Rainy day - 2/4


自分の欠点の一つに、直ぐ声に出る、というのがある。と、可憐は思っている。

「あっ。」

「え?」

隣の席に居たクラスメイトが、何事?と言いたげに此方を見た。

「あっ、ご、ごめんっ。何でもないよ、気にしないでっ。」

(あ、危ない・・・良かった指されてる時じゃなくて・・・!)

人間、忘れていた何かを思い出す時というのに、不意を突かれての事がある。
全く関係ない事をしていて、ふっ、と記憶が蘇って、ああ!そうだ、それ忘れてたわ!となるのだ。

可憐は今、正にその現象に立ち会った。
そうそう、忘れてた。

美梨のアドバイス。
友達の恋愛相談する場合は、超超遠い人に頼る事。

そしてもう1つの選択肢。
超超近い人に頼る事だ。

仲が良くて信頼出来、そして多くの時間を一緒に居られる人。
万が一そこから漏れたら、自分がすぐ気付ける人。

今回の場合、出来ればクラスメイト兼部活仲間である事が望ましいが、そうでないならせめて部活は一緒である事。
そして、自分と仲が良いと同時に忍足、或いは網代とも仲良しである事。親友レベルなら尚良し。








というわけだったので、可憐は昼休みにて、唯一且つこれから一切増える事は無いであろう該当者に声をかけたのだった。

「なあ。」
「え?」
「すっっっっげえ嫌な予感するから、俺帰って良いか?」
「えええっ!?こ、困るよっ!話だけでも聞いてっ!ね、お願い向日君っ!」
「えー・・・」

相談したい事があると言うから、こうやって多目的室1個開けてわざわざ来たわけだが。
いや、別に相談乗るのが面倒とかじゃない。
そうじゃなくて、ただただ純粋に嫌な予感がするのだ。
自分の中の直感と言う名のアラームが、引き返せと言ってる気がする。

「別に聞くのは良いけどよー・・・」
「本当!」
「その代わり!聞いてからだからな!首突っ込みたくない話には、首突っ込まねえからな、絶対!」
「うんうんっ!良いよそれでっ!」

ビードロズにもおおいに話を聞いて貰ったが、物理的な距離はやはり可憐を不安にさせる。
後から相談には乗って貰えるが、いざ、その場に一緒に居ては貰えないというのは如何にも孤独を感じるのだ。

聞いて貰えるだけでちょっとホッとする可憐とは正反対に、向日は嫌な予感が加速しているのを感じる。

「で?何だよ相談って。」

向日は弁当を食べながら聞いた。

「あのねっ!実は友達の恋愛相談なんだけどっ!」
「ゲホ!」

今しがた口に含んだフライドポテトが、気管に入った。

ほら見ろ。
ほら見ろ。
ほら見ろ。

な?自分の勘も捨てたもんじゃないだろ?

「えほ、ケホ・・・何だよ、いきなり!」
「えへへ・・・実は、友達に片思い中の子が居るんだっ!それで、私に何か出来る事ないかなあって思ってっ。」

これは可憐の策であった。

幾ら忍足と向日が仲が良いとはいえ、流石に忍足の許可なく「忍足君は茉奈花ちゃんが好きなんだってっ!」なんてバラすわけにいかない。
だからビードロズに言った時と同じく、あくまで可憐の友達の話、向日とは関わりの無い友達の話、という体を装う。

勿論、装うだけ。
向日に感づかれてしまう可能性も大いにあるが、この場合感づかれたら感づかれたで良い。
あくまで忍足の事とは言ってませんよ、な風を保ちつつ、その実忍足の事を話す。
周りに誤解を振りまかず目的を達成するには、それが一番良いだろう、と可憐は踏んでいた。

そして、向日にとっては辛い事にこれは正解であった。
友達、と聞いた時点で向日の脳裏には既にあの眼鏡の友人が浮かんでいる。

まあでも、友達としか可憐は言ってないし。
クラスにも友達がいるだろうし、そっちの可能性だって高いじゃん?
なんて自分を誤魔化してみるけれど、自分の直感が違う気がする・・・と頻りに言ってくるのを向日は頑張って無視している。

「で?それで、なんで俺なんだよ。」
「ほら、向日君はお友達が多いから、色んな事を知ってるかなって!」
「ふーん・・・」

本当か。
忍足と仲良いからじゃないのか、本当は。

どうしよう。
面倒くさいな。
もう聞いちゃおうかな。

(・・・いや!聞いて当たりだったらもう知らなかった振りも出来ねえ!)

もう既に姉の言いつけを破って、知ってるーーー知って「しまってる」事も多いと言うのに、これ以上抱え込む気にはならない。面倒だけれど、ここで短気は駄目。自分に返ってくる。

「・・・良いや!で?お前の友達が?片思いしてるって?」
「うん、そうっ!で、私の立場から何かしてあげられる事ないかなっ?」
「んー、ま、ふつーにしてたら良いんじゃねーの?」
「普通って言われても・・・」
「なるべく2人にするとか。」
「ああ、うんっ!それはするつもりっ!基本だよねっ!」
「あ、待て!の、前に!」
「え?」
「そいつ等・・・っていうか、お前の友達の片思い相手?ってのはフリー?そいつに他に好きな奴居る、とかだったら、良い迷惑だぜ?」

友達の立場から応援、というのはそもそもお互い憎からず思っていると言うのが大前提。というのが向日の持論である。
そうじゃないなら、茶々入れない方が良い。
だって面倒だもん。見える範囲の誰かが泣く恋愛とか、深入りしたくない。
向日が木崎とか神宮の話を嫌うのはそう言う側面からである。

「えーと・・・一応、フリーかなっ!前聞いた時は、好きな子は居ないって言ってたしっ!」
「あー、言いそ。」
「え?」
「あ、いや!わり、何でも!」

もう、向日の頭では完全に忍足か若しくは網代であるという前提になっている。
いかんいかん、そうじゃないっていう体で話聞くって決めたのに。

「あ、でもっ!私的には、そんなに感触は悪くないんじゃないかなーって思ってるんだけどっ!」
「ああ。ま、なら良いか。」

其処で確認をきっちり取ったかと突っ込まない辺りが、向日の大雑把な所である。

「それならそーだなー・・・俺ならガンガン行くかな。」
「?ガンガン?」
「そんなに脈無い感じじゃないんだろ?ならもう、囃し立てちまう勢いでさ!バレバレくらいの方が、けしかけるって意味では良いんじゃね?」
「おおっ!成程、確かにそうかもっ!」

これは、今迄慎重派な意見が多かった中でかなり特殊な進言だった。

逆に考えるんだ、バレちゃっても良いさと考えるんだ。
バレたって、元々上手くいく可能性の高い物なんだから、上手くいくって。
早いか遅いか、それだけの話だって、なんて。シンプルな思考を好む、実に向日らしい意見である。

「俺としては、2人にするってのを気合入れてやっていったら良いんじゃねー?って感じだな。偶々出来そうな時に2人にしてやる、ってだけだったらちょっとなー。」
「ええっ?でも他に、何か方法あるかなっ?」
「例えばほら!グループで遊びに行って、その2人以外の奴はお前が相手してさりげなく遠ざけたりとか!」
「おおっ!」
「ただ、これやるとその付き合ってくれた奴らにも色々バレちまうけど。」
「ああう、そっか・・・!」

成程ね!と一瞬思ったが、メリットばかりではないのだ。
流石に自分入れて3人はちょっと、バレないけど自分は一人になるんでしょと思うとなあ・・・なんて肩を落とす可憐。

だが、向日はあっけらかんと言った。

「別に良くね?」
「えっ!?」
「どーせ、付き合いだしたらバレるんだってそんなの!付き合う前からバレるか、後からバレるか、そのくらいの違いしかねーよ!」

人の口に戸は立てられぬと言うが、コミュ力が高く常に周りに人が居る向日は、あの諺は本物だとつくづく思っている。

特にゴシップの類はそう。
何処の金魚だと思われるほどの尾びれ背びれ胸びれを付けて、そして人に伝わっていくスピードだけは上り竜の如し。

だから、どんな理由があれ隠そうとしたって意味ない。
余程の根性と理由が本人達に無いと、まあ無理。1ヶ月ももたない。

「だから、なるべくならバレねーようにってのは分かるけど。でも、そいつ等を手伝うよりバレねえ方が優先、って程隠すようなもんじゃなくね?」
「・・・・そっか・・・」

そうか。
うん、そうか。

・・・そうか?

「・・・・・」
「どした?」
「・・・な、何か話が早くないかなっ?」
「は?」

話が早いって何?
と訝る向日だが、可憐は戸惑い顔を止めない。

「何というかその・・・急ぎ気味っていうかっ?悪い事じゃないけどこう、あんまり確定確定見たく周りがはしゃぐのも、」

あくまで自分達は外野。
その外野があまりに行動を派手にし過ぎると、周りが当人達ほったらかしにして外堀を埋めるどころか、ベルリンの壁並みに分厚い囲いを作るような事態になってしまうのでは。
可憐はそう思ったのだ。

2人に出来そうならしてやる、までは「お手伝い」の範疇だが、サクラを揃えて休日に引きずり出して、半ば強制的にデートさせるというのは、それはもう「お手伝い」の域を超えていると思うのだ。

だが、向日はあっさり返した。

「良いじゃん別に!確定みたくっていうか、目指す所は確定なんだからよ!」

「ーーーーー」

そう。
そうね。

つまり、そうよね。

これは向日の言う事が正しい。
そうだ、別にデートに持って行ったってそんな不都合な事なんて無い。
だって目標は両思いだもん。
お互い、お互いとデートしたいって思って貰えるのがゴールだもん。

可憐はやっと、向日の考えている視点が自分と土台違う事を理解した。

今迄相談に乗ってくれていたビードロズや自分の思考は、「網代に忍足を好きになって貰う」手伝い。
忍足の気持ちは確定的だから、その次。網代の心をどうにか動かす方向の話だった。

でも向日は違う。
向日の頭の中で、その段階はもう通り過ぎている。
脈があるのなら次は、「2人を恋人関係まで煮え切らせる」手伝いなのだ。

「・・・・・」

うん。
そうだね。
確かに言ったね、好感触だ、って。

それなら、こういう意見が出ても不思議じゃないし。
こっちのが話早いし。
当初の目標であった、友達の恋の実りはきっと成功するだろう。

可憐はその実感が今になって、何故か急に湧いて出てきたのだった。

「桐生?」
「あ!あ、あ、ううんっ!ごめん、何でも無いっ!なんでもないよっ!何でも・・・」

いけないいけない。
何やってるんだろう。
どうした事だ、此処は動揺ポイントでは無い筈。

「・・・なあ、桐生。」
「えっ?」
「お前、本当に大丈夫か?」

大丈夫か、と聞きつつ、大丈夫じゃないんだろうなと向日はなんとなく気づいている。

忍足の「お」の字も出てないけれど、向日の内心ではこの可憐の様子で、もうほぼ確定としても良いと思う。

忍足と、網代。
多分この辺の事。

何が嫌って、もし本当に忍足と網代関連の話なのだとしたら、向日の前提。
「脈有りっぽいならもう、両片思いって事で良いじゃん」が結構がっちり根拠付きで確定だという事。

まあ、忍足と網代の事は良い。
両思いならおめでとうと思うけれど、もし可憐がその事でしんどい思いを今しているのなら、時間が経つにつれてそのしんどさは悪化していく。

(しっかし、此奴も変な事するよなー・・・)

嫌なら嫌と言えば良いのに。
いや、嫌と口に出して言うのは流石に憚られても、わざわざ協力なんてしてやらなくて良いじゃないか。
何でそうやって自分を追い詰める方に向かうのか、向日は不思議で仕方がない。

なんで?どうして?友達だから?

例えば、もし仮に自分が網代を好きだったとして。
忍足とかち合った場合、自分は行動を・・・忍足を手伝うという方向の行動を起こすだろうか。

(・・・いや、ねーな!ぜってー、俺そんな事しねえもん!)

もし、だ。
仮にそうなって、網代は忍足を好きで自分に芽が無かったとしても、協力って。
そんな端から諦めたような真似、自分は絶対しないぞ。

でも可憐はしてるんだろうか。
いや、この辛そうなのは別の理由か?

「だ、大丈夫だよっ!私も私で考えてるから、ちょっとぼーっとしちゃうだけっ!なんでもないよっ!」
「・・・・本当だな?本当に、本当だな?」
「うんっ!本当ですっ!」
「・・・・・・」

どうも疑いの眼で持って可憐を見てしまう向日。

だが、先日棗が思った事と全く同じ思考が向日の頭を過る。

ここで、もし。
お前、本当にその友達とやらの応援したいの?と聞いて。

そしてその結果、可憐に得は一つも無い。

これは、可憐のいう友達とやらが忍足や網代ではないとしても変わらない。
可憐は可憐なりに考えて行動を決定してるのであって、何か引っかかりがあっても頑張ってそうするというのなら、周りは何も言わない方が良い。
本人が頑張っているのに、「お前本当は頑張りたくないんだろ、無理してるんだろ、」なんて詰め寄ってどうなる。

まして、本当に忍足とか網代の話だった場合、これがより顕著になる。
向日は既に網代は忍足が好きである旨を聞いてしまっているのだ。

つまり、詰んでいる。
もし忍足と網代の両思いが可憐に何がしかのストレスを与えるのだとしても、こっちに出来る事が何もない。
精々その場から離れる位の物であろう。

そう、離れる事。
わざわざ手伝う事なんかないんだ、なのに。

(わっかんねー、女子って・・・!)

何考えてるの、ねえ。
我が友人よ、どうしてお前はそうやってしんどい方へと向かうのだ。

「・・・なあ、桐生。」
「はいっ!」
「話聞く、って言っといてなんだけどよ。」
「うん・・・?」

「放っておく、って選択肢はねーの?」