良いぞ。
良いぞ。
この調子、この調子、この調子、此処!
「・・・あっ!あー・・・」
千百合は息を吐いた。
此処。何回やっても上手くいかない、失敗する。
「もー、うんざりするわ。」
「ふふっ。でも、上手くなってるよ千百合。習いだす前より、確実に上達してる。」
「そお?」
自分じゃよく分かんないのだけど。
此処の所毎日弾いているから、どうしても出来る所より引っかかる所が目について仕方がない。
「いや、幸村君の言う事は正しいよ。僕もそう思うが・・・」
「が?」
「うん。薄々思っていたが黒崎さん。君はスライドが苦手だね?」
「へ?」
スライドが苦手。だと。
千百合は目を丸くした。
そうなのか?初めて言われたぞそんな事。
「すみません、不勉強なんですがスライドとは何ですか?」
「そうか、幸村君は知らないね。スライドと言うのはスライド奏法という、まあ弾き方の事だ。通常ベースと言うのはこう弾く動作で音を出すが、スライドはこうして滑らせることで音を出す。黒崎君はこれが苦手なんだ。」
「へえ・・・千百合、そうだったのかい?」
「いや、知らない。」
今迄自分でスライドが苦手だなんて思った事が無かった。
スライドで詰まった事も無かったから、一条から「スライドが苦手」と指摘を受けたのは完全に予想外だった。
「でも、今躓いたとこも別にスライドじゃないですけど。」
「其処は、そこそのものの問題じゃないんだよ。その直前にスライドがあるだろう?其処が苦手だからカバーしようとして直後の部分でミスしてしまうのさ。」
「・・・マジ?」
「ははは!ちょっと、其処の部分をスライドじゃなくて普通に弾いてみてごらん。譜は無視して。」
本当かよ、と思いながら千百合はさっきミスした所の少し前から弾き始める。
(・・・此処は普通に出来んのよね。で、こうでしょ、こう、こう、こう・・・)
そしてスライド。
を、無視して弾いて、次の所へ。
「・・・あ。」
出来た。
あんなに悩んでいたのに、いともあっさりと。
「出来た・・・」
「だろう?」
「・・・驚いたな。やっぱり詳しい人には分かるものなんだね。」
幸村も千百合がスライドの指運びをしているのは何度も見たが、特別これを苦手にしているようには見えなかった。一条が指摘してくれなければ、皆が気づかないままだったかもしれない。
「黒崎さんはスライドをしようとする時にこう・・・こんな風に動かす癖がある。これがこういう動きに移行する際、人差し指に無駄な動きをさせてしまうんだ。それがミスに繋がっていたと言うわけさ。」
「へえ。どういう練習をしたら良いんですか?」
「怠けない事だね。」
幸村が下を向いて吹き出した。
いや、おい。
どういう事だよ、これでもちゃんと練習はしてるぞ。
「・・・どういう意味ですか。」
「そもそも何故スライドする時にこんな動きになってしまうのか?という話だが、これは癖と言うより性格由来の問題だ。なるべく指の動きだけで済ませたい、手首を動かしたくない、そういう心理が働くからこういう動きばかりするようになって、結果的にこの形で身に着いてしまう。」
「・・・・・」
「もっと気持ちの上で派手に動かしてごらん。それくらいで君には丁度良い。その動きに慣れる事、先ずは其処からだ。」
「・・・はい。」
ああくそ。
課題が増えた。
嫌になって溜息を吐くと、一条はおかしそうに笑った。
「そろそろ一度休憩にしようか!」