「ねえ、跡部君。」
「何だ?」
「本当にあそこに行くの?」
可憐と跡部は今、ホテルの最上階のレストランで昼食を摂っている。
因みに、少し離れた席では、可哀そうなタクシーの運転手さんがきょどきょどしながら跡部の奢りでランチを食べている。
可哀想に。今日一日、専属運転手決定だ。
それはさておき、此処は最上階と言うだけあって、外がパノラマで見える。
その内の一角、ビルの一つに跡部は行くと言う。
見た所大規模工場である。わざわざ今足を向ける様な所とは思えないが。
「ああ。」
「何しに行くのっ?」
「昼寝だ。」
「へっ?」
昼寝。
まさかの返答。
「何だ?文句があるのか、アーン?」
「あ、ううんそうじゃなくてっ。え、でもお昼寝・・・あそこでっ?」
あそこ、工場だぞ。
見るからにガスタンクとか配管とかいっぱいあるし。
仮に百歩譲って工場じゃなくて研究所などだったとしても、昼寝しに行く所じゃないだろう。
わけがわからない・・・な顔で?を飛ばす可憐を見て、跡部はフッと笑った。
「何、行けば分かる。」
「そう?なのっ?」
行っても分からない気もするのだが、気の所為だろうか。
(・・・もしかして、お仕事の一環で、とかかなっ?あそこは実は枕やお布団の研究所で、寝る事によってモニターに・・・うん、無理があるよね、とっても無理があるよね・・・)
大体、自分達は今仮にも家出中なのだ。
それなのに仕事で寝るとか、そういうのは流石に考えにくかろう。うん。
まあでも、跡部が寝ると言うからには、本当に寝るのだろう。
「ねえ、跡部君っ。跡部君が寝てる間、私はどうしてたら良いかなっ?」
「好きにしろ。見て回っても退屈はしねえし、お前も寝たいなら準備はさせるから寝れば良い。」
「見て回るっ?」
「ああ。」
つまり、工場見学してろ的な事だろうか。
まあ、確かに面白いと言えば面白いのかもしれないが。
「さて。そろそろ行くか。」
「あ!ま、待って、これ飲み終わってからっ!」
食後に出された、高級お紅茶を慌てて飲みほしだす可憐に、跡部はちょっと嘆息して、後方に目を向けた。
「おい、お前も準備は良いか?」
「あ、はい・・・」
なんかもう、どうでも良いです。
運転手は諦めの境地でそう言った。