Escape 2 - 3/6


連れて行かれた先は、近づいてみてもやっぱり工場だった。
大きくて広いエントランスを抜け、跡部が責任者と思われる人と2、3言話した後、着いて来いと促すのでそれに従う。

工場と言っても思ったより綺麗で整然としているけれど、それでもやっぱり昼寝に来るような所とは思えないぞ、なんて思いつつ奥へ奥へと進まされる。

こんなに奥という事は、何か、防音シェルター的なあれだろうか。
音しなくてめっちゃ静か、とかそんなのかな?いやでも、昼食の時に「見て回って良し」と言われてたし・・・と思っている間に、大きな扉の前まで辿りついた。

「着いたぞ、此処だ。」
「え・・・・うわ、うわああああああ・・・・・!」

其処は、広大な中庭であった。

さっきまでの無機質な工場スペースが嘘のよう。
石畳が敷いてあるし、土の部分があるし、其処彼処に溢れるほどの木々や花。鳥まで居る。

「な・・・何だ此処は・・・」

くっついてきたタクシーの運転手が呆然と呟く。
可憐も同意見だ、気持ちはとても良く分かる。

「此処は、うちのグループの植物開発工場だ。」

跡部は慣れた様子で、スタスタ奥に進んで行く。

「開発っ?」
「ああ。此処は日本の平均的な気候になるよう調整されている。その中で、南国や北国の植物を如何にして育つように改良するか。ここはその実験場だ。まだ試験段階だが、ありとあらゆる気候帯の植物が此処にはあるぜ。」
「へええ・・・」

例えば、そこのヤシの木とか。
若しくは、そっちの樅の木とか。

今みたいないわゆる「快適な気温」では基本的に育たない植物が、此処では育つ。
育つ様に改良されているから。

「というわけで、俺様は寝るぜ。」

多分前以て連絡してあったのだろう、デッキ用の簡易ベッドが良いロケーションの所に3つ並んでいる。

「お前らも使え。持って移動しても良いが、石畳意外は踏むなよ。」
「はあーい。」
「はい・・・・」

身の置き所がない運転手は、とてもそんな気分になれずチェアに座った。
可憐も又チェアに座る。昼食食べたばかりでちょっと眠いけれど、その前に周りをじっくり見ておきたかった。

(眩しい・・・今日は本当に良い天気だなあ。広くって向こう側の壁が見えないから、中庭に思えないよ。。)

考えてみれば贅沢な光景である。
ヒイラギとハイビスカスが同時に並んでる所等、なかなか見られないであろう。
ちょっと離れた所には小さな川まであって、水のせせらぎの音がとても安らぐ。
此処に千百合が居てくれれば、あれは何の花だとか色々教えて貰えただろうか。

(あ。でも跡部君も、そういうのは詳しそうだよねっ。イギリスはガーデニングの国だしっ。)

殊更園芸が趣味だとは聞いた事が無いが、跡部の知識は普通以上に広い。
おまけに庭園に血道を上げる国家、イギリスからの帰国子女。少なくとも自分よりは色々知っているに違いない。

「ねえ、跡部っ・・・跡部君?」

跡部は眠っていた。
そりゃもう、すやすやと、実に穏やかな寝顔で。

「わあ・・・えへへっ。」

何だか可憐は得した気分になった。

何時もバイタリティ溢れるこの王様は、基本的に居眠りとか一切しない。
授業中は勿論、休憩時間になっても寝ない。疲れていても睡眠は取らない、別の方法で休む。

だからこんな風に寝顔を見られるなんて滅多にない。
貴重な経験だ。

(こうしてると、跡部君もちゃんと私達と同い年なのになあ・・・)

今の跡部は、12才の顔だと思う。掛け値なしに。
ただ起きてる時の跡部は、やっぱり別格だ。12の風格じゃない、と思う事も何度もあった。

(あ!でも今日の跡部君は、ある意味12才っぽいよねっ!家出とかって、やっぱり私達思春期って感じーーー)




『跡部君って、本物のお金持ちで、エリートだと思うんです。』


急にリフレインする紫希の声。


『それはそれで特有の悩みとか』

『私達が一切しなくて良いような心配事とか』

『跡部君はしなくてはいけなくなる日が』




「ーーーーーー・・・・」

それって、もしかして。

(・・・今?)

「zzz・・・・」

すやすやと眠りこける跡部は、何の悩みもなさそうに見える。
今は。

でも、可憐は結局此処に至るまで、今回の家出の「何故」を教えて貰っていない。理由がわからない。

最初は気まぐれだと思っていた。
誰しも気まぐれはある事だし、跡部の場合「そういう気分だったから」に、現実の方を合わせる力があるから。

でも、違うのかも。

そうじゃ、ないのかも。

「・・・・・うんっ。」

決めた。

起きたら聞こう。

もしかしたらそれは話したくない、と返されるかもしれないけど。
でもそうじゃない可能性だってあるから。

中庭を通る風が、決意に燃える可憐と眠る跡部を見守る木々を揺らした。