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そして始まるS3。

「あっ!やなぎーだ!記者さん、あれがやなぎーだお!お写真撮ってね!」
「やなぎい?柳井君って言うの、あの子?」
「柳君です、柳君!そういうあだ名なんです!」
「だからこういう時にあだ名で呼ぶの止めろっての。」
「危うく別人になるなw」

(S3、柳君か・・・)

先ず小鳥遊の印象としては、とても泰然自若としている、という事。
1年生という事は県大会に出るのは初めてであろうに、なんという落ち着き。


「プレイ!」


試合開始と同時に、野田南の選手はトスを上げる。

「1年生とて容赦はせん!行くぞ!」

綺麗なサーブを打つ野田南。
だが。



(!あの子、早い!ショットの前から、もう動き始めてるんだわ!)



「ふっ!」
「むっ、返すか!」

データマン、柳のプレイスタイルは県大会になっても良い意味で全く変わらない。
相手の動きを見極めて対応した動きを取る。
よくよく相手を知る事が出来たなら、来る打球の予測や弱点の割り出しも造作もない事。



「おー、凄い凄い。試合してるじゃん。前とえらい違い。」
「だ、駄目ですよ千百合ちゃん、そんな事を言っては・・・」
「おー!なんか相手もちょっと強いね!」
「ちょっとだけね、ちょっとだけwあんま大きな声で言えんけどw」



「なかなかやるな、しかし!これでーーー」
「これでどうだ、とお前は言う。」
「何っ!?」

(ラケットの角度、足の位置、腕の振り方にジャンプの高さ・・・)

「・・・後方ライン上にスマッシュが来る確率、98.876%。」

(読まれているだと!馬鹿な!くそ・・・しかし、此処から別の所に無理矢理打つとなると!)

「くそお!」

「ネット!0-40!」



「凄い・・・冷静な試合運びだわ。1年生で、あんなゲームメイクできる子が居るなんて!」
「そうっしょ!そうっしょ!やなぎーは凄いんですよっ!」
「良かったです。柳君、今日も調子が良さそうで。」
「コンディションは良いって言ってたしなw」
「県大会だし、もしかしたらやばいかもとか思ってたけど、そうでもなさそうね。」

もう、あっという間に涼しい顔で柳は3ゲーム取っている。
相手?勿論0ゲームですよ、可哀想に。

「ねえちょっと!今の内に、あの子について教えてくれない?」
「それ私らに聞くことじゃなくない?」
「紀伊梨ちゃん達、テニスの事あんまり知らないお!」
「やだ、それは本人に聞くわよ!じゃなくて、学校での評判とか!あの子の人となりとか、普段の事よ!」
「そ、それって記事になるんですか!?」
「テニス関係ねえじゃんかwただのミーハーじゃないのかw」
「う!い、良いの!大人には大人の事情があるの!これも取材なのよ、ね、お願い!」
「えー・・・」

何だろうこの若干の腑に落ちない感。

「はいはいはーい!やなぎーはねー、頭凄く良いお!えーと、データ?をいつも集めてテニスしてる、みたいな事言ってたし!」
「ほうほう、データテニスが得意という事ね。見た目通りの印象、と・・・他には?何か、性格的な話とか。」
「ええと・・・いつも落ち着いてらっしゃいます。慌てたり狼狽えたりしませんし、大人びています。」
「ふむふむ。普段からそういう性格で、テニスに臨む時もそれは変わらない、と。成程!他には!」
「えー・・・あ、成績とか良いよ。色んな事良く知ってるし。先生にも頼られてるし。」
「納得ね!テニスだけでなく、学業的な姿勢も良い、と。・・・で?他には?」
「もう大概言い尽くしたけどw」
「やだ、ちょっと!肝心な事を言ってないじゃない!そこを言わずして、言い尽くしたとは言わせないわよ!」
「ほ、他にまだ何かありましたっけ・・・?」
「ちょっと、まさか住所とか電話番号とか言わないでよ。」
「やあね、違うわよ!そうじゃなくて、


ズバリ!恋のお話よ!」


え。
という、空気の抜けたような言葉未満の言葉が紀伊梨以外の3人から漏れる。

「おー!そーだそーだ、それ忘れてたよー!」
「でしょ?でしょ?ねえ、彼女は居るの?モテ度はどの位?好きなタイプは?」
「あ、あのねー、好きなタイプはーーー」
「だっ、駄目ですよ紀伊梨ちゃん!柳君の許可もなくそんな事を教えては!」
「あんた、そんな事書きに来たの?マジで言ってる?マジで?」
「本当に記者なのかよw吹かしじゃ無いのかw」
「む!失礼しちゃうわねー、私は!れっきとした!記者さんなんだからね?ほら、名刺!」

そう言って差し出された名刺には、確かに月刊プロテニスのロゴが入っている。
取材班係員、小鳥遊ひたき、と名前も合っているし。

「えー?なんでいけないのー?」
「逆にお前はなんで疑問に思わないんだよw」
「だって雑誌って恋のページがあるもんっしょ?ほら、り/ぼ/んとかち/ゃ/おとか!」
「少女漫画と一緒にすんなよ。」
「あの、本当にテニスの雑誌に恋の話は必要なんですか・・・?」
「もっちろん!恋愛観を知る事は、その人の考え方、ひいてはプレイスタイルにも繋がってくるわ!」

口八丁とは正にこの事であろう。
そんな風が吹けば桶屋が儲かる理論で物事を結び付けて行ったら際限がなくなる。

「勘違いしてもらっちゃ困るわー、私は!あくまで!取材としてこのお話を振ってるのよ!」
「そ、そうなんですか・・・でも、柳君に悪いですし、」
「いや、紫希、しっかりしてよ。騙されないでよ、こんなの言い包めだって。」
「あ!見て見て、やなぎーがもうすぐ勝つっぽいお!」
「どれどれ、ほんとだw紫希、妹、見ようやw」
「あ、ちょっと無視しないでよー!」




などと言っている間に、柳の綺麗なスマッシュは相手のコートを正確に打ち抜き、勝負を決めた。

「ゲームセット!ウォンバイ柳!6-1!」




「やった!おめでとう御座います、柳君!」
「やったやったー!さっすがやなぎー、今日もつおーい!」
「・・・勝っちゃった。」
「言ってる意味、分かった?」
「分かったらまあw俺達のお願いも踏まえてよろしくお願いしますw」

(まさか勝つなんて・・・いえ、勝つ事はあったとしても、こんな勝ち方出来る1年生が居るなんて・・・)

小鳥遊は今改めて、立海のーーーいや、今年度の立海の強さをまざまざと目の当たりにしたのだった。






「お疲れ様、柳。良い試合だったよ。」
「ああ。完勝だな。」
「有難う。まだまだ、改良の余地は多いがな。・・・と。そうだ、俺は試合中であまり注視出来なかったのだが・・・」
「ああ。観客席だね?」

ビードロズ達が、何やら試合中盤わちゃわちゃしている気配を柳は感じていた。
真田と幸村はしっかり目で見ていたし。

「俺達もあまりはっきり会話は聞こえなかったけど。記者さんがさしずめ冗談めいた事を聞いて、皆で何聞き出そうとしてるんですか、と諌めたという所じゃないかな。」
「そのような事があるか?相手は大人だぞ?」
「大人だからふざけないとは限らないさ。」

何取材してるんだか知らないけれど、分別は持っていてね。
という一同の祈りは今、鮮やかに破られ続けている。