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「此処が生徒会室だ。」

紀伊梨は柳に案内して貰い、そこそこの距離を歩いて生徒会室まで辿りついた。

今は昼休みなのにこの一帯は静まり返っていて、屋外から微かに聞こえてくる生徒の声が余計に此処の静寂を際立たせる。

「うにゅ~、苦手な雰囲気ー。」
「そうだろうとは思うが仕方がない。」
「これ中、人居るよね?」
「ふむ・・・確かに明かりが点いていないな。」

柳の脳裏に此処じゃなかったか?という考えが一瞬過るが、生徒会室は此処しかない。

「兎に角、入らない事には何も分からない。」
「ううう・・・お、お邪魔しますっ!」

それを言うなら失礼しますだろう。
もう突っ込む気も起きない柳の目の前で、紀伊梨が引き戸に手をかけた。

ガラリ。

「・・・ありぇ?」
「誰も居ないな。」

中は無人だった。
無人だったが、机の上に冊子が置いてある。

柳は完全に初見だが、紀伊梨には見覚えのある表紙。
あれは。

「すみません、少々席を外して居りました。」

「ぎゃああああああっ!!!」

紀伊梨は飛び上がるくらい驚いた。
完全にノーマークの状態で、背後からいきなり柳以外の声がして、死ぬほどビビった。
ホラー嫌いには堪える。

「ふむ・・・声質から察するに、放送で五十嵐を呼び出した人物である確率、64.787%だな。」
「御明察です。しかし、その程度の確率しかないとは、これは本格的にスピーカーの買い替えを検討せねばなりませんね。参考になるデータの提供、感謝しますよ。」
「いや、大した事じゃない。」
「ねーねー!ふっつーに会話してるけど、結局私の事呼んだのって眼鏡くんなの?」

ビビりだが立ち直りも早い紀伊梨を、眼鏡と呼ばれた少年の眼差しが捉えた。

「如何にも私ですが、名前は眼鏡ではありません。私は生徒会所属1年F組、柳生比呂士と言います、以後お見知りおきを。」

キラッと光る眼鏡。
隙の無い自己紹介。
だが紀伊梨にそれはなかなか通じない。

「いご、おみしり?おきお?」
「・・・・・・・」
「柳生とやら。気持ちは分かるが五十嵐を相手にする時は、もっと簡単な言葉で子供に言い聞かせるつもりにならなければ、なかなか難しいぞ。」
「あー!やなぎーひどーい!そんな事ないもん!やなぎー達の頭が良すぎるんだよ!」
「いや、これは確実にお前の頭が悪すぎるからだ。」
「そんなー!」

柳生は大袈裟に溜息を吐いた。

まさか五十嵐紀伊梨なる人物が此処まで馬鹿だったとは。
予想もしなかった事態。

「とてもこれを書き上げた人とは思えませんね・・・」
「入って来た時から気にはなっていたが・・・それはなんだ?」
「そーそー!それ、私達の出したやつだよね!」

柳生の手にあるのは、入学式の日皆で学校に提出した校内ライブの企画書であった。

「ええ。今日はこの事で貴女に御足労頂いたんです。」
「ごそくろ?」
「・・・呼んだんです。」

会話が辛い。柳生は一刻も早く切り上げたくなってきた。

「そなの?なーに?」
「単刀直入に申し上げますと、」
「たんとうちょくにゅうって何?」
「・・・・・・」
「抑えろ柳生。五十嵐、単刀直入とは「ハッキリ言うと」という意味だ。」

微妙にニュアンスは違うのだが、そんな事まで解説していられない。
いつもこんな紀伊梨の相手をしている紫希は偉いんだな、と柳はしみじみ思った。

「ほうほう!ハッキリね?で、ハッキリ何を言うの?」
「・・・この校内ライブの件ですが。」

柳生の眼鏡がキラリと光った。

「この企画書のままではライブの許可が出来ません。補足の説明かもしくは、中止か。どちらか選んで頂きたい。」



「・・・・えええええええーーーー!?」

紀伊梨の叫びが生徒会室に木霊した。