「マジでごめん。」
「波」の引いた千百合は平謝りモードだった。
これは言い訳のしようもない。完全に自分が悪い、色々な意味で。
「いや、別にお前の所為ってわけじゃ、」
「いやこれは私の所為よ。卑屈とかじゃなくて、客観的に見て割とマジで私の所為。」
「そんな・・・」
そんな事無い。
と、桑原が言いきれなかったのは、ダブルスしてたから。
桑原と千百合は、ちゃんとダブルスしていた。
だからこそ、最後のあの時、一瞬千百合の意識がテニスから完全に逸れたのを桑原は分かっていた。
「お疲れ様でした、お2人とも。」
「良い試合だったじゃん?惜しかっただろい。」
そうだね、競ってはいたよね、と千百合は心中で呟く。
本来は其処で競り勝てる算段だったのだ。言っちゃなんだが、向こうには紫希が居るのだから。
でも駄目だった。
競り負けた。
なんでかって?だってーーー
「えいっ。」
「っ!?何!?誰、」
首筋にキンキンに冷えた感触がして、千百合は思わず飛び上がった。
「ふふふっ。お疲れ様。」
「・・・吃驚した。」
振り向くと、幸村が冷えたドリンクを持って微笑んでいた。
「・・・精市。」
「うん?」
「・・・・ごめん。」
謝るなら、リーダーの柳生に対してじゃないか、と普通は思う。
若しくはダブルスパートナーの桑原か。どちらにしても、幸村では無かろうと周りは思うだろう。
でも千百合は知っている。
自分はさっき、幸村にも酷い事をしてた。
だから謝らないと。
皆にもすまないと思う気持ちはあるけれど、幸村だって謝られる筋合いがあるのだから。
例え幸村本人は、何故謝られるのかちゃんとは分かっていなくてもだ。
「・・・・・」
目を伏せる千百合。
何時になく大人しいその姿を、幸村は見つめる。
神の子神の子と言われているが、実際問題幸村はやっぱり人の子なのであって、神の子ではない。
サイコメトラーでもなければ、妖怪悟りでもない。
今千百合は自分に対して何かをーーー単に、チームに黒星を齎してしまった、という以上の何かを以て、謝っている。
幸村に分かるのは、今は其処まで。
具体的に千百合は何を気に病んでいて、自分は何をされたのか、それは分からない。
ただ。
「良いんだよ、千百合。」
千百合は顔を上げた。
幸村は千百合と目が合うと、なお一層微笑んだ。
「千百合は何も悪くない。気にしないで良いんだ。」
何をしてしまったのかは知らないけれど。
でもこれだけは言える。
自分は、千百合を信じている。
千百合は、自分の恋人は、思慮の浅い事をして上辺だけ反省するような、そんな子じゃない。
もし千百合が何か失敗をしたのだとしたら、それはきっと避けようのない事。どうしようもない事だったのだろう。
だから、他の誰が許さなくとも自分は千百合を許そう。
千百合の所為じゃない、落ち込まないで笑っていれば良いと言おう。
何時かその、やらかした失敗とやらの中身が分かっても、自分は千百合の味方だ。
それは変わらない。
「さて。では丸井君、次は我々の出番です。参りましょう。」
「おう。」