「しかし、人に見せるねえ・・・1/10で良いから、その考え彼奴に分けてやって欲しいだろい。」
「?それは、春日の事かい?」
「いや、一条。」
その名前に、俄かに空気が変わるテニス部陣。
「「「「「「・・・・・」」」」」」
「え、何あんた達。黙っちゃって。」
「何何?一条君?って子がどしたの?」
「いや、その・・・何て言えば良いのか、俺にも分からないんだがな・・・」
「・・・今日は、マネージャーの人出が足りなかった。故に、部外から女子の手伝いを何人か募ったのだ。」
「その中に、一条郁という女子が居たのだが、まあ端的に言うと彼女は俺達に近づきたくないらしい。」
「待ってw訳がわからないw」
「そーだよー!それならなんでお手伝いなんてするのー?」
「マネージャーさんの中に、ご友人が居らしたそうで。彼女に頼み込まれて、止む無くと仰っていました。」
「又、本人も嫌だっちゅう態度を隠そうともせんからのう。」
「それ、良いの?居ない方が良いんじゃない?」
「ううん・・・でも、行動はテキパキしているから、助かっては居るんだ。物覚えも早いしね。」
そもそも頼んでいるのはこっち側なのだし、働きとしては花丸だから、言動には多少目を瞑ろう・・・と、今日テニス部では暗黙の了解の様なものが出来ていた。
(一条さん・・・)
「お前、大丈夫?」
「え?」
「手伝ってくれてただろい?何か嫌な事言われてねえ?」
「あ、いえ!私は全然!私は・・・」
そう、紫希には何も言わなかった。
紫希「には」。代わりにテニス部への文句はひっきりなしに出てきたが。
「お!紫希ぴょん、お友達ー?」
「ええと、友達というか、電話に移動した時にお見かけしまして。大変そうだったので、お手伝いをちょっとだけ。その時に・・・」
「え、マジでそんな奴なの?関わりたくないとか言うわけ?」
「・・・はい。」
あんまりこういう、誰それが誰それを否定してる系の事は言いたくないのだが、どうやら一条は部員の前だからと言って隠したりする気はないらしい。
いやまあ、丸井の前での態度で察しはついたけど。
「えー?なんでそんな事言うのー?皆何かしたのー?」
「馬鹿を言うな!誰がするか!」
「彼女はどうやら、目立つという事を極端に嫌っておいでのようなのです。」
「はあ?」
「つまり。立海の中でも比較的注目度合の高い男子テニス部に関わると、自分まで目立つ。だから出来る限り関わり合いになりたくない、と。どうやら、そういう事情のようだ。」
「ああ・・・」
千百合も気持ちだけはわからんでもない、という所。
流石に一条程極端じゃないけれど、紀伊梨のようにいつも前に出たいという思考は無いし。それに目立つ目立たないそれそのものというより、目立たない方が好き勝手出来て何かと気楽だから。
でも。でもさ。
「えー?でもそんな事言ってる方が目立っちゃうんじゃん?」
「私もそれ思う。」
「まあ、それは本人も分かってるんじゃないかとは思うけどな・・・」
「言わずに居れんっちゅう所かのう。」
「まあ、彼女は元々然程乗り気ではなかった所に、暑くて疲れていたんだよ。今は昼休憩だから、少し休んだら、多少機嫌の方も戻ってるんじゃないかな。」
「・・・・・・・」
目立つ。
まあそう、確かに目立つ。
男子テニス部は何かと、色んな意味で、目立つ。
(・・・でもやっぱり、皆が騒がれてしまうのはどちらかというと周りの人の話で、皆が悪いわけじゃないと思うんですけれど・・・)
今、偶々そんな事になってないだけで、これから先郁が危惧していた通り、「あのテニス部と友達だから」といった理由で割を食うことだってあるかもしれない。
でも、今までだって似たような物だった。
幸村が居て、紀伊梨が居て、それによって起きた良い事だってトラブルだって何回も経験したけれど、でもそれって幸村が悪いわけでも紀伊梨に罪があるわけでもないし。
それに、良い事だろうが悪い事だろうが、最後はいつも何とか出来た。
皆が居てくれて、それで解決してきたから。だからどんな事でも、良いにせよ悪いにせよ、起こった事は問題じゃなくて思い出になったから。
「・・・友達じゃないから、駄目なんですよね。」
「え、なんて?何か言った?」
「あ、えっと・・・一条さんの事で。一条さん、その誘ったマネージャーさん以外にテニス部にお友達が居ない風でしたので、だから・・・部活側にもっと友達が居れば、考えが変わるんじゃないかと思ったんですけど・・・」
「おお!良いじゃん良いじゃん、それー!ナイスアイディアだよ、紫希ぴょん!」
「うーんw」
「えー。」
「およ?え、何皆ー!何ですかその変な顔はー!」
「いや、その考えは正解だとは思うよ。思うけれど、実際難しいからね。」
「彼奴側に友達になる気が一切ねえからな。人見知りとかってのとは又違うし、こっちから何かするにしても限界があるだろい。」
紫希や千百合とはレベルが違う。
紫希みたく遠慮してるわけじゃなく、千百合みたいに友達の範囲が狭いわけでもない。
郁は土台、友達になんてなりたくないのだ。
仲良くなりたくったって無理。
此方からのアクションは、原則シャットアウトされてしまって、相手に届かない。
「まあ・・・もしかして入部してくれたら、可能性はまだあるかもだけどな。」
「え、入部とかすんのそいつ。」
「95%の確率で無理だろうが、経緯を考えると可能性が無いではない。」
「今回の手伝いというのが、手伝い経験を経てマネージャーになって欲しい。そう言った意図もあって、召集されている。」
「つまり、良ければそのままマネージャーになってくれないか・・・という事を、一条さんも既にご存知というわけです。」
「あー!それならいけるんじゃなーい?ほんとーに超超マジで1ミリも友達になりたくないなら、お手伝いさんに来ないよね!」
「まあ、それを差し引いても望み薄じゃがの。」
「そう、ですか・・・」
「何どうしたのw嫌に食い下がるねw」
そりゃあ食い下がりたくもなる。
というか紫希にとって、これはおおいに食い下がるべき事案である。
「一条さんはなんていうか・・・皆の事を誤解してるんじゃないかと思うんです。一条さんにとって目立つことは悪い事で、それは一条さんの考え方ですから、私は何も言えませんけれど。でも、それと同じように目立つ人が悪い人だ、みたいに思ってほしくなくて・・・ですから私、様子を見つつ頑張ってみます。」
「何をw」
「幸いというか、一条さんは私に対しては普通に接して下さいますから。なので、私の方からちょっとづつ仲良くなって、その延長で今テニス部に持たれてるイメージを変えていけないかな、と・・・」
「あんたが其処までする必要あんの?」
「ひ、必要はと言われると無いですけど・・・でも、私皆が好きですから。好きな人達が誤解されたままの状態で放っておくのはどうしても、気になってしまって・・・私、こんななので、友達になろうと思った所で、一条さんに友達と思って頂けるかも分かりませんけど・・・」
別にあの態度が良くないと思うから郁の為に直してあげないととか、そんな高尚な理由じゃない。
ただ、分かって欲しい。テニス部員は郁が思っているような人じゃないからこそ、その誤解を元に郁があれこれ言ったり、行動を決めたりするのを見て居られない。
ちゃんとテニス部の事を見て、その上で関わり合いになりたくないというのなら、それは郁の考えだからそれで良いと思う。
でも今の郁は、思い込みのフィルターを通してしかテニス部を見てくれていない気がする。
だからつい、そうじゃない、そうじゃないと言いたくなってしまう。
確かに、自分にとって良い人が相手にとっても良い人だとは限らないけど。
でも、その判断を今のままして欲しくない。
「ほう。春日にしては珍しく、行動的な判断だな。」
「ふふふっ。春日はああいう性格だよ、昔からさ。」
無難な行動が多いけれど、別に日々流されるしか能がないわけじゃない。
こういう時に行動を起こそうとすることが出来るから、紀伊梨は紫希を気に入ったのだし千百合も紫希を見直した。
そして、此処にも1人。
「・・・しょーがねえな!手伝ってやるよ。」
「え?」
「要は、友達になれば良いんだろい?だから、俺が彼奴と友達になれれば解決って事で。」
「は!?」
待って、待って。
動揺のあまりサッと突っ込めない桑原に、丸井はキョトン顔で振り向いた。
「?何だよ。」
「いや、何だっていうか・・・ブン太がやるのか?」
「おう。ま、あっという間にとはいかねえだろうけど、要は距離を詰めてったら良いんだろい?そんな、手も足も出ねえって程難しい事でも、」
「違う、そうじゃなくて!」
今自分で言ったじゃん、距離を詰めるって。
それ、お前がやって良いのかよ。
知らないぞ。
距離詰めた後、どうなっても、もう止めてやれないぞ。
(桑原、悪い事は言わんき。もう放っておきんしゃい。)
(いや、でも・・・)
(ご友人として、一言忠告したいと言うそのお気持ちは分かります。分かりますが、今は無理です。)
(本人に他意は無いようだからな。忠告したとしても、理解して貰えない確率は78.87%だ。)
(そのさ、「他意は無い」って言うの本当マジでいい加減にしてくんない?)
(しょうがないだろw無いもんは無いんだよw逆さにして振ったって出てこないんだよw)
「???何だ、彼奴?」
「あの、丸井君・・・」
「ん?」
「あの、その、協力して下さるのは嬉しいんですけれどその、私一人でやれますので、丸井君は何もしないで・・・」
「何で?」
「えと、悪いですし・・・お手間を取らせますし・・・ほら!あの、私が言いだした事なので・・・」
何より大きく且つ言い難い理由は、郁のあの態度である。
確かに、テニス部員が郁と友達になれた方が、話は早い。
でも、郁と友達になろうと「テニス部が」頑張るという事は、あの態度やあの言動を許容しながら頑張って距離を詰めるという事だ。
とどのつまり丸井が手伝うという事は、丸井が郁とのああいうやり取りを積み重ねていかねばならないのであって。それはあまりに丸井に悪いと言うか、ストレスになると思う。敵意を持っている人とお近づきになるのはしんどい。
だからこそ自分がやった方が良いし、逆に選手マネージャー問わず、テニス部員に手伝ってくれとは言えない、と思う。
「・・・良いよ。」
「え、」
「別にあのくらいの事言われたからって、そんな気にしねえって。」
「でも、」
「大丈夫、大丈夫!任しとけよい。」
遠慮がちな紫希だけど、今回の事に関しては何故自分を手伝わせたくないのか、丸井にも想像がつく。丸井だって、逆の立場だったら人に手伝えとは言い辛い。余計なストレスに晒す事になるわけだから。
ただ、それ以上に自分が気になってるのは、紫希が自分から友達になるのを頑張ってみるなどと言い出してる事である。
テニス部が好きだから。テニス部の為に。
それなのに、じゃあ任せたシクヨロ、とか言って放っておくなんて、そんな格好悪い展開嫌だ。出来るのかもしれないけど、したくないそんな事。
紫希はテニス部じゃないけど、友愛故にこうして行動しようとしてくれてる。その気持ちが本当に嬉しいと今思ったから、だから。
「大丈夫だよ。」
「丸井君・・・」
「それより、お前も手伝ってくれよ?丸井ブン太君は良い人です、ってアピールしとくとかさ。その辺のアシストはシクヨロ!」
「あ、はい!それはもう!」
「あー!良いなー!紀伊梨ちゃんも一条ちゃんと友達にーーー」
「ならん!お前は参加するな!」
「えー!なんでー!」
「五十嵐、一条さんは目立つのが嫌いなんだよ。五十嵐は確かにテニス部じゃないけれど、それでなくても色々と目立つから、今回の件に五十嵐は不向きなんだ、残念ながらね。」
ビードロズとしての活動もそこそこ目立っているかもしれないが、紫希が受け入れられている辺り、たった1回ライブした位なら「目立つ」の琴線にはまだ触れないのだろう。
しかし、それに加えて愛想の良い性格と華やかな容姿、それから成績の悪さに居眠りの多さに・・・と、他のメンバーに比べてやっぱり紀伊梨は、どうしても色んな意味で人目を引いた学校生活になっている。
アイドルという夢の為には目立つと言うのはおおいに必要な素養だが、殊今回の話に於いては、これは完全に裏目。
千百合なら参加可能だが、紀伊梨は今回不可。
「分かったら、大人しくしていろ。」
「え~~~~!ちゅまんないよー・・・」
「春日や丸井が首尾よく一条さんと友好的になれたら、其処から混ぜて貰えば良いさ。少しの辛抱だ。」
「少し?か・・・?」
「ううん、まあ勘のようなもので、根拠はと言われると困るんだけどね。俺は、そんなに時間のかかる事じゃないと思ってるんだ。この件というか、この作戦に関しては。」
「そなの?ま、ゆっきーがそう言うんならきっとそーだね!じゃ、紀伊梨ちゃんは良い子で待つお!」
神の子様の予想は、何故かいつも良く当たる。
から、今回もきっとそうなんだろう。
良かれ。
悪しかれ。