日暮れ時。
県大会が終わり、表彰式が終わり、観客たちはぞろぞろと帰り始める中、選手たちとマネージャーは未だ帰らない。帰れない。片付けがあるから。
「あっれー?おっかしーなあ?」
林は部活の共有バッグをごそごそ探っていた。
確か此処に、去年の記録ノートがあったと思ったのに。
「えー?私出したっけ?他の人?うーん、覚えてないーーー」
悩む林の前に、スッと件のノートが差し出される。
「あ、ありがーーー」
「で?僕はいつになったら帰って良いのかな、鈴奈?」
眉間に青筋を立てる友人に、流石の林もちょっとたじろぐ。
しまった。
自分が手伝いを頼んだのに、途中から完全に放置してしまった。
「い・・・郁!いやあ、今日はお疲れ!ありがーーー」
「そんな事はどうでも良いんだよ、僕は鈴奈の口から「帰って良いよ」の一言だけが今欲しいんだ。」
「・・・ごめん!もうちょい居て!」
「ふざけてるのかな?」
「ふざけてない!ごめん!マジでごめん!でもお願い!」
そう。
郁を呼んだ友人と言うのは、ほかならぬ林の事である。
郁が「テニス部のマネージャーは皆ミーハー」と思い込んでいる元凶の一端は林にあり、林自身は部活では真面目にマネージャーやっているのだが、そもそもの入部のきっかけが仁王への憧れ。
クラスで話す部活関連の事と言ったら、仁王君かっこいいが5割、他の子もかっこいいが4割、部活ちょっとしんどいが1割と言う話の偏り具合。これをミーハーと言わずして何と言うか、と郁は常々思っている。
「後は君達だけで出来るだろう?この後はもう片付けしか残っていないんだし。」
「その片付けが大変なのよう!タオルの回収と、スポドリの処理と、ボトルの数合わせと忘れ物呼びかけと、テント畳みに部旗の回収に大会本部への各種報告にミーティングの準備の準備にーーー」
「やる気が失せたので、帰るとするよ。」
「あーん!待って郁お願いーーー」
「よ!」
ポン、と肩を叩かれて、郁はぎくりとする。
この声は。
「お疲れ。」
「きゃっ、丸井君!」
郁は友人ながら林のこういう所が理解できない。
きゃっ、ってなんだよきゃっ、て。
其処に居るのはアイドルでもタレントでもないんだぞ、同級生だぞ同級生。
ああでも、ホストと言われたらそれは納得する。
(・・・まあ、顔が良いのは少なくとも認めるがね。)
「なあ、片付け後何が残ってるって?」
「えっ!えっ!もしかして、手伝ってくれるの?」
「おう。」
「きゃあ、有難うー!」
ねえ、もうやばくない?丸井君マジ優しくない?かっこよくない?
と、頻りに耳元で囁いてくる林が鬱陶しい。
何が優しいだ。
これはカースト上位の人間が下々の者を手伝う事で、優しい俺アピールに酔っているだけなのだと何故分からないのだろう。
「なあ。」
「え!あ、はい!」
「結局俺、何したら良いんだよ?」
「あ!ええーっとじゃあね、じゃあねー・・・」
林の頭の中で、各種タスクとその優先順位がくるんと回る。
「じゃあ、この紐で、あっちにある畳んだテントの足、縛って纏めてきて欲しいなーなんて!」
「ああ、良いぜ。
じゃ、行くか一条。」
「「え?」」
何で?どうして?
郁と林がそう問う前に、丸井はさっと郁の手を掴んでしまう。
「お、おい待て!僕は行くなんて一言も、」
「まーまー、早く帰りてえんだろい?ならやる事、さっさとやっちまおうぜ?」
「そっちでやれば良いだろう!どうして僕がーーーおい、引っ張るな!」
とか言いながら引きずられていく友人を、林はポカン顔で見つめた。
「・・・・え?」