Pre-tremolos 2 - 5/5


「紀伊梨ちゃんはねー、五十嵐紀伊梨ちゃんって言うんだよー!」
「私は、野月咲夜!よろしく!」
「よろしくー!咲ちゃんはきょーは何しに来たの?何処かのおーえん?それともマネさん?」

今日、此処は完全に県大会の会場と化しており、使う使わないに関わらず、他の全てのスポーツの利用者の出入りを禁じている。
だから、此処に来る人は皆、応援か部員か、ないし関係者である。

しかし野月は、あー、うー、と言い難そうにちょっともじもじした。

「お、応援が近い、かなー?」
「ん?」
「あ、あの!実は私、中学生じゃなくて・・・」
「あ!そーなの!?じゃー、紀伊梨ちゃんより年下だー!」
「えええ!?」

野月はそれはもう驚いた。
紀伊梨が年上だと。
振る舞いや雰囲気からして恐らく同級生、そうでなくても年下だと踏んでいたのに。

「す、すみません!私後輩なのに、さっきからずっとタメ語で!」
「えー?良いよー、そんなの!」
「駄目です!こういう事はしっかりしとかないと、来年に向けて・・・」
「来年?」
「はい!私、中学に上がったら、チアガールやりたいんです!だからここに来れば、行きたい学校のチアが見られるかなーって。」
「おおお!チアガール!」

紀伊梨も、学校に居るとちょくちょく応援部のチアが練習をしているのを見かける。
成程、野月はああなりたいと思っているわけだ。

「良いね良いね、チアガールー!かっこいいよねー!」
「でしょ?でしょ?かっこいいし、可愛いですよね!」
「うんうん!紀伊梨ちゃんもがっこーでチアの子達見かけると、すごーいって思うよ!」
「あ、紀伊梨さんの学校もチアが居るんですね?」
「うん!紀伊梨ちゃんは立海に通ってるけど、おーえん部があるよ!」

立海。だと。

「私も立海です!」
「おおお!?咲ちゃんも来年来るの!?」
「はい!・・・って、受験あるんで、まだわかんないですけど!」
「えー、受かるよー!受かる受かる!紀伊梨ちゃん小学校の頃のテストで大体30点くらいだったけど、それでも出来たくらいだから咲ちゃんならだいじょーぶい!」
「あ、そう・・・なんですか・・・」

何と励まされるより説得力があるかもしれない。
うん、通りそうな気がしてきた。

まあ元々、成績はそれほどずば抜けて良い訳でもないけれど、とてもとても悪いと言う程でもないから、まあ受かるだろう。

問題は。

「彼奴だよね~、問題は・・・」
「彼奴ってどいつー?」
「あ、さっき電話してた奴です!塾で良く顔合わせる男子なんですけど、まあ馬鹿で。」
「へー!お友達なんだね!」
「友達!?勘弁して下さい、腐れ縁です!偶々塾で隣になって、偶々志望校が同じってだけですよ・・・ 今日だって、折角誘ってやったのに・・・テニス好きだから、わざわざテニス選んでさ・・・」

ちょっと顔を赤くしてもにょもにょ言う野月に、紀伊梨は全然気づかない。
顔が赤いのに気付いていても、風邪引いたのかな?くらいにしか思わないであろう。
こういう所が、小田切辺りから「乙女心の勉強した方が良い」と言われる所以。

「ふーん。でもそっかー!その子はあんまりせーせき良くないんだね?」
「はい。だから、来たがってますけど通るかどうか・・・あ!そうだ、そいつもテニスやるんですよ!」
「お!じゃ、男子テニに入るんだー!やったー!今からこーはい確保!」
「あはは!そういえば、紀伊梨さんって、今日此処に居るって事は、マネジとかなんですか?」
「うーうん!紀伊梨ちゃんテニス部じゃないし、おーえん部でもないお!友達がいっぱい男テニに居るから、おーえんしに来ただけー。」
「ああ!そういう。」
「そー!今年の立海はねー、めちゃんこ凄いよー!ちょー強いよ!」
「そうなんですか?」
「うん!きっと一番にな、る・・・」

失速する紀伊梨。

そうだった。
忘れてた。

今、千百合と幸村は立海を出るかどうかの瀬戸際なのだった。

紀伊梨の思い込みではなくて、実際今瀬戸際になっている事を、紀伊梨はまだ知らない。

「あれ?どうしたんですか?」
「な!何でもないお!うん!と、兎に角!立海の男テニは強いからね!その友達の子にも、頑張って入ってねって、言っといてね!」
「?はい。」

本当にまるっきり忘れていた。
今千百合はどうしているのだろう。
もう話は終わったのだろうか?それともまだ?

(うう、思い出したら怖くなってきた・・・いやいやいや!大丈夫だよ、大丈夫!ゆっきーも千百合っちもどこにも行かないって!そーだ!もしなんだったら、あのせんせーが立海に来たら良いんだよ!うん!紀伊梨ちゃんてばナイスアイディア!千百合っちが帰ってきたら、言ってみーよお!)

「♪」
「?」

(何か狼狽えてたのに、今度は元気になった・・・変な先輩だなあ。)

でも、良いな。
良い先輩だ。

野月はそう思う。

明るいし、優しいし、ちょっと成績はあれっぽいが、親切で。

(それに、良く見たら結構・・・ううん、かなーり可愛い人って感じ。オーラが華やかだなあ。中学生ってかっこいい・・・)

「あ!此処!咲ちゃん、ここだよ自転車止めるとこ!」
「あ、本当だ!有難う御座います!」

やっとこれで本題に入れる。

野月はふう、と息を吐いた。

「やばい、予定より遅れちゃってる・・・急がないと立海の試合に、」
「あ、終わっちゃったよ?」
「え!?」
「ちょっと前にS3終わって、それで勝ち敗け決まっちゃったから、次の試合はお昼の後!です!」
「えー!」

午前中の試合、ちょっとだけなら見られると思ったのに。
早い、早いぞ。

「うう、ちょっと凹む・・・こんな事なら、あんな奴待ってないでさっさと来れば良かったー!」
「まーまー!お昼からは、準けっしょーとけっしょーが見られるお!午前より凄い試合が見れるー、と思っとけば良いんだよ!前向きに前向きに!元気出してこー!」
「紀伊梨先輩・・・はい!有難う御座います!」

紀伊梨の眩しい笑顔に、野月は気分が上向きになっていくのを感じた。