「あー!ねーねー、見て見てー!真田っちがS3だー!」
ダブルス1、2が危なげなくーーーむごい事だが一切の危なげなく勝つのを観戦したビードロズ達。
次はS3。当然柳が出てくるものと思っていた一同だったが、コートへと出てくるのは、真田。
「おお、珍しいw」
「ねー!どーしたんだろー!」
「オーダーが変わるのは、県大会が始まってから初めてですよね?」
「ん。地区予選は結構入れ替わってたけど。」
何かあったのだろうか。
前回と違って、トラブルっぽい気配は感じないけれど。
「やっぱり、何かの作戦でしょうか?」
「多分ねw」
「でも、結局勝っちゃうから良いよね!多分ね!」
「ま、勝つ為にやってるんだろうし、良いんじゃな・・・」
千百合は一瞬言葉を途切らせた。
真田が今、こっちとはっきり目を合わせた。
気がして。
「千百合ちゃん?」
「千百合っちー!どったの?」
「あ、いや。なんでも。」
「それではこれより、立海大付属中学対東畑中学校、S3の試合を執り行います!」
「お願いします。」
「お、お願いします・・・・」
東畑中学校S3、赤坂純也は今の時点でちょっとビビっている。
何か凄みを感じる。いや、落ち着け。こっちは2年で、あっちは1年。強いらしいとは聞いているが、別に気圧されてやる事もない。
・・・とか思うけど、怖いものは怖い。
(え?俺何かした?何もしてないだろ?でも凄くピリピリしてない?)
「プレイ!」
ふう・・・と真田は小さく息を吐いて、トスを上げた。
「・・・はああっ!」
ドカ!
「ひいっ!」
身が竦む赤坂。
「15-0!」
容赦のない審判のコール。
いや、打ち返せてないんだから相手のポイントになるのは妥当なんだけれど。
でもこれは幾ら何でも俺可哀想なんじゃないか、と思わず逆恨みしたくなるような威力。
「はっ!」
「え、ちょ、」
ドン!
「30-0!」
「ふっ!」
「ちょいちょいちょいちょいちょい、」
ドシュッ!
「40-0!」
「むん!」
「待ってーーーー」
ドゴ!
「ゲーム立海!1-0!」
「タイム!タイムタイムタイムタイムタイム!」
赤坂はラケットを放棄して両手を振った。
「ちょい!ちょい、君!」
「・・・む?俺ですか?」
「そうだよ!」
ネット際に手招きする赤坂に、真田は大人しく従う。
何だろう。手加減しろとか眠い事言いだす気だろうか。
「何でしょうか。」
「あのさ・・・あのー・・・何?」
「む?」
「何か怒ってない?何怒ってんの?君、俺になんか八つ当たってない?気の所為?」
何か怒ってない。
八つ当たってない。
そう、言われると。
「・・・確かに今、腹を立ててはいますが。」
「そら見ろ!」
「ただ、其方に対してではありませんし、八つ当たりでもありません。」
「ほらね!やっぱりねーーーーって、は?」
「俺は今、己に対して、己の犯した罪に向かって怒っているのです。それに対する償いとして、この試合に全身全霊を賭けて挑んでいる。それだけの事です。」
そう、だから赤坂に非は無い。
非は無いけど。
「・・・それって要は、俺に対するコテンパンにしてやるからな宣言、って事だよね?」
「む・・・意味合い的にはそうなってしまいますが。逆に其方とて、俺に黙ってやられる義理などないでしょうし、俺もそのような事は望んでいません。おおいに迎撃して頂いて結構です。それが当然です。」
(もうちょっと俺に出来る事言って?)
迎撃しろとか言うけどさ、今のゲーム見てから言えよ。
俺、手も足も出てないじゃんお前に。
「・・・まあ良いよ、なんか良く分かんないけど分かったよ。俺に非が無いって分かっただけでも収穫だ。」
「そうですか。八つ当たりに見えた事は謝ります。」
「ああ、良いよ。」
「・・・何やら気に病んでいるようだな。」
「そうだね。まあ弦一郎は今に限らず、度々ああいう事をしているけれど。」
「そうなのか?」
「うん。口に出して言わないから、知ってる人は少ないけれどね。」
問題は何に対してどれを気にしているのかという話だが。
「・・・・・・・・」
『幸村。』
『ん?なんだい、弦一郎。』
『先の話だが。』
『?どうしたんだい、何か言い足りなかった事でも?』
『いや、言い足りないという程ではない。柳も納得していた様だから、俺も一部員としてはあれ以上言う事は無いが・・・・』
『うん。』
『・・・これは一個人、お前の友人として言おう。幸村。お前の中で、テニスをする事と黒崎千百合は、本当に分けて考えるべき事なのか?』
「はっ!」
「よっ!」
「ふっ!」
「おらっ!」
驕ってはいなかった。
今ちゃんと考えても、真田はそう思う。
幸村の事を分かっているからこそ、あの日。
数週間前、部活と恋愛事は分けろと言われたあの時、本当にそうすべきか疑問に思った。
幸村は浮ついた男じゃない。
簡単に大切なものを手放したりもしない。
今、自分達は中学1年生。
それ故に、何を大仰な事をと言われるかもしれないけれど、真田は本気だった。
幸村と千百合は、これから先もきっとずっと一緒に居る。
幸村とテニスも、きっとずっと不可分のままだろう。
なればこそ。
分ける事なんて出来ないんじゃないかと思った。
幸村は言った。
『それは、少しニュアンスが違うかな。』
『む?』
『分けるべき、なんじゃない。両方の事を真剣に考えようとすると、自然に分かれてしまうんだ。』
(やべえ、マジで強いぞ!)
赤坂は焦っていた。
これは本気でやばい。
1ゲームも取れないかもしれない。
待ってくれ、待ってくれ。
それは流石にプライドってもんがあるぞこっちにも。
(結構攻撃は直線的だからな。ビビるな、ビビるな、もっと裏をかかないと・・・)
そうと決まれば。
「・・・・・・・」
赤坂はちら・・・・と視線を右サイドに向けた。
(視線を右に・・・サイドに打ってくる気か?・・・いや!)
これ。
これがいけない、自分の悪い癖。
想像力に欠けている事。
『・・・そういうものか?』
『うん。あまりピンと来ないかもしれないけれど、俺はそう思う。だからこそ、部員にもして欲しくない。両方大切な存在だから、互いに互いを言い訳にしちゃいけないんだ。』
『言い訳・・・』
『恋人が居るから、テニスに打ち込めなくても仕方がない。テニスがあるから、恋人に迷惑をかけても仕方がない。そんなの、どっちにしたっておかしな事さ。そうは思わないかい?』
『そう言われればそうかも知らんがーーー』
『勿論、自分に関わりがあるという点では共通しているんだから、完全に分ける事は出来ない。でも、少なくとも分けないのが当たり前だなんて思ってしまったら、結局どちらの事も疎かになるよ。』
『・・・そうか。』
お前がそう言うなら、もう何も言うまい。
そう思ったからそれで切り上げたけど、本当は納得していなかった。
自分の中で、ストンと落ちなかった。
でも、今。
今、さっき。
千百合のスカウトの話を聞いた時。
『条件付きでYesって言った。』
なんで千百合に、ビードロズ達に話を持っていくんだ、おかしいだろ。
千百合も千百合で突っぱねればいいのに考えてしまってる。棗も止めやしない。
何故そうなる、無視しろよ、どうしてそんな。
その苛立ちを覚えた時、真田は初めて腑に落ちた。
これだ。
こういう事なのだ。
大事なものを何でもあれこれ紐付けするという事は、つまりこういう事が頻発するという事。
全てが全てに絡まっていくと、何かを決断した時に、連鎖的に色んなものが動いてしまう。
それこそ、動かさなくて良かったはずのものまでだ。
そんな徒に複雑なものの考え方していると、ちょっとしたトラブルがあっという間にややこしくなる。幸村の危惧はそれだ。
今回のことだって、そう。
それはそれで、これはこれ。別の話。
華村がそう思っていればこんな事にはならなかったのに。
幸村の言っていたことは、こんな事は敵が仕掛けてくるだけで十分という事。
自らこんな事になるのは止めようと、最初からそう言っていたのに。
自分の短所。体験するまで、納得しきれない。
(ーーー俺もまだまだ、修行が足りぬな。)
なあ、友よ。
「ふっ!」
(ここだ!右と見せかけてーーー)
「左にーーーーって!おい!」
なんでそこに居るんだよ。
思わず赤坂の呟きが口から洩れた。
自分の視線につられて、さっき右をちゃんと見たはずの真田は、今自分が打った左サイドにちゃんと待ち構えている。
相手の心理。
それを想像する事。
確証はないけれど、確証がないなりに判断する事。
現実だけを盲目的に信じるのではなく。
「・・・貰った!」
ドン!
「ゲーム立海!4-0!」
「おー!凄いすごーい!なんかこー、上手く言えないけど、えー・・・なんか今日の真田っち、めっちゃきっちり勝ってるねー!」
「ああでも、なんとなく言いたい事分かるよw」
「いつにもまして、隙が無い感じですよね。」
「なんか弱い者いじめみたいになってる気もするけど。」
1ゲーム位取らせてやったら。
なんて、ちらっと思いはすれど誰も口には出さない。
出すだけ無駄だ。
我らが王者立海に、そんな油断とか隙とかは、一切存在しないのだから。