Query 3 - 4/7


雨が降り出した時、紀伊梨は皆と居なかった。

何処に居たかと言うと、手洗いから帰る途中だったのだ。
が。

「いや~・・・・これは流石にやばいっぽいよね~・・・?」

紀伊梨は運良く、降られたタイミングで、50m程離れた所に事務棟のある所に居た。
だから、降りだした時もパニックになったのは一瞬だった。直ぐに、そうだ!あそこに行けば良いんだ!と思って走り出した。

走り出して。


そして、ポケットから、携帯が水溜りに落ちたのである。


「えい!・・・うおおおおう、振ったらびちゃってー!びちゃって言ったんですけどー!中でびちゃってー!」

気づいて直ぐ拾ったは良いが、携帯は完全に数秒の間、水中にinしていた。
一先ず屋根の下に入るのを優先して、一息ついて改めて携帯を見たら、やっぱりずぶ濡れ。

「どーしよー!取り敢えず皆に連絡・・・って!けーたいが駄目だから、LINEも電話もできにゃいじゃーん!ぬぬぬ、どーしよー!?」

そうそう都合よく公衆電話等有る筈もなく。
というか、財布が入用になるなんて思わなかったから、今1円も持っていないのだ。

雨を我慢して戻ろうにも、元々スマホのGPS頼りにトイレまで来たので、地図を取り上げられると1人じゃ戻れない。

「うぬぬぬ・・・けーたいが点けばなー!全部解決するのにー!・・・ちょーっとだけでも点かにゃい?かな?」

ほんの数秒でも良い。
数秒でも良いから地図が出れば、行けば良い方向がわかる。

ボチャンしてから一度も入れなかった電源のボタンを押そうと、指が動いた時。

「おい、止めろよ!」

「うえ?・・・あー!」

顔を上げると、其処に居たのは地区予選の時の瀬良中の彼だった。

「えーと、えーと!あのー・・・泣いてた子だ!」
「泣いてたいうな!米原博人だよ、覚えろ!後、電源入れるなよ。」
「えー、駄目?」
「駄目だ!濡れただけだったら直るかもしれないけど、電源入れたら電気が走って本当に壊れるぞ!」
「うおお、マジ!?あっぶなー!やめとこやめとこ!博君くわしーねー!」
「ま、まあな・・・」

何故詳しいかと言われると、自分も洗面台にボチャンして、電源を入れて壊した事が有るからである。
経験者はかく語りき。

「あ、後、それ何だよ!」
「ほえ?それ?どれ?」
「そ、そのう・・・それだよ!」
「どれ!?」
「呼び方だよ!」
「博君?」

紀伊梨にとっては、この位の呼び方はとてもナチュラルにやっている事である。
綽名の一環。別に他意など欠片も無い。

無いけど、それはあくまで紀伊梨側の話。
可愛いな、ちょっと良いなと思っている米原側としては、心臓に悪いので止めて欲しいのだ。

「嫌?」
「い、いやっていうか・・・こう・・・」
「????」
「・・・あー!もう良いよ、もう!」
「???良く分かんないんけど、良いんですな!」

嫌なんじゃない。
どういうつもりかと聞きたいのだ、米原としては。
でも聞くの恥ずかしい。

だから察して欲しいのに、紀伊梨は全然察してくれる気配何て無いもんだから、米原は諦めざるを得なかった。

・・・呼ばれなくなるのも、ちょっと嫌だったし。

「ねーねー、博君?」
「・・・なんだよ。」
「話変わるんだけどー、けーたい貸してくんにゃい?紀伊梨ちゃんのけーたい、使っちゃ駄目なんっしょ?」
「ああ、そっか。うん。はい。」
「やたー!あんがとー!神様仏様、博君様ー!」
「お、大袈裟なんだよ!」

まあ、元々助けるのにやぶさかではなかった。
見かけたのは完全に偶々だったが、声をかけたのは助けたかったからだし。

「じゃ、ちょっと貸してね!直ぐ返すから!」
「俺のまで落とすなよ!」
「あいあいさー!任されよー!・・・・って。」
「?」
「・・・・・・」
「・・・おい、どうしたんだよ?」

紀伊梨はくるんと米原の方を見て、言った。

「・・・紫希ぴょんの携帯番号って、何番だっけ?」
「へ?」
「め、メアド・・・千百合っちのメアド!も、覚えてないし・・・なっちんのLINEID!・・・も、覚えてないし・・・!そーだよ!これ紀伊梨ちゃんのけーたいじゃないから、皆のばんごー、入ってなーい!」
「覚えてないのかよ!」

紫希達の番号が入ってないなんて、そんなの当たり前だ。
米原と紫希達はほぼ他人だもの。

てっきり番号を覚えているから貸してと言って来たのだと思ったのに。

「どうするんだよ・・・」
「あー、うー、あ!そーだ!ねー、博君!これちょっと貸して!」
「貸してるだろ!」
「じゃなくてじゃなくてー!これがあれば元居た場所に帰れるから、それまで貸して下さい!お願いします!」
「ああ、そっちか。」
「つ、ついでにー・・・」
「?」
「傘に入れてくれたらー、嬉しいなー、なんて・・・駄目?」

「え・・・え?」