Pre-tremolos 1 - 5/6


さて、3回戦。
これに勝てば準決勝進出となり、晴れて関東大会への出場が約束されるわけだ。

この、「此処で勝てば」というプレッシャーは出場者には結構キツい。

普通は。



「ゲームセット&マッチ!ウォンバイ立海!6-4!よってD2は、立海大附属の勝利とします!」



「ゲームセット&マッチ!ウォンバイ立海!6-2!よってD1は、立海大附属の勝利とします!」



「ゲームセット&マッチ!ウォンバイ立海!6-1!よってS3は、立海大附属の勝利とします!」




「クッキーとかけましてw本日の前半戦とときます、その心はw」
「え?ええと・・・ええと・・・サ、サクサク、です・・・?」
「正解w」
「あり?もしかしてもー終わっちゃった?」
「多分。」

組み合わせの妙というか、トーナメント戦と言うのは、何処まで勝ち上がれるかおおいに運に左右される。
基本強い所が最終的に残るものだが、強い者同士の潰しあいとか、弱い物が陰で残るとか、まあ、ままある事。

この日の前半戦もそうだった。
単なる地力で言うなら1回戦の野田南とどっこい位、な学校が相手だったため、ごくあっさりと片付いた。

「ゆっきーの試合はー?」
「見られないよw当たり前だろw」
「やっぱり、S1ってなかなか回ってこないですよね、何処の学校も・・・」
「まあね。S1迄回って来るって、結構いい勝負してるって事だし。」

しかしそれにしても、3タテはなかなかえげつない。
しかも大差がついているせいで、1試合1試合とても短い。

昼休みは12:30から。
しかしなんと、今11時。

成り行きによっては早く終わる事もあるというが、それにしたってあまりに早いではないか。

「なんか、暇になっちゃったなw」
「あ、じゃーゆっきー達と遊ぼうよー!」
「出来るか。」
「え!?出来ないの!?」
「まだ厳密には、お昼休みではないですから・・・試合中の所が他に沢山ありますし。」
「あんまり立海の待機スペースからは離れられないだろうよw」

勿論お昼休みみたいなものとして解散する学校もあるけれど、立海はそういう気の緩みとは無縁の学校である。
多分、12:30分になるまで、誰も飯を食わないし用事もないのにふらふらしない。

「なんだー、つまんにゃーい。」
「まあまあw大人しく待ちましょうぜw」
「とは言っても、何処に居れば良いんでしょう・・・」
「昼飯の場所でも先に確保しとくか。」

なんて言いながら、4人は観覧席を後にした。


今日は本当に良い天気だ。
暑いけれど、この前みたく雨がざんざか降っているよりは、やっぱり行動が楽。

「何かもー、お腹空いちゃったなー!早くお昼食べたいでやんすー!」
「ふふふっ。そうですね、試合も勝てた事ですし、ホッとしましたから。」
「これで関東大会出場決定かーw大きな声で言えないけど、ドラマに欠けるよねw」
「ドラマとか要らないわよ、別に。」

ギリギリの試合なんて無くて良い。
綽々余裕で進めるなら、それに越した事なんてないのだ。

立海は、もっと先へ行く。
こんな所でヒイコラ言ってる場合じゃない。


だから。



「千百合ちゃん。」



だから、自分は貴方にそう伝えよう。



「あー!こないだの試合の時の、えーと・・・どっかのがっこーのせんせーだー!」
「城成湘南ですよ、紀伊梨ちゃん。華村葵先生です。」

(おいでなすったか・・・)

来たよ、な顔の棗だが、千百合は平常心。
無表情。狼狽えない。

狼狽えない千百合に、華村もまた狼狽えない。
悠然とビードロズを見回して、ごく穏やかに話し出す。

「この前以来ね、立海応援団の皆。前も同じ事をして申し訳なかったけれど、今度も少し時間を貰えないかしら?千百合ちゃんの・・・ね。」
「お?千百合っち?ゆっきーじゃないの?」
「うふふっ、違うのよ。今日は、黒崎千百合ちゃんに用事があるの。」
「し・・・失礼ですけれど、何のお話で・・・?」
「それは、千百合ちゃんが良く知ってるわよ。ね、千百合ちゃん?」

にっこり笑う華村に、紀伊梨さえも胡散臭さを感じる。

行かない方が良い。
碌な話じゃない気配が、とてもする。

だが、千百合はさらっと言った。

「良いよ。」

「えええええええ!?」

「煩えwお前の大声は洒落になってないんだから叫ぶなw」
「で、でも!千百合ちゃん、良いって・・・良いんですか?」
「良くないよ!駄目だよ、千百合っち!」
「あら、なんだか嫌われちゃってるわね?」
「だってせんせー、ゆっきーの事スカウトしに来てたんっしょー!?って事は、千百合っちの事もスカウトしよーとしてない!?ゆっきーと一緒に、うちのえーと・・・城成?湘南?に来ない、とか言ってー!」

なんと、ほぼ正解。

紀伊梨はこういう時、抜群の勘で、誰より先に正解に辿りつく事がある。
この時もそうだった。普通の人なら、選手でも何でもない千百合を勧誘してどうするんだよ、と歯牙にもかけない正解の可能性を、直ぐに言い当てて見せた。

「駄目駄目、そんなのー!ゆっきーが駄目だから千百合っちだなんて、そんなの紀伊梨ちゃん達が許さないんだかんね!」
「ええっ!?どうして千百合ちゃんがスカウトに、テニス部でも無いのに・・・」
「・・・・・ねえ?おかしいよねw」
「ええっ!?本当にスカウトなんですか!?」
「ほら、やっぱりー!駄目だよ千百合っち、絶対行っちゃ駄目!駄目駄目!リーダーは許しません!」
「そ、そんな!千百合ちゃん、行きませんよね!行かないと言って下さい・・・!」
「ちょっと。まだ私何も言ってないじゃん、落ち着いてよ。」
「だって良いって言ったじゃん!」
「話に付き合うのに対して良いよ、って言ったの。話の中身に対して良いよ、って言ったわけじゃない。」

紀伊梨は兎も角、棗が微妙な事を言うものだから、珍しく紫希まで狼狽えてしっちゃかめっちゃかになっている。
冗談じゃない、自分はスカウトに対して良いよと言った記憶は無いぞ。

まだ。

「・・・なんだか大変な騒ぎになっているけれど、話を戻しましょう。時間を貰えるのよね、千百合ちゃん?」
「うん。」
「なら行きましょう。あっちなら邪魔が入らないわ。」
「分かった。ってわけで、私ちょっと行ってくるから。先行っといて。」
「おい、千百合!お前まさか、マジで本当に・・・」

向こうに行く気じゃ。

そう言いかける棗達に、千百合はくるっと振り向いて。

肩を竦めてみせた。


「・・・マジ?」


棗の焦った声が落ちる中、千百合は華村とその場を後にした。