「・・・いかんな。」
「はえ?」
「負けじゃ。こっちの。」
「え、えええええ!?なんでー!?なんでなんでー!?まだ負けてないよ!2ゲーム位、」
「ゲーム差の問題じゃないんじゃ。もっとメンタルな話ぜよ。」
勝つ。
絶対勝つ。
何が何でも勝つ。
その勝利への渇望こそが、現実の勝利を引き寄せる。
其処へ行くと、今一番、誰よりも群を抜いて強いのは柳生なのだ。
(何時、何に火が着いたんかは知らんが・・・あれより勝ちたいと思えっちゅうのは今、至難の業じゃな。)
別に仁王だって、負けたいわけじゃない。勝ちたい。
でも、勝つ事と柳生が部に入る事が重なっているわけではないという事が、どうしても仁王の心を柳生程駆り立てない。
紀伊梨だって同じだ。別に勝たないと死ぬわけでもなんでもないし。
でもそれじゃ今の柳生には敵わない。
というか、今の柳生がやる気過ぎる。分からん、いきなりなんだ彼奴。
「・・・・・」
「ま、元々能力的にはどっこいどっこい位じゃったき。こうなったらもう、ひっくり返すのは難しーーー」
「ちょええええーい!」
「てっ。」
ペン!
と軽い音がして、紀伊梨のラケットのガットが仁王の後頭部を攻撃する。
「何するんじゃ、」
「諦めるのは駄目ですよー!最後まで頑張るの!」
「いや、頑張ったとしてもじゃな。」
「頑張った後どーなるかって事は、頑張ってる時には考えないのー!兎に角頑張る!しょーぶはこれから!ほら、野球でも言うっしょー?勝負は9回裏3アウトからなんすよ!」
9回裏3アウトって、それ勝負終わってるやんけ。
と、思いはすれど。
(・・・そうじゃな)
「忘れとったぜよ。」
「お?」
「お前さんはそういう奴じゃった。」
「え?お?そういうとは?」
確かに、勝負にはそんなに拘らない。
勝ったら嬉しいけれど、他愛ない事に負けても、あーん、負けちゃったよー、で済んでしまうのが紀伊梨だけど。
でも、紀伊梨も諦めない。
紫希も諦めない性格だけど、紀伊梨も諦めは大概悪い。
もう勝負はついてるっちゃあついてるようなもんだけど。
「やるか。勝負は9回裏3アウトからじゃき。」
「おー!うんうん、分かってきましたなニオニオもー!おっしゃ、やるぞー!こっからだ、かかって来ーい!」
段々オレンジ色に染まるコートに、紀伊梨の声が響く。