紀伊梨がE組に赴くと、棗と。それに、仁王が居た。
「おーい、なっちーん!におにおー!」
「おう、なかなかよろしくないタイミングじゃの。」
「まあ、そう言うなしw」
「む!なんですかよろしくないとわー!」
失礼しちゃうんだから、なんて思いながら教室に入って行って、机に近づくとなんだか見慣れない物が。
「お?パンフだー!何々?江の島?え!?もしかしてなっちんとにおにお、江の島行くの!?ずるーい!紀伊梨ちゃんも連れてってよー!」
「此処まで馬鹿じゃと、逆に面白いぜよ。」
「馬鹿!?何が!?今紀伊梨ちゃんそんな変な事言ってないよ!?」
「お前は本当に人の話ぽろぽろ忘れるなw
聞き覚えあるだろ、江の島だよwもうすぐ林間合宿で、俺達皆行くじゃないw」
林間合宿。
今の今迄忘れきっていたその単語が、急速に記憶の引き出しから蘇った。
「・・・そーだったー!忘れてたー!」
「行き先くらい覚えとけw」
「分かったらなるべく早く離れてくれ。今会議中じゃき。」
「えー!紀伊梨ちゃんも混ぜてよーう!」
「ネタがバレると何かと面白くないじゃろ。」
なんて言って、なんとなくパンフを隠し気味になる仁王と棗。
なのだが。
「・・・ねー。今のページ見せて!」
「さて?どのページの事か俺には分からんのう・・・分かるか、なっちん?」
「いやあ全然w全くさっぱりすっきりw」
「嘘だー!それ!その黄緑の付箋のとこ!」
「そんなもん貼っとらんーーー」
「うしょ吐きー!よこせー!」
サッと一瞬の隙を突いて、パンフを取り上げる紀伊梨。
黄緑の付箋の所。
さっきチラッと見えた所。
ああ、やっぱり!
「ちょっとちょっとちょっとー!ホラースポットって書いてあるじゃーん!どーいう事ですかこれわー!」
「バレたかw」
「流石、嫌いな奴は目敏いナリ。」
そう、夏。
夏と言えば、町にホラーが・・・ハロウィンみたく可愛いホラーじゃない、ガチめのホラーが溢れる季節でもある。
紀伊梨は旅行が大好きだが、夏になるととかく良く世間からおすすめされがちなのが各種心霊スポット。遊園地でさえお化け屋敷をわざわざ特設しておいでよと誘ってくる。
嫌だ、絶対嫌だ。断固拒否するぞ。
「兎に角!紀伊梨ちゃんは行かないからね!」
「じゃあお前さんは一人でホテルに残るという事でええんじゃな?春日や黒崎は連れて行くダニ。」
「それも嫌ー!っていうか、なっちんとニオニオが行きたいんだったら2人で行ったら良いんだよ!」
「冗談ポイよw」
「なっちんと2人で行って何が楽しいんじゃ。ビビる奴が居てこそじゃろう?」
「今ビビる奴って言ったよね!?ビビる奴が必要って事っしょ!?ほらもー!もー!」
どうしてこう意地悪なのだろうかこの2人は。
嫌だ。絶対行きたくない。
「・・・まあ、とはいえw」
「ん?」
「もうバレたのにっていう意味では芸が無いしw今回は肝試しは抜いても良いかもねw」
「本当!?」
「本気か、なっちん。」
「スポンサーの意向とはいえ、こないだのゲームでは暗所を止む無く突っ込んじゃったしなw可哀想だろ、何度も何度もw」
「うんうん!うんうん!だよねだよね!なっちん分かってるー!」
一応、ゲームを優先させて苦手中の苦手の中に紀伊梨を放り込んでしまった事は、棗も悪いとは思っているのだ。
あの付箋も「肝試しをもしするんならこの辺のスポットかなー」くらいの気持ちで貼っていた物で、別に必須イベントとは今回は思ってなかったし。今回は。
(真面目に止めるんか?)
(まあ、他にもやる機会はあるっしょw特に肝試しはなw)
(それはそうじゃが。)
「やったー!ねえねえ、そいじゃ肝試しの他にはー?何する予定だったのー?」
「ああでも、夜に暗い所に行く予定はあったよw」
「え”」
何だその裏切りは・・・な顔になる紀伊梨に、棗はニヤニヤ顔でパンフを捲る。
「ほう。他にも当てがあるんか。」
「まあねwホラーとは関係ないけど、面白いかと思ってねwどっちみち夜だから、抜け出す術と真面目組をホテルから出す材料を考えないといけないけどw」
「どこどこー?本当に怖くないのー?えーと?パ・・・パワースポット、スピリチュアルの力を身に着けて貴方もうんせーアップ?」
棗が指差したのは神社であった。
確かに暗そうではあるが、写真では明かりがそこそこ点いているし、陰鬱な空気は感じられない。
「お前さん、そんな所に行きたいんか。」
「ま、パワースポットにはそんなに興味はないけどねwちょっと調べてみたら、此処の神社には面白い口コミがあるんだぜw」
「何々ー?どんな話ー?」
「待ってなwこないだファイルに纏めたからLINEで送るわw」
添付ファイルを早速紀伊梨は読みだした。
その昔。
この神社には精霊が住んでいた。
精霊はある日人里に住む人間に恋をする。そして人間に姿を変え、慕わしい者と愛し合うようになった。
しかし此処に祭られていた神が嘘を良しとせず、人間に恋人が本当は精霊であると真実を教える。
狼狽する人間に神はこう告げた。
「この真実を知って尚、お前があの者を愛すると言うのならば、満月の晩にこの社へと参り鈴を鳴らせ。愛せぬと言うのならば、二度と現れるな。」
そしてその満月の晩。
人間は来た。
しかし、精霊と会う事は無かった。
「・・・え?え!?此処で終わりー!?どうなったのねえ!その後はハッピーエンド!?」
「分からなかったのw」
「どういう事じゃ。」
「言い伝えではねwその精霊側はそもそも逃げちゃったんだよ。」
「ほえ?逃げちゃった?」
「そう。何処かへ行っちゃった。」
満月の晩。
精霊は何処かへ姿を消してしまった。
走る姿を見た人の話では、耳を塞いでいたと言う。
人間がその後、精霊と再び会えたのか。
会えなかったのか。それは要として知れない。
「なんでー?」
「結果を知るのが怖かったんだろうねー。来てくれてるかもしれないけど、来ないかもしれない。自分の目でそれを確かめたくない。だから待ち合わせの場所に行きたくなかったし、鈴の音も聞きたくなかったと。」
「精霊様も案外繊細じゃき。」
「恋が絡むと皆ポンコツになるって事よw」
「えー!じゃあじゃあ2人は結局別れちゃったのー?」
「まあまあ、そこがここの噂のミソでねw」
この話から、この神社付近でその精霊を捕まえて社まで連れて来れた人には幸運が訪れると言う。
以来、この神社では精霊探しに来る人間が後を絶たない。
「どう?w肝試しじゃないけど、面白そうっしょ精霊探しw」
「おー!うんうん!それなら紀伊梨ちゃん行ってみたーい!」
「女子が好きそうな成り行きじゃな。」
「えー?ニオニオ嫌ー?」
「嫌っちゅう程でもないが、徒労に終わる事もあるき。」
「まあまあそれでなくても此処は山の上に在って夜景は綺麗だしwちょっと変わったお参りって事でさw今度はお前が付き合ってやってよw」
「そーだよそーだよー!一緒行こー!ね!ね!けってーい!」
「さあてどうしようかの。」
「えー!駄目だよ駄目駄目!皆で行くんだからー!」
どうしようかなとか言ってるが、実際はちゃんと来るだろう。
こう見えて友達と遊ぶのが好きな事を棗はもう知っている。
だから意地悪な事言ってないで行くって素直に言ってやれば良い物を、仁王は言わないから。
「ほい!」
「なんじゃこの小指は。」
「えー?指切りだお、あったりまえじゃーん!」
「・・・・・」
「wwwww」
おかしくて仕方がない。
仁王に向かって指切りの要求とは、我が親友ながらなかなかやるものだ。
「お前さんも遠慮なく笑う奴じゃき。」
「面白いもんw」
「えー?何がー?何が面白いのー?っていうかほらほらー!はい、ゆーびきーりげーんまーん、」
「おい、」
「うーそつーいたーらはーりせーんぼーんのーますっ!ゆーびきったっ!」
「・・・・・」
「一方的にw切られましたねw」
「自分の小指が労しいぜよ。」
「最初から素直に行くって言っておけばw」
「プリッ」
あくまで天邪鬼な仁王。
そういう仁王が棗は好きである。
「いたわ?しい?ってなーに?」
「後で紫希に聞けばーーー」
「紀伊梨居たー!」
バン!とE組の教室扉を開けるのは、紀伊梨のクラスメイト。
応援部の井谷美樹である。
「もー!やーっと見つけたー!」
「およよ?ミッキーどったの?」
「ね、今日放課後空いてない?」
放課後。
今日の放課後と言うと。
「あっとねー!今日はちょーっと紫希ぴょん達のクラスの子に呼ばれてるからー。」
「マジ・・・!」
「・・・良いよ紀伊梨、行って来たらw」
「うにゃ?」
「ええんか?」
「元々紫希も居ないしなあw今更1人減ったって構わないでしょ多分w」
まあ紫希と違って紀伊梨はリーダーだし、ビードロズの顔だから居た方がより良いとは思うけれど。でも応援部はビードロズではなくて紀伊梨だけを指名してきてるのだし、それならそっちに行ってやったらと棗は思う。
「良いの、黒崎君?」
「俺はそれで良いと思うけどwこっちは俺も妹も居るしなw」
「そーお?そいじゃ紀伊梨ちゃん、やっぱりミッキーのお話聞きに行くよ!」
「やたー!ありがと!なるべく早く帰すから!」
「良いよ、お気になさらずw」