Alienation - 1/5



午前7時。
まだ早い時間に、可憐は家の入り口前に立っていた。

まだかな。
いや、もうそろそろの筈。

「可憐、本当に忘れ物はないよね?」
「お母さんっ!うんっ、何度も確認したし、きっと大丈夫っ!」
「そっか!うん、お母さんも今日はちゃんとお箸入れたし、水筒、お弁当、うん、大丈夫な筈・・・」
「あっ!来たっ!」

何がか。

リムジンである。

「お早う御座います。」
「おはよう、跡部君・・・」
「お早う御座います、跡部君!じゃ、悪いんだけど・・・今日もお願い出来るかな?」
「はい、お任せを。おい、乗れ。」
「はあい・・・」

地区予選の折、リムジンで送迎の憂き目(敢えて憂き目と言おう)に遭った可憐だが、県大会でもこれは持続した。

一度は結構と断ったのだが、どうせ芥川は絶対拾わねばならないのだし、ものの序で。
何より、絶対絶対迷わない自信があるか、迷子になったら責任取れるかと言われると、ドジの自覚のある身としては嫌とは言えないのだった。

「忘れ物は無いな?」
「うんっ!」
「よし、出せ。」
「お母さん、行ってきます!」
「はあい、いってらっしゃーい!」

母に見送られて、リムジンは滑らかに出発した。

「ふう・・・樺地君、おはようっ!今日は一緒なんだねっ!」
「ウス・・・おはよう、ございます・・・」

前回、樺地は居なかった。

たかだか地区予選程度について来なくて良い、それより次に向けてやっておいて欲しい雑務があるから、と跡部から言われ樺地は部に居た。

その事が可憐をちょっと緊張させる。
今日は都大会。
地区予選よりレベルが上がっている事を、樺地が付いて来ていると言う事実が思い起こさせる。

「芥川君は・・・」
「zzzzz・・・・」
「あはは・・・」

起きない。
マイペースである。

寧ろ車の振動気持ちE~、みたいな心地だろう。

「・・・・ねえ、跡部君っ?」
「アーン?」
「今日、忍足君と茉奈花ちゃんはっ?」

前回はあの2人もリムジンに乗って居た筈だが、今日後部座席には自分以外には芥川と樺地しか居ない。

「あの2人はもう先に行ってる筈だ。」
「そうなのっ?」
「元々、彼奴らは送迎なんざ必要ねえ。部が新体制になって初めての公式試合という事で、打合せがてら乗せて行っただけの事だ。」
「あ、そうなんだ・・・」

地区予選を経て、もう大体勝手は分かった。
だから、今日は普通に各々向かってくれて良い。
別にあの2人は迷子になったりとかしないだろうし。

(そっか・・・そうだよねっ、2人共私と違ってしっかりしてるし、迷子になんかならないし・・・)

でも、勝手に今日も2人共居るものと思っていたからなんとなく寂しい。

「・・・ハッ!」
「・・・?どうか、しましたか・・・?」
「あっ!ご、ごめんね、なんでもないよっ!」

(待って待ってっ!これはチャンスかもっ!車に居たら絶対2人にはなれないけど、今日は2人になれるよねっ!)

そうと分かれば話は早い。
忍足に朝の挨拶と、今日は網代も車に乗ってない事を連絡したら、今からでも会場まで2人で行けたりするんじゃないだろうか。

「えーと、LINE、LINE・・・」

アプリを起動して、忍足の名前を探し。

探し・・・・

「・・・・・」

なんだろう。

指が重い、心なしか。

今から連絡しても、向こうからしてみたら、もう今更間に合わないかもしれないし。
こんな細かいチャンスいちいち言っててもキリがないし。
そもそも協力を頼まれたわけでもないのに、ほらチャンスだよ!チャンスだよ!と自分ばかり騒いでいてもというか。

なんて。
珍しく、そんな言い訳めいた考えが心にポン・・・と浮かんでは消え。浮かんでは消え。

「桐生。」
「・・・・・」
「桐生!」
「・・・えっ!は、はい!何!ごめんなさい、何ですかっ!」
「今から送るPDFを見ろ。2項目目について意見を聞きてえ。」
「わ、分かったっ!えーと、ドライブ、ドライブッ!」

閉じざるを得なくなったLINEのアプリが。
視界から消えるアイコンが。

ちょっとホッとした、気がした。