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「と、いうわけで可憐ちゃんを試合の間お借りするわね?」
「何が「というわけで」なんだか、1つも分からねえが。」

可憐は後ろから小鳥遊に両肩を抱かれた姿勢で、氷帝の待機場所に居た。
心底疲れますという風に大きく息を吐く跡部。その隣の忍足と網代は苦笑気味。

「俺、取材とかの話はよう知らへんのんですけど。それ、1人やと出来へんもんなんですか?」
「いいえ?でも、良く知ってくれてる人が傍に居ると捗るのよねー!」

立海の取材の時に、それは本当に実感した。
試合を見て、そして生まれた疑問を聞いてサッと答えてくれる人が傍に居ると言う、この無駄の無い布陣。正に完璧よ!なんて思う小鳥遊は、可憐やビードロズ側の迷惑を一切考えていない。

「あ、あのっ!うち、マネージャーが少ないんで、抜けたりする余裕がっ!」
「無いの?」
「正直、やって欲しくないんですけど・・・」

網代もこれは渋る。
インタビューは相手が居ないと出来ない物だが、観戦はそうじゃないだろ。
そういう物の為に、マネジを割く余裕が今ないんだよ。

「うーん・・・じゃあじゃあ、一試合だけ!跡部君の試合だけ、ねっ!ねっ!」
「跡部は試合やるか分かりませんよ?」
「え?」
「跡部君、S1なんでっ!大体そこまで回って来ないっていうかっ。」
「はっ・・・!」

そう、だった。
忘れてた。

いや、井上からは他の選手の話も聞いてるし、別に跡部以外の観戦だと駄目とかそういうわけでは全くない。観戦をちゃんとすれば、DだろうがS3だろうが、そこは関係ない。

でも、小鳥遊は今日は「跡部のプレイが見られる!」と思ってテンション上げてきたのだ。
でもそうだった、よくよく考えたら跡部がオーダーに入ってる事と、試合をやる事は=じゃないのだ。

「くうっ・・・!忘れてた、そうだったわ、抜かったわ・・・!」

(この人ほんまに「月刊プロテニス」なん?)
(一応そうだって言ってたけど・・・)
(名刺は本物っぽいけれどね。)

貴方本当に学生テニスの記者さん?記事書く気ある?と思わず尋ねたくなるほどの初歩的なミス。跡部は頭が痛い。

けど。

「・・・まあ良い。」
「え?」
「網代、オーダーの変更だ。俺様がS3に出てやる。」
「ええっ!?」

跡部の破天荒発言には大概慣れてきたと思っていた3人だったが、これは流石に動揺する。

「ちょっと跡部君?」
「次は戸鞠学園の奴らだろう。俺様がS3に出た所で、結果は変わらねえだろうよ。うちの勝ちだ。」
「まだ勝ってへんやろ。勝ってもない内から勝ったようなもんやと思うてると、足元掬われるで。」

「勝ったようなもんだと踏んでるわけじゃねえ。俺様が勝てると「読んでる」んだよ。もしもこんな所で負けるようなら、今年の全国一はどの道駄目だ。」

一番強い人をS1に回して。
そうじゃないとあっちのS1に歯が立たないから、なんてそんなギリギリの状況に、今からなっててどうするつもりだろう。
まだ、県大会だぞ。関東から出てもいない。
この時点でそんな綱渡りしてるようじゃあ、駄目。全然駄目。

「問題ねえ。Dは勝つ。S3も勝つ。それで準決勝だ。」
「も~、部長様・・・」
「い、良いのそんな事してっ!?」
「まあ、最悪負けても未だ大丈夫やわ。5位決定戦(コンソレーション)があるさかい。」
「・・・話は纏まった?可憐ちゃんは貸して貰えるって事でOKかしらん?」

お前のせいで今ゴタゴタしてるの分かってる?
な顔で全員が小鳥遊を見るが、当の小鳥遊は何処吹く風でニコニコしている。
都合の悪い事は聞こえないフリ、これは(良くない)大人の処世術。

「じゃ、次の試合!可憐ちゃん、よろしくぅ♪」
「はあ・・・はーい・・・」

何をする前から疲れている可憐の肩を、忍足達は労りを込めて叩くのだった。