For the summer 1 - 4/7


さて。

その頃その件の女子、一条郁はというと。

「ああ、暑い・・・」

中庭に居た。

美術の授業で使用するから、植わっている向日葵を1本取って来てと先生に言われたのはつい先刻の話。

(なるべく綺麗な奴をねって、どれが綺麗だとか知りもしないしどうでも良いし・・・)

おまけに。
一条の機嫌を損ねている事がもう一つある。

それ。
其処に居る色黒。

「はーあ・・・」

(・・・嫌われたもんだな。)

桑原は、偶々郁と同じタイミングで郁と同じ事を命じられただけなのだ。
違うクラスで違う美術教師でも、行う授業の中身は大凡同じ。写生する花も同じ。従って、頼まれる事も同じ、と。
ところが郁と居合わせてしまい、露骨に嫌な態度を取られ、でもこっちが離れて行くのもそれはそれでまた露骨だから止めた方が良いかと思い。

それに、紫希と丸井の作戦の事もある。
なるべく、友好的に。
親しそうには難しくても、少なくともこっちは別に貴方と居るの嫌とかじゃないですよと態度で表すべきかと思ったのだ。

おかげで今、すんごく気づまり。

(せめて、幸村でも居れば良かったんだけどな・・・花には詳しいから、どれが良いのか教えてくれるだろうし。)

でも、居なかった。
音楽室に行ったと言われた時点でお察し。

「・・・もう、これで良いか。」

迷ってたって仕方ないし、早く切って持って行こう。
そう思い、専用の鋏を取り出した。

「駄目!」

「え?」

聞き慣れた声に顔を上げると、本を抱えた紫希が居た。

「春日さん?」
「あ!い、一条さん、先日はどうも・・・」
「ああ、いや。どうも、は僕側の台詞だが。」
「・・・春日?ええと、切ったらいけないのか?」
「ああ!えと、そのお花・・・美術で使われるんですよね、多分。」
「ああ。」
「それなら、今切っては駄目です。準備が要ります。」
「「・・・準備?」」






「こうして・・・」

紫希は水でいっぱいになった花瓶を横にして花壇に跪いた。

「じゃあ、持ってていただけますか?」
「ああ。」
「有難う御座います。そうしましたら、この辺をこう切って・・・」

バチン、という音と共に、向日葵は切られる。

「そして、こうして直ぐに花瓶に入れてしまいます。こうしないと、導管に空気が入ってしまって、水の吸い上げが悪くなって、早く萎れてしまうんです。」
「ふむ・・・えらく繊細だね。」
「ええ、生き物ですから。・・・といっても、全部幸村君から教わった事ですけれど。」
「やっぱり詳しいな、彼奴は。俺も、頼まれる前に相談出来たら良かったんだが。」
「ふふっ、そうですね。こういう事に関しましては、幸村君の右に出る人は居ませんから。」

(・・・花に詳しいのは本当なのか。)

林から幸村はガーデニングにとても詳しい、花が好き、とは聞いていて知っているけれど。
でも、そんなの聞こえの良いイメージアップだろと思っていた。男子中学生で花に詳しいなんて珍し過ぎる、アピールに違いない、なんて。
大体、出来過ぎじゃないか。あの風貌、あのスペックで趣味が花だとか、そんな欠点の無い人間が居るか?

「それで、お前は?」
「は?」
「いや、その・・・そっちも、授業で要るんだろ?どれを持って行くのかと思って・・・」

いや、うん。
要るんだけど。

「・・・別に君の手伝いなんて要らないさ。」
「でも、」
「僕は春日さんに頼む。君には頼まないから、何をしてくれなくて結構だ。春日さん、頼めるかな?持っていてくれ。」
「あ、ええ、はい・・・」
「すまない。で、此処を切って・・・ほら、お終い。じゃ、僕はこれで。あまり此処に居ると命を狙われるからね。春日さんも気をつけ給えよ。」
「いえ、あの、私、別・・・に・・・」

郁は実に手早く向日葵を処理すると、さっと背を向けて行ってしまった。
その後ろ姿には「君が行かないなら僕が出て行く」とでかでかと書いてあるのが見えるよう。

引き止めようとした紫希の右手は、しおしおと下がっていった。

「・・・前途多難だな。」
「すみません、桑原君・・・!」
「いや、お前が悪いなんて思ってないぜ。気にするなよ。」

そう言ってくれる桑原だから余計に心が痛む。
きっと丸井も何度も今みたいな態度を取られる事になるのだろう。

「やっぱり、私一人でやるべきなんですよね・・・桑原君、今度今みたいな時になったならその時は私一人で、」
「いや、本当に気にするな!だって、お前はそもそも俺達の為に・・・」
「でも、好きな人達の為にやってるのに、逆に好きな人達を傷つけるようじゃ本末転倒ですよ!私、こんな風な状況が嫌だから頑張ろうって決めたんです、それなのに・・・」
「・・・・ふう。」

桑原は息を吐いて苦笑した。

分かった。
ちょっと分かったぞ、親友が紫希をして「怖い」という理由が。

「丸井君にも言います。やっぱりお手伝いは止めて頂いて、」
「しなくて良い。」
「でも、」
「春日、あのな?俺達皆、多かれ少なかれブン太と考えてる事は同じなんだ。」
「へ・・・?」

「俺達だって、俺達自身の為に、さして嫌われてもない春日が頑張ってくれてるのに、「じゃあ任せた」なんて言って知らんぷりは出来ないだろ?」

丸井が誰より早く反応したからなんだか任せてしまったけれど、少なくとも自分は協力するのにやぶさかじゃない。
勿論何されても言われても怒らないわけじゃないけれど、態度が悪いのは最初から分かってるから、あのくらいは許容範囲だ。

「それに、やっぱり嫌われてるよりは仲が良い・・・っていう所まで行けるかはわからないけど、普通にしててくれる方が良いしな。」
「でも・・・」
「大丈夫。俺も彼奴らも、春日が思ってるほど弱くないさ。」
「違います!弱いとは思ってません、そうじゃなくて私には大切だから、大切な人が誤解されているのが嫌だからで、」
「分かった、分かった。終わらないからこの話は止めるか。な?」
「そんな・・・!」

桑原は段々笑いが込み上げてきた。
成程、これは大変だ。

(ブン太も苦労してるんだな。)

今度何か強請ってきたら、労わりの意味で快くお菓子をあげよう。
早く堂々と頼られる日が来ると良いね、なんて祈りながら。