「・・・・」
「・・・落し物でもしたかい。」
「へ?」
「後ろを見たそうにしているじゃないか。」
並んで歩く郁には、丸わかりである。
さっきから丸井の目線は、前を向きつつ時折振り返りたげに横を向く。
「ああ、いや?別に何も落としてねえけど。」
「なら前を見て歩く事だね。君が転んでも、僕はなにもしてやらないぜ。君のファンじゃあるまいし。」
「ファン?って、春日?」
「・・・・まあ、彼女も含めてだよ。君に優しくしてくれる女子の事さ。」
「え?お前の中で優しくしてくれる奴って、皆ファンなのかよ?」
「君の周りにはファンの方が多いだろうな、という話だよ。」
郁は、紫希を掴みかねていた。
はっきり言おう。
郁は紫希の事を、ついさっきまで役者なのだと思っていた。
紫希は郁の事を知らなかったが、友人を通して、郁は紫希を一方的に知っていた。
見た事は無かったけど、噂や話は山ほど聞いていた。
目立ちたくないくせにテニス部と友達だなんて、矛盾してる。
つまり、目立ちたくないというフリをして、その実目立ちたがり屋の男好きなのだと考えていた。
本当は目立つの嫌いなの~、でも友達は有名人のイケメンが多いから、嫌なのに目立っちゃう~!そんなつもりじゃないのに~!なタイプに違いない、と。
地味アピールにあっさり騙されて、男子テニス部って顔は良いのかもしれないけど馬鹿の集まりなんだな、と思って疑わなかった。
だからもし会う事があっても、決して友達にはなれないだろうと思っていたが、さっき実際会ってみて、そのイメージは覆った。
もし本当にその推測通りなら、女子の前で引っ込み思案ぶるのは不要である。
でも、手伝いを申し出て来た時のおずおずとした雰囲気は、郁の警戒レーダーに引っかかって来なかった。つまり、あれが素。
となると、次に可能性の高いのは、一方的に目立つ連中に気に入られて、迷惑に思っているけど突っぱねられない。という可能性である。
この考えは、郁の中でとても筋が通った。
今目の前に居る紫希のイメージに合っており、且つ聞いていた話と矛盾も無い、と。
でも、それならあの時の大声を出した紫希に説明がつかない。
取り敢えず、ミーハーと思われたくはないという部分はスッと自分の中で通ったから、そこは結論が出たが。
後はもう、純粋に紫希は丸井のファンで、偶々丸井に覚えられてる、くらいしか通りそうな説明が無いな・・・なんて思う郁は、賢く生きようとするあまり、逆に賢くなれてない事に気づかないのだった。
「ファンねえ。ま、俺、自分にファンとか居るって意識はあんまりねえけどな。幸村君じゃあるまいし。」
「彼のファンは、ファンというよりは信者だろう。神の子にひれ伏して居るんだし。」
「・・・お前さ。」
「あまり話しかけないでくれるかな。」
「思ってたんだけど。」
「無視とはいい度胸だねーーー」
「なんで、人に向かって上か下かでしか物見ねえの?」
郁は心臓がひやりとした。
「何か、何かっていうとファンだとか信者だとかさ。そういうのじゃなくて、友達とか、応援したい同級生とか、そういうのじゃ駄目なのかよい?」
「それはーーーーーー君が、そう。君が、上だからだ。上の人間は、下々の者の事なんて分からないのさ。」
「だから、」
「知った風な口をきかないでくれるかい。君はそれと知らないだけで、スクールカースト上では上の人間、僕は下の人間。そしてお互いに不可侵。それで良いんだ。したり顔で説教は止めて欲しいね。」
「・・・別に説教する気はねえっていうか、好きにしたら良いけど。」
「なら、言わなくても良いだろう。」
「でも言わねえとお前、春日の事、俺のファンだって扱いするんだろい?」
「それが何か?正しいじゃないか。」
「正しくねえよ!どういう考え方しててもそれは勝手だけど、俺の努力まで消すような真似すんのは勘弁してくれよい。
・・・やっと友達になったんだからな。」
初めて会ったのは4月の頭だったのに、友達になってくれと言われたのは4月も下旬になった頃だった。
それからもちょっと目を離すとすーぐ身を引いて、引いて引いて、そのまま何処かに行きそうになる紫希を頑張って捕まえて、ようやっと最近向こうが逃げないでそこに居てくれるようになったのに。
それなのにファンだとか何だかとか、如何にも紫希が真に受けそうな、不吉な事を言わないで欲しい。こんな事で今迄の積み重ねがぱあになるとか、考えたくない。
「友達?そっちが勝手に彼女を友達扱いしているんだろう?彼女は君を友達だと思ってないさ。」
「逆に、お前は何で其処まで言い切れるんだよ?お前ら仲良いの?」
「今日が初対面だが、彼女は僕とよく似ているからね。ある程度の事は本人に確認を取らずとも分かるってものだよ。」
「似てる?何処が?」
寧ろ逆に何から何まで違うんだが。
郁には紫希がどう見えているのだろう。
変わった奴だな・・・なんて丸井が思っているのを、郁はなんとなく分かっている。
でも郁は、本当に紫希は自分と似ていると思っていた。
静かなのが好きな所とか。
目立つのが嫌いな所とか。
本質的には臆病な所、とかが。