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「おおお・・・」

人。
人。
人。

「すごーい!人がいっぱいだー!」
「そんな言うほどじゃなくない?」
「まあでも、前回の地区予選よりはかなり多いっしょw」
「やっぱり、規模が大きいと関わる人も増えますよね。」

土台、参加している学校の数が増える。
それに伴って、応援している人の数も増えるので、人数的には倍。いや、倍以上かもしれない。

「今日もゆっきーの試合見れるのー?」
「ええ。調べたんですけれど、県大会も初戦は5戦全て行うらしいので。」
「じゃあ後はオーダーだなw」
「入ってるかどうかって話よね。」


「入っているよ。」


聞きなれた声に振り向くと、エントリーや諸々を終えた幸村達が居た。

「おー!皆おっはよー!」
「お前は朝から元気だろい。」
「まあ、良いんじゃないか?五十嵐の元気が無い方が、こっちも気になって集中出来ないだろうし。」
「それはそうかもだけどよ。」
「うんうん!皆元気が一番だよね!ブンブンも元気?弟君の写真はちゃんと見た?」
「お前なんでそういう事ばっかり覚えてんだよ!」

「わあ・・・柳生君、ユニフォームが良くお似合いですよ!」
「ああ、そうですね。皆さんにジャージ姿を見られるのは今日が初めてです。」
「中々板についとるじゃろう?」
「何故仁王君が誇らしげなのです?」
「ふふふっ!」

「どうです、調子の程はw」
「無論、良好だ。」
「昨日までで、調整もきちんと出来ている。コンディションとしては、万全だな。」
「そら良うござんしたwでも、あんまり飛ばし過ぎんなよw」
「何を言うか!今全力にならずして、一体何時全力になるべきとーー」
「日にちの話だよw」
「そうだな。地区予選の時と違い、此処からは一日では終わらない。」


「・・・・よ。」
「うん、おはよう。来てくれて有難う。」
「別に。来ただけだから、そんな喜ぶ事でも。」
「俺にとっては十分喜ぶ事だよ。」

ハレの日に、居る義務も無い恋人が自分の為に時間を割いて一緒に居てくれるのだ。
この事を喜ばずして、何を喜ぶ。

「そうだ、千百合。今日の観覧席なんだけれど、皆でこの辺に居てくれないかな。」
「何か、ちょっと遠いな。なんで?」
「今日は、途中で降りだすかもしれないからね。此処なら屋根があるから。」
「ああ、確かに。」
「だから、今日はーーーー千百合。」
「え、」

突然、ぐい、と腕を引かれて、抱き留められてしまう千百合。

恥ずかしいより混乱が先に立ち、何だ、何が起こったんだ、と思いながら顔を上げると、自分を腕の中に抱えながら目が他所を探す幸村の顔。

「・・・精市?」
「・・・・・・」

「どうした、幸村。」
「何かあったのですか?」

単に恋人とじゃれている、とかそういう雰囲気ではない幸村の様子に、一同も会話を切り上げた。

「ゆっきー、どったのー?」
「・・・いや。何か・・・どう言うのが適切か分からないけれど、違和感がね。不吉な予感というか、見られているような感じというのかな。」
「ジロジロ見られんのは、何時もの事じゃねえ?幸村君は特に。」
「いや、そういう事じゃないだろ・・・」
「ああ。良くある類の視線ではないからこそ、幸村の感覚に引っかかる物があるのだろう。」
「違和感ねえw」

気のせいじゃね?とは言い難い。
幸村の勘、なんとなくと言った感情は、同じく勘の良い紀伊梨のそれとは別の鋭さがあって、概ね当たっている。

気のせいじゃない。
正体が判然としないだけで、杞憂である可能性は結構低い。

「じゃあ、千百合ちゃん。今日は、なるべく単独行動はしないという事でどうでしょうか?」
「え。いや、別にそこまで、」
「駄目だよー!ゆっきーの言う事って、大体せーかいなんだからー!」

それを言われると、当たっているだけに返せない。

「まあまあw別に、普通にしてても1人になるこた滅多に無いっしょw」
「それもそうじゃのう。お前さん達は4人も居る事じゃし。」
「1人になるとすれば、おそらく手洗いに行く時だろう。その時にだけ注意していれば、そう難しくは無い筈だ。」

「では、お手洗いの時は私か紀伊梨ちゃんと一緒という事で。」
「うんうん!あ!トイレ行く事になったら、帰りにジュース買っちゃおっかなー!」
「ま、また行きたくなってしまいますよ・・・」

「いや、大袈裟だって・・・」
「大袈裟かもしれないけれど、頼むよ。俺の安心の為だと思って。」

(ずるくない、それ?)

そう言われたらもう、従うしかないじゃないか。
これから大会に出る選手の集中を徒に乱すような真似は出来ないのだし。

・・・それで、幸村が安心すると言うのなら。

「・・・分かったわよ。まあ別に、何も特別な事するわけじゃないけど。」
「有難う、千百合。俺の我儘を聞いていくれて。」

そう言って微笑む幸村にちょっと気恥ずかしくなる千百合は、遠巻きに幸村を見つめている女の子の視線を今正に浴びている事に気づけないでいられた。

「早くも大人気じゃのう。」
「地区予選の時も、このような具合でしたか?」
「いや全然w寧ろ、地区予選で一気に注目されちゃった感あるよw」

「でもでも、ゆっきーと同じくらいじゃないけど、やなぎーと真田っちもけっこー見られてるよねっ!」
「ほう。なかなか良く見ているな。」
「えっへん!未来のトップアイドル紀伊梨ちゃんは、人の視線は良くわかるのですっ!良いね良いね、2人共!モテモテじゃないっすかー!」
「なっ・・・!たるんどるぞ!俺達にそういうつもりは無い!迷惑だ!」
「えー!?迷惑なの!?人気なのに!?」
「それとこれとは別だ!」

「真田はこういう展開は嫌なんだろうな。」
「あ、あはは・・・でも、本人達がどういうつもりでも、周りの人の見る目と言うのは、どうしても変わって来てしまいますよね。」
「ま、名前が通るとどうしてもな。幸村君とか柳は平気だろうけど、真田が問題だろい。」

寄ってくる女の子あしらうとか、苦手なんだろうなあというのは皆察している事。
まあ、あしらうのに慣れている方が少ないだろうが。

(でも、今は3年の先輩や幸村君達が人気ですけれど・・・その内、学年が上がったり試合に出るようになったりして、他の皆もいつか段々人気者になりますよね、きっと。)

幸い今は、やれ紹介してくれだとか、仲を取り持ってくれだとか言われた事は無いが、まあそれも「今の内」であろう。
直、そうなる。おそらく。

「お前も気をつけろよ?」
「え?わ、私ですか?」
「だって、お前も人とかあしらうの苦手だろい?」
「まあ、幸村と五十嵐の友達ってポジションは外から見るとどうしてもな。何かと頼みやすいって思われちまうし。」
「ああう・・・そ、そうですね・・・」

頼まれやすいポジションな上に、紫希は極めて人が頼みごとをし易い性格をしている。
言い方はあれだけど、格好の的。

「しつこい奴とか居たら言えよ?追い払ってやるから。」
「ええ!?い、いえ良いですよ!そういつもいつも頼るわけに行きませんし、」
「まあ、五十嵐は兎も角幸村の事とかに関しては、テニス部に関わる事でもあるから。」
「そうそう。甘えとけば良いだろい。」
「えええ・・・」

そうこう会話している内に、スピーカーからアナウンスが鳴った。



『間もなく、第一試合が始まります。出場校は、所定のコートに集合して下さい。』