ぷるぷる。
ぷるぷる。
紙束を持つ両手が震える。
(あわわわわわわわわわわわ)
「従って、この照明プランも企画書にはこうありますが、実際には此処にも人員を置いていなければならないのであって・・・五十嵐さん、聞いていますか?」
聞いてない。
いや、聞けていない。
矢継ぎ早に繰り出される柳生の追及に、紀伊梨はもうあっぷあっぷしている。
(これは辛いな)
このままでは校内ライブは認められない。
だから追加説明か中止か選べと言われて、当然紀伊梨は追加説明を選んだ。
しかし説明しろと言われても、ご覧の有様である。
あれはどうする、それはどうする、と柳生に聞かれても、紀伊梨は一つもまともに答えられない。こういう段取りめいた事を考えるのは、紀伊梨の最も不得意とする所だ。
成り行きで事の次第を見守っていた柳だが、流石に此処までくると紀伊梨が不憫に見えてくる。
「・・・柳生、1つ良いか?」
「はい?」
「そもそも論になってしまうが、その企画書は先生方の許可が降りたのだろう?何故今更それを?」
「ええ、確かに先生方は良いとおっしゃいましたし、私達も行う事そのものに異論はありませんよ。ただ、実際人を割いて運営するのに生徒会側の段取りは避けて通れません。なので、やりたい演出があるのなら此方の事も考えて頂けなければ困るのです。」
「成る程。ライブそのものではなく、五十嵐達の望むライブにどれだけ近づけたいか、という話だな?」
「そうです。ただ歌ったりなどするだけなら兎も角、軽音楽となると楽器の移動の問題もありますからね。」
「ふむ。」
確かにそれなら、柳生の言う事も筋が通っている。
それだけに下手に反論出来ないのが痛い所でもあるが。
(しかしそれなら・・・)
「柳生、俺から提案がある。俺はメンバーではないので、五十嵐がそうするかどうかは又別の話になるが。」
「やなぎー・・・」
「提案・・・良いでしょう。なんですか?」
「察するにお前は、その企画書にリーダーと記載があるから五十嵐を呼び出したのだろう。しかし残念ながら、この手の事に関しては五十嵐は、メンバーの中で最もなんというか・・・話にならない。」
「話にならない!?」
「本当の事だろう?違うなら今此処まで弱ってはいない筈だ。」
「ううう・・・」
その通り過ぎて何も言えない。
「しかしだ。五十嵐以外の3人は、全員五十嵐より遥かに話が通じやすい。よってこの場は話を保留にし、又時間を改めて他3人を交えて話をした方が、お互いに良い落とし所が見つかる確率100%だ。」
「ふむ、成る程・・・」
柳生は少し眼鏡を直した。
確かに柳の言う事は当たっている。
柳生が紀伊梨を選んで呼び出した理由は、企画書にバンドのリーダーであると明記されていたからだ。
それに正直、リーダーがこれでは他の3人も余りスムーズな話運びを望むべくもないな、と思っていた節もある。
だが、そうでないのなら。
「分かりました。それなら、この場で結論を出すのは一先ず止めと致しましょう。」
「本当!?」
「ただし、日を改めるにしても限界はあります。なるべく早く来て頂きたいのですが。」
「うん、行く!直ぐ行k「因みに〆切は何時だ?」
柳はサッと紀伊梨の口を塞いだ。
「そうですね、遅くとも・・・来週の頭には。」
「分かった、従おう。」
「では、今はこれにて終了という事で。有難う御座いました。」
「いや、此方こそ感謝する。」
「プハ!ありがとー御座いました!」
「いえいえ。此方としても、学校を盛り上げてくれるのならば歓迎すべき事なので。それでは、来週月曜日迄にお願いします。」
「うん!見ててよ、ぜーったいライブやって、皆の事吃驚させちゃうんだかんね!」
「ほう、それはそれは。」
「・・・それは本当だ。」
柳は真剣な声音で言った。
「パフォーマンスが可能なら、ビードロズは必ず生徒の楽しみになる。それは俺が保証しよう。」
(やなぎー・・・)
柳の態度に、柳生はほんの少し、誰ともそうとわからない程度に微笑んだ。
「承知しました。私も期待しています。」
「ああ。」
「ねーねー、承知って「さあ行くぞ五十嵐。一刻も早くこの事を伝えなければいけない。」
余計な事を言わない内にと、柳は紀伊梨を引きずるようにして生徒会室を後にした。