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「さて・・・頂きます。」

紫希は食堂の一角で、1人腰掛けていた。
千百合が行ってしまってクラスに戻るかと一瞬考えたが、連絡が入った時点でもう食券を購入してしまっていた。
なので偶には良いかなと思い、お一人様昼食タイムと相成ったわけだ。

今日の定食は和風Aランチ。
小鉢がいっぱいで食べるのに時間がかかりがちだが、考え事をしながら食べている紫希は尚更ローペースになる。

(千百合ちゃんと幸村君は上手く合流出来たでしょうか・・・今の時間購買が混んでますからね、なるべく早く会えると良いんですけれど・・・購買と言えば前、ルーズリーフを買いに行ったら売り切れてたんでした、序でに食べたら買いに行って・・・)

1人なのを良い事に、限りなく思考を逸らしてゆっくり食べる紫希。

そんな紫希の姿を食堂入り口で見つける者が2人。丸井と桑原だ。

「んでさ・・・お?」
「どうしたブン太?」
「春日だ。」
「春日?」

(彼奴1人か?)

周りに居ないだけで、紀伊梨や千百合や誰がしかが居るのだろうかと思ったが、どうも違うらしい。

「・・・よし。」
「あの女子か?・・・って、おい。よしってなんだ。」

しー、と小声で桑原に言うと、丸井は食券を持ったままそろそろと、紫希の背後から近づいていく。

丸井の友人関係だから放っておくが、怒られても知らないぞと内心思いつつ、桑原も後に続いた。

人の沢山居る食堂、しかもマイワールドに入っている紫希がそれに気づくわけもなく。

トントン、と右肩を叩かれた。

「はい?」
「うりゃ。」

振り向きざま、紫希の右頬を丸井の人差し指が突いた。

「まりゅっ、わ、あ!ま、丸井君!」
「ははは!慌て過ぎだろい?」

混乱のあまり突かれた頬のまま名前を呼ぼうとして、発音が変になった。
ああ恥ずかしい。

「1人?」
「ええ。途中まで千百合ちゃんと一緒だったんですけれど、お呼び出しがかかりまして。」
「誰に?」
「幸村君に。」

あー・・・となんとも言えない声が出てしまう丸井。
部活でのストイックな様子を見るに、どうも未だに彼女にデレデレしている幸村という図に想像がつかない。

「そちらの人は・・・」
「あ、こいつ?」
「おい、こいつ呼ばわりするな!」

黒い肌。
剃った頭。
真面目な物腰。

「・・・間違っていたら申し訳ないんですが、ジャッカル桑原君、ですか?」
「お!正解!」
「正解は良いけど、どうして俺の事を?」
「お噂は聞いています。黒崎棗君は私の友達ですから。」
「黒崎の友達・・・」

桑原に微妙な顔をされて、紫希は苦笑する。
良くある反応だ。棗と友人だと言うと何時もそう。誰もそう。

「・・・そうなのか。」
「あ、あはは・・・大体何を思ってらっしゃるのか、想像はつきます。」
「分かるか?彼奴、」
「まあまあ!取り敢えず腹減ったから、話するんなら後にして、飯貰いに行こうぜ!」
「ああ、そうか。そうだな。」
「此処良いよな?」
「あ、どうぞどうぞ。お二人が宜しければ・・・」
「良いから言ってんだって。」

一応席取りにお茶だけ置いて、丸井と桑原は定食を貰う列に並びに向かった。

「珍しいな。」
「ん?何が?」
「お前が食券を出すより先に話しかけに行くのが。」

食べるの大好き!な丸井は、今みたいなケースでは大概昼食を優先する。
何時もなら話しかける前に、取り敢えず食い物を確保して話はそれからだ、となるのだが。

(なんでって言われると・・・)

「・・・だって彼奴なんか怖いんだよ。」
「怖い?あの物静かな感じの女子がか?」
「そうじゃなくて、なんつうの?春日ってさ、すげえ遠慮するし、人見知りで態度も引き気味だし?」
「ああ。」
「だから、見かけたら取り敢えず捕まえとかねえと、目離してる間にスーッとどっか行っちまいそうでさ!其処に居ろよ、って言っておかねえと安心出来ねえんだよな。」

最初会った時からそうだった。
お菓子を貰えば美味いと言ってるのに無理して食べるなと言うし、歌う時はあまり真剣に聞かないで欲しいと言うし。

丸井は人見知りではないから人見知りの気持ちが良く分からないが、兎に角紫希は自分の存在を消そう消そうとするので油断ならない。

「ま、そんなとこ。」
「成る程な。」

何処かに行かれるとなんか気になる。
その思いは微か過ぎて、丸井はまだ気づけないのだった。