Pre-tremolos 1 - 4/6


ビードロズが今日の会場に到着する頃、ほぼ同時に会場に到着した男が居た。

その名は、井上守。
そう、月刊プロテニスの井上である。

「ふう・・・やれやれ、今日は暑いな。」

先日の前半戦とは打って変わって、今日は快晴。
雲一つない夏晴れである。

井上はハンカチで汗を拭いながら、神奈川県大会後半戦の会場に居た。

何しに来たの?というと、勿論取材である。
勿論取材だが、今日はもう1つ、重要なお仕事がある。

(さて、それらしき子達は・・・)



「あち!熱い、熱い、あついーー!」



「ん?」

井上が振り向くと、其処にはスマホをタオルで包んでふうふうと息を吹きかける紀伊梨とビードロズ達。

「だ、大丈夫ですか!?」
「熱いよ~!!もー、ちょーっと置き忘れただけじゃーん!」
「この日差しだからねwボンネットで目玉焼きが焼けるねw」
「雨傘は要らないけど、日傘は要ったかもね。」

紀伊梨は会場に着いて直ぐ、携帯をベンチの上に置き忘れた。
慌てて取りに戻ると、幸いにも携帯は盗られもせず其処に有ったが、日差しをもろに受けてすっかり熱い金属の塊になっていたのだ。

「確かに、日傘は有った方が良いかもしれませんね。今日勝ったとして、関東大会は来月で、全国大会は再来月で・・・」
「夏休みだもんなw暑さが加速するわw」
「6月なのにあちゅいよねー!もー汗でべとべとだよー!試合も始まってないのにー!」
「いっそ夏になった方が湿度は下がるんじゃないの。」


「君達!ちょっと良いかな?」


振り向いたビードロズ達を見て、井上は確信した。
この子達だ。間違いない。

「おじさん誰ー?」
「ああ、失礼。はじめまして、だね。俺は井上守。月刊プロテニスの編集者だ。君達は、立海の応援の生徒だろう?」

月刊プロテニス。
というと。

「ひたきおねーちゃんの雑誌?」
「その件なんだ、本当に申し訳ない!」

井上はバッ!と頭を下げた。

「うちの小鳥遊が迷惑をかけたみたいで。君達にも選手にも、本当に失礼をした。すまない、謝って許してもらえるか分からないが。」
「おおう!?え?え?紀伊梨ちゃん達もー怒ってないお?」
「怒ってないとかじゃないんじゃない、この場合。」
「まあw立場がありますよね、会社的にw」
「あ、あの・・・少なくとも、私達はもう気にしてませんから。どちらかというと、幸村君達の方に一言・・・」

井上はちょっと泣けてきた。
なんて出来た子達だろう、小鳥遊よりもっとずっと大人の対応じゃないか。
ああ恥ずかしい、自分が失敗したわけじゃないとしても。

「有難う。そう言って貰えると、助かるよ。本当に。」
「まーまー、おじさん!人生誰でも、失敗はありますぜ!やっちゃったらごめんなさいして、もうしません、って覚えてたら良いんだお!」
「それに、ひたきさんも何も悪意があったわけではないと思いますし。取材は取材で、きっちりやって頂けましたから。」
「ま、「やっちゃった」自覚と「もうしません」を忘れないようにだけ言っといてよ。」
「あんたが悪いわけでもねえしさwこっちが言うのもあれだけど、元気出してよw」

(・・・うちの上司になってくれないかな?)

正直、ひたきが上司よりビードロズ達が上司の方が楽なのではと割と真面目に思う。

「最近の子は、中学生でもしっかりしてるなあ・・・この前の氷帝の子もきびきびしていたし。」
「おー!おじさん、氷帝の事も知ってるのー?」
「勿論!東京の注目株さ!僕は、前半戦の日は東京の氷帝に取材に行ったんだよ?」
「わあ・・・!やっぱり凄いんですね、氷帝学園って。」
「何か、ここ最近東京では1番らしいよ。」
「おまけに現主将があれだしねwそら注目されるわw」

多分、目を引いている原因はテニスそのものだけではなかろう。
「跡部が仕切る氷帝」のあれやこれやを思うと、そりゃあ取材のし甲斐もあると思われる。

「じゃーおじさん、べ様にもインタビューしたんですな!」
「べ様・・・ああ、もしかして跡部君かい?彼には残念ながら、話を聞けなかったんだ。」
「あれ、そうなの。」
「逆に、彼奴以外の誰から話聞くんだよw」
「いやあ、僕としても彼に聞きたいのは山々だったんだけどね!スケジュールの都合でどうしても試合の時間と被ってしまったから、選手から話を聞くのは諦めざるを得なくて。結局、マネージャーさんにお世話になったんだよ。」
「あっ、じゃあ可憐ちゃん・・・じゃ、ない。ええと、茉奈花ちゃんですか?」

自分達に近いので、つい「氷帝テニス部のマネジ」というとポンッと可憐の顔が出てきてしまうが、確かマネージャーの代表としては網代だった筈。
言い直す紫希に、井上は頷いた。

「そう。網代茉奈花さんという子だったよ。お友達かい?」
「そう!氷帝のまあちゃんと可憐たんは、紀伊梨ちゃん達のお友達です!」
「桐生可憐さんか。彼女にも会ったよ。彼女も素敵なマネージャーだね、少々そそっかしいが。」

先日、ぶつかった事を謝ると、何時もの事だから気にしないで下さい!と元気よく返事してきた可憐の姿が思い出される。
何時もの事というのもどうなんだろう・・・と思いつつ。

「・・・ん、ちょい待っておじさんw」
「うん?なんだい?」
「おじさんが今日此処に居るって事は、もしかして小鳥遊さんは今日向こう側すかw」
「ああ、そうだね。基本2人一組なんだけど、ちょっと入る予定だった社員が夏風邪をこじらせちゃって。だから県・都大会の間は俺と小鳥遊さんはバラバラで動くよ。」
「へー!そうなんだー!」

(やべえぞ、良いのかw)
(うーわ、可憐かわいそ。)
(だ、大丈夫でしょうか・・・・)

あの小鳥遊に次のターゲットにされるであろう氷帝に、3人は隣県からそっとエールを送るのだった。