Gentle rain - 5/7


「無理~~~~~~~~・・・・・」

紀伊梨は教室の机でダウンしていた。

「もう少しですよ、五十嵐さん。」
「もー無理ですー!嫌ですー!やだやだやだやだもーおべんきょーは嫌だー!」

うおおおおおあああああ!と叫ぶ紀伊梨。
しかし、柳生もちょっと止めづらい。

確かにサボらないようにと思っていたけれど、実際紀伊梨はなかなか頑張って机に向かっていたと思う。
でも、終わらない。
何故か?それは偏に誤字と脱字が多すぎるからである。
修正に時間を取られ過ぎて、書いても書いても終わらない。

「わかりました。少々休憩にしましょう。」
「!本当!?」
「ええ。適度に休憩を挟まなければ、効率が落ちますからね。」
「やったー!コンビニ行こやーぎゅ!コンビニ!お菓子買いに!」
「・・・この雨の中ですか?」
「うん!」
「購買はご利用されないので?」
「購買近いんだもーん!紀伊梨ちゃん歩きたーい!座ってるの飽きたー!やーぎゅだって、ずーっと座ってるのしんどいっしょー?」

まあ。
確かに、言われてみれば。

「ねーねー、お散歩しよー!しよーよしよーよー!」
「そうですね、致しましょうか。」
「やったー!傘傘!あーめあーめふーれふーれ、かーさんがー♪じゃーのめーで・・・あ!ねーねー、じゃのめって傘の事なんでしょー?」
「ええ、そうですよ。」
「じゃー、紀伊梨ちゃんの傘って「じゃのめ」?」
「それは違います。」
「ありー?」




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「ふいー!買った買ったー!余は満足じゃー!」

そりゃあこれだけ買えば満足だろうよと柳生は思う。
買い物でもあるまいに、大袋にいっぱいのお菓子買って、これ全部一人で食べる気だろうか。

「さて、では戻りましょうか・・・」
「あ!ねーねーやーぎゅ、もーちょっとだけ散歩しよーよー!」
「何処へ行く気です?」
「あのねー、今日にぴったしな場所があるんですよ!其処を通って学校帰ろー!」
「構いませんが・・・」

構わないけど、あまり妙な所には連れて行かないで欲しいな。
なんて思いながら紀伊梨について角を曲がった。

迷いの無い軽快な足取りで、さくさく進む紀伊梨のちょっと後ろを柳生は歩く。

雨に降られながら、水たまりを踏みながら。

「ほら此処!こないだ見つけたんだー!」
「ほう・・・」

其処は通り。
何の変哲もない只の通り。

道沿いに、アジサイが競って咲いている以外は。

「これは見事ですね。」
「ねー!凄いっしょ凄いっしょ、綺麗っしょー!この前はまだあんま咲いてなかったけどー、今はばーっちり咲いてて良い感じー!」

ピンク、青、ちょくちょく紫、偶に白。
色とりどりのアジサイたちは、皆今が盛りとばかりに咲き誇っている。

「良い土壌ですね。」
「どじょう?何処に?」
「魚ではありませんよ。土の事です。」
「あー!知ってる知ってるー!アジサイの色って、土で変わるんだよね!ゆっきーが言ってた!」

正直、土で変わるんだよと言われても紀伊梨は最初ピンと来なかった。
土なんてどれも土には変わりないと思っていたし、酸性だとかアルカリ性だとか、今でもちんぷんかんぷんだけど昔は尚更ちんぷんかんぷんだった。

だから。

「昔はねー、葉っぱの下に妖精さんが居るんだと思ってたー。」
「妖精さん?」
「そう!この辺にね?目に見えない妖精さんが居てー、その妖精さんがアジサイの色決めてるんだと思ってたなー。」
「ほう。なかなかお可愛らしいですね。」
「おおお!やーぎゅはそー思ってくれる?」
「ええ。メルヘンで良いと思いますよ?」
「だよねー!昔も言った事あるんだけどさーあ、紫希ぴょんが可愛いって言ってくれたけど、他3人そんなわけないよとかって取合ってくれなくてさー!」
「まあ、あの御三方はリアリストですから。」
「りありすと?」
「現実主義者の事です。」

千百合に幸村、それに棗。
この3人は基本、「有り得ない夢は見ない主義」である。

将来の夢とかそういう「夢」なら兎も角、虹の橋の根元には金の坪がとか、ポットの中には妖精さんがとか、抜けた歯を枕の下に入れておくと何がしかとか、そういう類のファンタジックな「夢」は一切見ない。

紀伊梨は割と真剣にその辺を信じる派で、ポットの中を覗いたり歯を枕の下に入れたり、そういう事を実際した事も何度もある。
大体やろうと言ったらちゃんと乗ってくるのは紫希だけで、千百合達は付き合ってはくれるが端から信じていない。
逆に棗から、こっくりさんやろうぜと言われた事ならあるが、あれだけは全力でお断りした。

「皆夢が無いよねー!ま/どマ/ギでも言ってるじゃん、奇跡も魔法もあるんだよーってさー!」
「五十嵐さんは、ご覧になった事があるので?」
「ほ?」
「今仰った事です。奇跡だの、魔法だの。」

柳生に、別に馬鹿にする意図はない。
奇跡とか魔法とか言うけれど、お前実際それ見た事あるの?ほらやっぱ無いんじゃーん。みたいな事を言いたいわけじゃなくて。

ただ、紀伊梨があまりにも当たり前な顔をして言うから。
だからもしかして、何か裏付け的なものがあって言ってるのではないかと思ったのだ。

「んー、魔法はまだ無い!」
「無いのですか。」
「色々試したんだけどなー!ほーきで空を飛ぶ練習もしたしー、石に紐付けてくるくる回るかも試したしー、杖を作って振ってみたりとかー。」
「ファンタジックですねえ。」
「でも奇跡は知ってるお!ゆっきーと千百合っちみたいなのを奇跡って言うんでしょ?」

柳生は今度こそキョトンとした。

「・・・少女漫画ですね。いえ、素敵な響きだとは思いますが。」
「しょーじょ漫画なの?」
「違うのですか?私はてっきり、本や何かから読んだのかと思ったのですが。」
「違うよー。おかーさんが言ってたの!」

いつだっけ、もう遠い昔だけれど聞いた事が有る。

この人だ、と思う人と出会って結ばれると言うのは、それだけでとんでもない奇跡なんだよと。
妥協じゃなくて、適当じゃなくて、お互いにお互いを世界で一番愛する異性として思いあって居られるのは、とても貴重で幸せな奇跡なんだそう。

故に、紀伊梨は適当な気持ちで彼氏とかは作らない。だってそれ奇跡じゃないもん。

「紀伊梨ちゃんには何時奇跡が起こるのかなー!イッツミラクルー!」
「何時起こるか分からないから、奇跡と呼ぶんですよ。そういうものです。楽しみに待つくらいで丁度良いのでは?」
「おお!確かに!そー考えるとなんだかロマンチック!」
「お褒めに預かり。」
「あ!それは知ってる!褒めてくれてありがとー的な奴!んー、でもやっぱり早い方が良いなー!千百合っち達楽しそうだし!」
「まあ、単純に羨ましいと思うのはおかしい事でもなんでもありませんよ。」
「後、早く奇跡が起こったら、その分長く続くよね!」
「そうですね・・・むやみに長ければ良いと言うわけでも無さそうですが。物事には、適切なタイミングと言うものがありますので。」
「あ、それも知ってるー!タイミングの神様って、前髪しか無いんでしょー?」
「それはチャンスです。」
「ありゃりゃ?そーだっけ・・・あ!ねーやーぎゅ!見て見て!」
「はい。」
「アジサイじゃなくてー!ほら、あっち!」
「ほう・・・」