何か変だ。
何かおかしい。
言い様の無い変さというか、なんというか。
そういうもやもやした感情が、今コートを覆っていた。
「15-15!」
着実にゲームは進行していく。
その間でも。
「・・・・????・・・?」
「おい、何処見とるぜよ、集中しんしゃい。」
「だってー!」
さっきから仁王が気になって気になって、紀伊梨はとても集中出来ない。
何か変だ。
仁王がおかしい。
どこがとは言い表せないのだが、何処かがおかしくて。
でもやっぱり具体的には分からないから、答えを求めて目が何度もボールを無視して仁王の方へ行ってしまう。さっきからその繰り返し。
(お気持ちの方、とてもよく分かりますよ五十嵐さん。)
(俺達でさえ、何か気持ち悪いと思うくらいだからな。五十嵐なんか尚更だろい。)
相手チームの柳生と丸井も、紀伊梨の気にしている気持ち悪さは分かる。
というか、伝わってきている。紀伊梨も違和感の中でプレイしているのだろうが、柳生と丸井もまた、違和感の中でプレイしていた。
そしてその心理の引っ掛かりは、ミスを誘発する。
「あ、やべ!」
上げてしまった。
向こうのチャンスボールだ。
(おお!知ってるよ、これスマッシュ打てるんだよねー!)
今、ボールには仁王の方が近い。
だから紀伊梨は言った。ごく自然に。
「ニオニオ、チャンスだー!いっけー!」
それを聞いて、仁王はにやりと笑う。
さて。
此処に居るのは。
本当にニオニオとやらかな?
「よっ、」
たん、と後ろへ一歩下がる。
足の運び方、身の運び方。
腕の振り方、目の遣り方。
このくらいなら出来るぞ。
これでも友達だから。
「・・・なっちん!?」
棗が。
自分の後ろに居る。
紀伊梨は思わず、完全に相手のコートを無視して仁王を振り返った。
何故だろう。
どうしてなんだろう。
確かに其処でスマッシュの構えをしてるのは、銀髪の仁王なのに。
それなのに。
(なっちんにしか見えない!なんで!?)
ドシュ!とスマッシュがBチーム側のコートに入った。
「・・・30-15。」
棗さえもポカーン状態である。
あれは。
あの動きはまるで。
「・・・え?ん?は?え?」
「成程・・・」
「いや何が成程っつうか・・・ちょっと待て、それ以前にあれは仁王だろい?黒崎じゃねえよな?」
「そうですよ。」
分かった。
何と言われるより、柳生は今この瞬間、はっきりと分かったのだ。
仁王が自分に何をさせたいのか。
つまり。
つまり此奴。
(イリュージョニストになれ、と。そういう事ですか。)
自分と同じ事を出来るようになれ。
そしてダブルスでパートナーになれ。
その先にきっと、自分のやりたいテニスが待っている。
それに付き合え、と仁王は言っているのだ。
「なあ柳生、何が成程・・・柳生?」
「丸井君。」
そう話しかけてくる柳生の声は、とってもとってもとっても。
とーーーーっても怒っている。
「な・・・何?」
「何が何でも勝ちましょう。ええ、そうしましょう。そうでなければ気がすみません。」
「お、おう・・・」
「とはいえ、私はテニスに関しましては初心者です。丸井君に負担をかけてしまう形になりますが、よろしくお願いします。」
「ああ、うん、それは良いんだけど・・・」
「けど、なんですか?」
「・・・いや、いいや。」