「・・・そういう事か、一本取られたね。いや、見ようによっては、ギリギリ先回り出来ている、かな?」
「何がー?ねー、ゆっきー!」
紀伊梨と幸村は、なんとか目指していた場所。
つまり部屋の最奥ーーーゴールがあるのでは、
と踏んでいた場所に到達していた。
果たして、其処に目当てのものはあった。
一応。
ただ。
「良く分かんないよー・・・歩んだ?ねー、これなんて読むのゆっきー?」
「軌跡。」
「奇跡?」
「奇跡じゃなくて、軌跡だよ。辿ってきた跡、という意味だね。」
「へー!ん?でも、やっぱり良く分かんない!」
2人の前には、柵。
乗り越えるべからず、と書かれている。
そしてその向こう、30m程離れた所には、スイッチが2つある。
無論、AチームとBチームの物である。
そして、そのスイッチの下には蛍光塗料で書かれた暗号文。
『鍵は汝らの軌跡にこそ置き去りにされるものなり。』
「鍵って、なんの鍵?あのスイッチ?辿ってきた後に鍵が置いてかれてる?・・・???」
「・・・・・・」
紀伊梨は分かっていないようだが、幸村はもう、これを見て読んだ瞬間繋がった。
鍵。つまりあのスイッチを押す術。
そしてこの柵を越えてはいけないという条件。
これはつまり、テニスでスイッチを押せという事である。
ラケットは持ってる。
では、ボールは?
肝心のボールはどこにある?
答えは書いてある。
辿ってきた軌跡。
つまり一度ボールのある所を通過する事で、ライトの光を吸収した蛍光塗料が反応し、テニスボールが光り出す。
それを見つけて、持って来いという事だ。
この暗闇。
この状況下で、テニスボールを自力で見つけるのは難しい。
しかし、発光するのなら話は別だ。
周りが暗いからこそ、闇の中で浮かび上がる希望の鍵は何より見つけやすい。
問題は、である。
それを踏まえて、今の自分たちの状況を鑑みると、だ。
(まずい・・・今こっちのチームは、俺しかライトを持っていない。皆が上手くBチームの後についていけたとしても、どこを進むかは相手任せだし、ボールの取り合いになる。かといって単独で動いていると、ボールはもしかして見つけられても、その後身動きがもう取れない。ライトなしで此処までたどり着くのは、如何にも厳しい。)
どう転んでも、すんなりとはいかない。
一番話が早いのは、幸村が自らボールを探しに軌跡をなぞる・・・要するにボールを求めて逆走する事であるが、折角たどり着いたゴールの位置から又離れるのは惜しい。
ただ、離れるメリットもある。
「・・・仕方ない、行こう。」
「うえ!?此処、ゴールじゃないの!?」
「ゴールだよ。ただ、今の俺達じゃあのスイッチを押せない。鍵を探しに、一旦離れなくちゃ。」
「・・・そなの?」
「うん。」
流石に、敵チームに向かってあれこれ進んで種明かしはしない。
まあ察されるのは時間の問題だろうが、それもまあ仕方がない。
それより何より弱るのは、スピーカー・紀伊梨がこの場に居る事である。
人間の心理とは不思議なもので、ゴールはどこだゴールはどこだと考えながら進んでいると、ゴールでないもの・・・足元に等気を払わない。
だが逆に、仲間の誰かがゴールを突き止めたと分かると、安心感から周りを見回す余裕の出るものが現れだすだろう。
一番ありそう且つ避けたい展開は、紀伊梨がスピーカーを発動し、誰かが「鍵」を持って此処へ真っすぐ来る事。
そうならない為には、自分が紀伊梨を連れて此処を離れれば良い。
「さあ、五十嵐。」
「・・・・」
「五十嵐?」
「・・・紀伊梨ちゃん、此処に居る!」
幸村はライトを取り落とすかと思った。
「五十嵐、忘れてるかもしれないけれど、五十嵐のライトは俺が持っているんだよ。」
「う、うん!」
「此処に真っ暗なまま、一人で残るんだよ?分かっているのかい?」
「う、うにゅ・・・」
段々萎んでいく紀伊梨。
怖くないわけではないのだろう、やはり。
「・・・どうしてそんな事を言い出すんだい?」
「う・・・だって!此処がゴールなんだったら、此処で皆を呼んだらそれで良いじゃん!」
(流石に気づくか・・・)
紀伊梨の言う事は至極尤もである。幸村だって出来るもんならそうしたい。
ただ、今回は取った作戦が作戦だったので、それが通らないのだ。
「だ、だから紀伊梨ちゃん此処に居るもん!ラ、ライトが無いのはちょっと怖いけど・・・皆その内来てくれるから、だいじょーぶだもんねっ!」
「・・・・・・」
「・・・で、出来たらライトは置いて行ってくれたら、紀伊梨ちゃんゆっきーに超感謝するんだけどなー・・・」
皆勝つ為に頑張っている。
紀伊梨は自分が怖いからこそ、自分ばかり怖い怖いと怯えていられないと思っていた。
まあそれを差し引いてもAチームの作戦は酷いと思うけど。
だから此処に居続けることが皆の為になるのなら、紀伊梨はそうしたいのだ。
怖いけど。すんごく怖いけど。超絶怖いけど。
「・・・五十嵐の考えは分かったよ。」
「お、おう!うん!」
「ところで五十嵐、ちょっと俺の話を聞いてもらえるかな。」
「うん?」
「このワインセラーにはね・・・」