「ふぃゆー!これでオッケー?」
「ああ、上々だ。」
今の声量なら、敵味方問わず全員に聞こえただろう。
後は、先着順で誰が来るか。
ボールを持っているか。
スイッチに当てられる技量はあるか。
どちらのチームか。
これで一先ず、運任せの五分五分状態までは持って来れた。
後は・・・
「ふっ。」
「?どったの?」
「いや。神のみぞ知る、という言葉があるなと思うとおかしくなったんだ。」
その神の、その子供と言われているあの男が居る場で神だのなんだの。
「此処か!って、柳に・・・五十嵐!?」
「桑原か。」
「桑ちゃんだー!やっほー!」
「やっほー、じゃないだろ!柳は兎も角、お前はどうして入口に居ないんだよ!」
何かもう、突っ込みたい事が有り過ぎて何から聞けばいいのか分からない桑原。
柳も気持ちは分かる。
「その話は後にしよう。桑原、ボールを持っていないか?」
「ボール?」
「ああ。必要なんだ。」
そう言って、柳が懐中電灯でゴールを照らす。
「・・・あのスイッチを、ボールで押すのか?」
「そうだ。そしてヒントから見るに、そのボールはおそらく道中にある。」
「なら、悪いけど・・・」
「無いか。」
此処で桑原が持っていれば、とても話が早かったのだが。
「戻って探すか?」
「そうだな。幸村が先行しているから今更追えまいと思っていたが、かといって此処にあまり大人数で居残る意味も無い。」
「えっ!?行っちゃうの!?」
「心配するな、2人揃って居なくなったりはしない。」
「ああ・・・五十嵐を1人で置いていけないもんな。」
「それもあるが、もしかしたら柳生や丸井がボールを持ってくるかもしれない。丸井なら良いが、センスがあるとは言え初心者の柳生に、この暗がりでボールをスイッチに当てろと言うのは如何にも厳しい。」
この柵。
此れの向こうに行ってはいけないという事は、単に手でスイッチ押すなというだけの意味合いではない。
もしも狙いを外して失敗して、柵の内側にボールが落ちても、取れないのだ。
この競ってる状況で、ボールの再捜索からするというのは避けたい。一発クリアしたい、何としても。
「なら、俺が探しに行く方が良いな?」
「ああ。手間をかけてすまないが。」
「いや、良いさ。じゃあ行ってくーーー」
「やだあ!」
紀伊梨がハシッと桑原の腕にしがみつく。
「お、おい・・・」
「やだやだ、行っちゃ駄目ー!」
「柳が居てくれるから、」
「やなぎーは居てくれるけど、桑ちゃんも居なくちゃ駄目だよー!皆で居た方が怖くないよ、どーしてそうやってバラバラになっちゃうのー!」
「ホラー映画の見過ぎだ。」
怪しい所を1人で確認に行くとか、曰くのある所に肝試し気分で突っ込むとか。
ホラーではトラブルメーカーとして、そういう無謀キャラが1人か2人は見受けられるが、今は別に何も危なくないし、心霊スポットでも何でもないぞ。
「桑原、構わないから行くと良い。」
「でも・・・」
「やだー!駄目ー!」
「五十嵐・・・」
紀伊梨からすれば、1人は残るから1人減っても問題ないでしょとか、そういう問題の話じゃない。
確かに0と1の間には比べものにならない差があるけれど、1より2、2より3の方が良いに決まってるじゃないか、こんな怖い場所で。
「行かないでよう、お願い・・・」
「・・・はあ。」
思わずため息を吐く桑原。
何か既視感と思ったら、この縋る様な目。
もっと遊んで、家に帰らないでとしがみついてくる、丸井の弟そっくり。
「五十嵐、ボールを見つけたら戻ってくるから。な?」
「う~・・・」
「何も、永遠に合流できないわけじゃない。最終的に俺も皆も、此処を目指して進んで来るんだぜ。」
「・・・・・」
こういう所もそっくりである。
絶対又遊びに来るから、約束するからと言ってしぶしぶ諦めるこの態度。
同級生の友達と、友達の弟の幼児との姿が重なるというのもちょっと、悪いけれども。
「・・・絶対だよ!絶対だよ!途中でお化けに襲われそうになったら、走って逃げるんだよ!」
「ああ、そうするよ。襲われたらな。」
「それからそれから、走る時には、助けてー!って叫んでね!絶対絶対、助けに行くかんね!」
「分かった、分かったから。」
そんな事には絶対ならないと思うけど。子供を心配する親のようだ。
「じゃあ、今度こそ行ってくる・・・」
「その必要は無いよ。」
柳は天を仰ぎたくなった。
しないけど、したくなった。
幸村。
とうとう戻ってきてしまったか。
右手にしっかりボールを持っている神の子様はにっこり笑って言った。
「俺達が先にヒントを貰うから、そんなに急がなくても。皆でゆっくり取れば良いよ、後でね。」
「・・・ゆっきー、何か怒ってる?」
「怒ってはいないよ。」
でも、正直少し焦っている。
なんとかボールこそ持っていないようだが、このゴール前に敵が3人も居るこの状況。
明らかにリードされている。
千百合を酷い状況において作戦を飲んだのに、負けるなんてそんなのない。邪魔だ、俺を通せ。
「五十嵐、桑原、柵の前に並べ。」
「えー?でもでも、襲っちゃいけないんじゃ・・・」
「これは襲ってるんじゃない。妨害しているだけだ。此方から物理的な手出しをしない限り、「襲った」とみなされる事は無い。」
さっきから幸村が紀伊梨のライトを取ったり、作り話を吹きこんだり、若しくは柳が単独行動に出る際桑原が前に出てくれたり。
襲うと確かにペナルティだが、交換条件、だまし討ち、通路塞ぎの類は、相手に手を出しているわけではないので、ルール違反とはされない。
「・・・退いてくれ、と言っても退かないだろうね。」
「退かない。俺達は絶対に此処を動くわけに行かない。」
「そーだそーだ!それにゆっきー!紀伊梨ちゃんに嘘を吐いたでしょ、もー!」
「それは謝るよ。悪い事をしたとは思うけど、あの時はああするしかなかった。」
寧ろやっておいて良かったと心底思っている。
あの場で直ぐ紀伊梨に叫ばれていたら、今頃誰かボールを持って紀伊梨と合流して、万事休すだっただろう。セーフ。
(とは言っても、苦しい状況に変わりは無いね。)
流石に3人も前に並ばれると、隙間が少ない。物理的に苦しい。まさかぶつけるわけにいかないし。
というか、この場合最悪なのはぶつかって来られた場合だろう。
幸村がいかに人を避けようと隙間を縫っても、当たられたら幸村が手出ししたとしてペナルティ。当たり屋の原理である。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「や、柳・・・俺達、こうしてるだけで本当に良いのか?」
「でもゆっきーも何もしないよ?だからよく分かんないけど、効いてるんですぜきっと!」
「そうか・・・?」
取り敢えずは幸村が止まってくれてホッとする柳。
しかし安心は出来ない。
その内増援は必ず来るし、そうでなくてもあの幸村が黙って引っ込んだままなんて、そんなアホな。
(幸村も此方が考えている事は想像がつくだろうが・・・しかし、それを踏まえても3人では辛い。ボールが抜けられるくらいの隙間は各所にある。)
そんな、ボールが1個か2個入るくらいのピンポイントな隙間を誰が通せるんだよ、なんて考えてはいけない。
相手は幸村だ。その位のことは平気でする。絶対。
「・・・仕方がないな。」
幸村は呟いた。
取り敢えず待つ。待とう。
どっちチームでも良いから、ボールを持って来た人間が現れるまで待機だ。
今一番最悪なのは、現段階で無理に通そうとしてボール一個無駄に消費する事。それだけは避ける。
多分向こうの柳も、似たような推測はしているだろう。
さて。
次にボール持ってくるのはどっちだ。
と。
思った矢先に声が聞こえたのだが。