「インタビューだって、インタビュー!凄いよねっ!」
可憐は大興奮で昼食を食べていた。
1回戦の際ぶつかった井上は、なんと。
今年の東京の注目校として氷帝を取り上げる、という予定で此処に赴いたのだった。
「うふふ♪何より、声をかけてきた雑誌があの、「月刊プロテニス」さんだっていうのが、鼻が高いわよね!」
「そうなのっ?」
「ええ。雑誌の名前こそ「プロ」テニスだから、学生のテニスの話は無いって印象を持つ人も多いけど、それは間違いよ?学生テニス雑誌より、きっちり学生テニスを取り上げてくれるって有名なの。」
「わあっ!やったあっ!」
元々氷帝学園は弱小校というわけではなかったので、強豪という意味では注目校として取り上げられる可能性は、それなりに持っていた。
ただそれに加えて、あの跡部財閥の御曹司がいきなり部長になりテニス部を仕切っているという事で、今回改めて取り上げる価値ありと雑誌側は思ったのだった。
「ねえねえ茉奈花、それってさ!」
同じく一緒に昼食を摂っていた、マネージャー仲間の金町あかりが、可憐と同じく興奮気味に言った。
「もしかして雑誌に載ったりしたら、来年の新入部員なんかももっともっと入ったりするんじゃない!?」
「えー?」
「えーって何よ・・・真理恵は嬉しくないの?」
「単純に有名になるのは嬉しいけどー。でも、今より増えて一体どうしろってのー?って感じはするんだよね。」
同じくマネージャー仲間の新城真理恵は、些か疲れ気味の声を出した。
「今でさえ、割と大変なのにさあ。マンパワー不足で。」
「ふふっ。ま、真理の言う事も一理あるかも、ね。」
「ちょっと、茉奈花まで!」
「で、でもっ!心配しなくても、来年はマネージャーだってもっと増えるよっ!ほら、今はちょっとそのう・・・大きい声じゃ言えないけど、そのっ。人口分布が特殊だからっ。」
「あー。」
「まあ、それはそっか・・・」
そう。
一番最初に、マネージャーに関して一悶着あった所為で、マネージャーは数を見ると激減としか言いようの無い減り方をしてしまったのである。
その後テストを経て戻った2、3年生も居るが、勿論戻らなかった者も多い。
来年の課題として、マネージャの頭数集めは避けて通れない話題でもあった。
そんな折、ふいと可憐の脳裏に、先日会った厨ニ病のあの少女が過った。
(ちょっと変わった子だったけど、ああいう元気な子が入ってくれたら良いなっ!フットワークも軽そうだったしっ)
まあ、その分個性を抑えようとしないし我が強いので、ああいうタイプは跡部とぶつかったりしそうという懸念もあるが。
いやでも矢張り、マネージャーはどうしたって体力を要求されるから・・・などと考えていると、新城が言い難そうに口を開いた。
「あ、あの・・・茉奈花。」
「ん?」
「あの、今しんどいって言っちゃったけど。でも、別に上が居ないからだとか、思ってないからね?」
「!そーだよ、真理恵!何か、茉奈花の所為みたいな事言ってない!?」
「言ってない!言ってないし、誤解されたら嫌だから、こうして説明してんでしょ!」
そう。
上級生居ないから大変だよねーという話は、取り様によっては網代への当てつけになる。
網代が悪いわけでは無いけれど、あのいざこざに於いて網代は当人であり、渦中の人。
「うふふ!大丈夫よ真理、私気にしてないから。」
「本当?」
「茉奈花!駄目だよ、ビシ!っと言ってやらないと、真理恵は直ぐ余計な一言言うんだから、」
「あかりのそれも余計な一言でしょー!」
「もうっ!あかりも真理恵ちゃんも座ってようっ!2人で喧嘩しないでっ!」
「おい、網代。」
わあわあ騒ぐ一同の中に、突如王のお声が割って入る。
あら跡部君、なんて応対する網代と可憐は慣れた物だが、金町と新城は色んな意味での緊張を覚えてサッと黙った。
「なあに、どうしたの?」
「月刊プロテニスからのインタビューの件だが、お前に任せたい。」
「私?」
(・・・!)
網代はキョトン顔で自分を指差して続けた。
「構わないけど、私より跡部君が受けるものじゃないの?こういうのは。」
「時間の都合だ。向こうの指定した時間から開始すると、二回戦に縺れ込む可能性がある。が、かといって、早く終わらせようと急いだ挙句満足に答えられなかったというのは避けたい。」
「成程ね、分かったわ。質問のリストはある?」
「ああ、貰ってる。」
「ちょっと見せてくれる、かな?」
網代は直ぐに箸を置くと、弁当はそのままに跡部について行ってしまった。
その後ろ姿を、可憐達は見送る。
「・・・はー。緊張するう。」
「っていうか、茉奈花すごーい!」
「何よあかり、急に。」
「だって、インタビューだよインタビュー!言葉がそのまま載るわけじゃないにしろさ、茉奈花の話した事が雑誌に載るんだよ!凄くね!?」
「いやまあ凄いけど、」
「だよね!ねえ、可憐!凄いよね・・・可憐?」
「えっ?あ、うんっ!凄いねっ!」
「だよねだよねっ!」
「ま、茉奈花ならまずい事は言わないだろうしね。人選として妥当だよね。」
「ねー!」
雑誌だ、インタビューだ、と盛り上がる金町と新城。
その2人を見ながら、可憐はぼんやりと弁当を口に運ぶ。
凄い。
網代は凄い。
うん、知ってた。
それはよーく知っていた。
一緒に活動し始めて2ヶ月だけど、如何に網代が「出来る」女子なのかは、自分が一番知っている。
自分と違ってドジどころか並み以上になんでもやってのけられて、テニスの事も詳しくて、皆から頼りにされて。
凄いなあ、自分もあんな風になりたいなあ、こうやって頑張っていたら、同じレベルとは言わないまでも今よりは少しは近い自分になれるかな、なんて。
でも今インタビューに呼ばれた網代の姿を見て、ちょっとその思いが陰った気がした。
弱くなったわけじゃない。
金町が言うように、凄い事だと思う。
跡部辺りはそれこそ注目を浴びるのに慣れているので、「たかだか雑誌のインタビューごときで」とか思うのかもしれないが、可憐はそんな風には思えない。だって、自分達は中学1年生なのに。
それなのに雑誌のインタビューを受けると言うか、捌けるって凄い事だ。
でも、凄い事だと思うからこそ。
今何だか、近づくどころか寧ろ水を開けられ続けているのではないか、感が心を過って。
(・・・って!駄目駄目、こんな事考えてちゃっ!)
向上心を持つのは良い事だが、人と比べて人を羨むのは良くない事だ。
自分にとっても、相手にとっても。
だから駄目。それはいけない。
「?」
「どうしたの可憐、頭振っちゃって。」
「ううんっ!何でもないっ、何でもないよっ!」
「「?」」