Escape 2 - 6/6


放課後。
無事部活には間に合った可憐は、ドリンクタンクの隣で、軽くスコアの確認をしていた。

「お帰り。」
「へっ?あ、忍足君!」

不意にかけられた声に顔を上げると、ドリンクの補充に来た忍足が居た。

「お帰りって・・・」
「家出してたんやろ?」
「ええっ!?え、あ、いや、そのー・・・」
「隠さんでもええで。怒ってるわけとちゃうねん。ちゃんと戻ってきたなあ、て言いたかっただけや。」
「あう・・・ど、どうしてっ?言ってなかったよねっ?」
「ちょっと通りがかった時に尋ねてんけど、居らんかってん。伊丹さんから、LINE見してもろたわ。」
「ああ、瑠璃っ・・・!」

確かに、伊丹達には殊更口止めはしていなかったっけ。
言わないでね、とわざわざ付けなくても先生たちには上手く言ってくれるだろう、と思っていたけれど、先生じゃなくて忍足達はノーマークだった。

「跡部に付き合うてたんやって?」
「ああ、うんっ。そう、プチ家出っ。」
「お疲れ様。」
「ううんっ!楽しかったよっ!普段いけない所へ行けたし、それに・・・」
「?」
「・・・普段見られない跡部君が見られたからっ。私、誘って貰えて良かったなっ!」

確かに、今朝は何の前振りもなく、家出するぞ!付き合え!とだけ言われてポカンになった。
でも、今はなんだかんだ楽しかったと思う。

強いて心残りがあるとすれば、跡部の家出の理由は未だいまいち解決していないぽい、という点だが。

いや。
これに関してはちょっと、自分に考えがある。
本当にちょっとだけど。

(・・・ううん、でもやっぱりやらないよりはきっと、やった方が良いよねっ!協力してくれるかは分からないけど、先ずはやってみなくちゃっ!)

頑張ろう!と気合を新たにする可憐の隣で、忍足は?である。

「まあ、よう分からへんけど、楽しかったんやったら良かったわ。」
「うんっ!それに私は付添だし、私自身が家出したわけじゃなかったから・・・なんだか、単にお出かけしちゃったみたいになっちゃってっ!」
「ああ。まあ、せやろな。深刻な理由が無いんやったら、家出なんてただの非日常やし。ただの非日常は、楽しいだけやしな。」
「・・・忍足君も、家出とかした事あるのっ?」

なんだか、経験者の様な口ぶりである。
忍足は、例え嫌な事とかがあっても家出という形では発散しないタイプに見えるが、そんな忍足でも家出したりする事があるんだろうか。

「俺は、そういうのんするタイプとちゃうけど。」
「だよねっ。」
「・・・でも、今日やってみてん。」
「へっ!?」
「可憐ちゃんが、跡部に付き合うてプチ家出や、て教えて貰てからな。茉奈花ちゃんと昼に会うて、今頃2人、どんな風に家出してるんやろ、いう話になってん。それで。」
「・・・家出?したの・・・?」
「家出いうか、エスケープやな。茉奈花ちゃんと、屋上で5限フけてみてん。」

ああ。これ。

これは、今日の昼の逆。
正直。且つ、誠意の無い対応と言う奴。

「・・・あ、そう、なんだ?」
「おん。あんなんした事無かったけど、偶には悪ないな。」
「そ、そう、だよねっ!ちょっと、楽しいよねっ!」


「集合だ!今から試合形式の練習を行う!マネージャー以外の部員は、一度第一コート前に整列しろ!」


ホイッスルの音と、跡部の声が会話を裂いた。

「ほんなら。」
「あ、うんっ!頑張ってっ!」

ふり・・・と片手を振って、忍足の背中を見送る可憐。

・・・なーんでもないような顔をしているが。
しているだけ。

(・・・ああああっ!吃驚したっ!吃驚したっ!あああ、ああいう時どうして良いか分かんないよう・・・!)

可憐は、彼氏が居た事が無い。
それこそ、全身全霊での恋とかもした事がない。

だから、今忍足にああいう話を振られるのはすんごく困る。


『・・・茉奈花ちゃんの事好きなの?』


(なんで私聞いちゃったんだろう・・・!いや!聞く事がっていうより、自分の準備が出来てないのに聞いたのがいけないんだよっ!ああでも、どうしよう・・・!)

今、忍足は網代とサボったと言った。
それ、って、あれじゃん。つまり、そういう話じゃん。

うん、でも、そういう話なのは分かるんだけれど、自分はこういう時どうリアクションしたら良いのか分かんないんだ。
所謂、「友達の恋を見守るポジション」としての振る舞いがさっぱりサラダで醤油味な感じ。

自分は本気の恋をした事無い。
し、今迄本気の恋した友達、という存在も居た事なかった。

でも、忍足は多分ちゃんと恋してるのだと思う。
適当な感覚で誰それが好き、なんて言う性格してないから。

だから自分も友達として、茶化したりしないで、出来れば普段お世話になってる分相談とかにも乗ってあげられたら・・・なんて思っていたけれど、自分の経験値があらゆる観点から低すぎて、取るべき行動が分からない。

そもそも可憐の身近で、恋に敏感な者というと、妹の美梨くらいだった。
しかし、美梨は自分とそもそもの性格が全然違うから、美梨に聞いて美梨と同じ事してれば良い、などと単純にはいかないだろう。

というと。

「・・・ううんん・・・いや、ううん。ううん!」

取り敢えず、今考えるのは止そう。
先ず、美梨に聞いてみる。
そして、それが終わったら次の手。

兎に角一番まずいのは、良かれと思って返って邪魔してしまう事だ。
最善の選択が分からない内は、妙なアシスト等は考えない方が良い。

(先ずは、情報っ!インテリジェンスッ!うん!それでいこうっ!)

おー!と内心で可憐は拳を上に突き上げる。

無意識下で、何かを努めて無視しながら。だけど。