなと思った。
かなり的確な表現だ。基本、丸井は自分の為に紫希を助けているような物だから。
そう。
だから。
「・・・だから、今回のゲームでもきっと助けてくれると思う。」
「そうでしょうか・・・」
「おう。だから・・・
・・・俺は、失礼しても良いよな?」
「「え、」」
紫希と仁王が発言を咀嚼する前に、桑原は駆け出した。
「あ!あの・・・」
「悪い!でも2人居るなら大丈夫だろ、なんとかしてくれ!」
「春日、追うな。俺達じゃ彼奴の足には追いつけん。」
そう、この2人では追いつけない。
柳と違って自らが迷う事を厭わない桑原は、幾らでも走れる。
元々部内でも足自慢なのに、紫希と仁王が敵う筈もないのだ。
遠ざかっていく足音。
それが消えた頃には、とっぷりとした闇が2人を包んでいた。
「さて。どうしたもんか。」
「あ、仁王君そちらですか。」
「おう。こう暗くちゃ、ぶつからんようにするだけで一苦労じゃの。」
常に何か話してないと、お互いの居る方向もわかりはしない。
おまけに困ったのが、作戦がもうあちらに漏れているという事である。
次Bチームと合流できても、もう連れて行っては貰えないと見て良い。
いずれはこうなると思ったが、予想以上に見破られるのが早かった。
「・・・あのう、仁王君。」
「ん?どうした。」
「こっち、行けそうなので、行きますね。」
「動くんか?」
「?ええ・・・元々、そういう作戦ですよね?Bチームに出会えない時も、のろのろで良いから探索は続けると・・・」
(此奴は本当に怠けんのう。)
やれ、と言われて分かった、と一度返事をしたら、紫希は絶対それをやる。
きついからと言って止めない。
自分で指示しておいてなんだが、もう少し適当に手を抜いても罰は当たらないと思うのだが。
「まあ止めんが、気をつけんしゃい。休んでも構わんぜよ。」
「ええ、どうしても疲れたらそうしま・・・・」
紫希の声が途切れる。
「・・・どうした?」
「・・・何か、光ってます。」
紫希の進もうとした先には、光が。
ライトに比べると遥かにぼんやりしているが、それでも尚、自分を主張する淡い緑色の光があった。
おっかなびっくり近づいて行くと、どうやらそれは床に転がっているらしい。
「これは・・・」