For the summer 2 - 2/9


「では、これにて今日のミーティングを終わる。解散!」

本日は月曜日。
週に一回、テニス部がミーティングだけでさっと帰宅可能な日。

とはいえコートは空いてるので自主練しても良いし、その辺は人それぞれである。
放っておいても立海の部員は半分以上残る。

「ジャッカル、どうする?試合しねえ?3セットマッチで!」
「良いな、やるか。」
「おし!あ、じゃあその前に自販機行ってくる!」
「ああ。」

暑いと、家から持ってきた飲み物なんて直ぐ底をつく。
ちょっと気を抜くと熱中症に繋がりかねない。
今日は自主練だから、いつも飲み物くれるマネージャーなんて居ないし。

(えーと、自販機自販機・・・あ!アクエリ売り切れてる!)

駄目。
今から動くんだから、水とかお茶じゃ駄目なのだ。スポドリが要る。

(しょうがねえなー。後自販機は?近いのはここの3階か。)

くるりと踵を返して、階段を上る丸井。

なんかちょっと遠出になっちゃったな。
とか思いながら、ちょっと遅れるかも、の連絡を普通にサボる丸井。

まあまあ。桑原はこの程度の事では怒らないから。

「お、あったあった。えーと?アクエリアクエリ・・・」

げ。

と微かに聞こえた気がして、丸井は後ろを振り返った。

「お。お疲れ。」
「ああお疲れ様、そしてさようなら。」
「おっと、待てって。」

立ち去ろうとする郁の手をすんでの所で捕まえる。
危ない。紫希とは違う意味で郁も直ぐ逃げようとする。

「何だ、離せ。こんな所君のファンに見つかって僕が死んだら、責任は君が取ってくれるのか。」
「はいはい。そらっ。」
「何、」

無糖の缶コーヒーを放り投げられて、郁は反射的にそれをキャッチした。

「・・・これは何だ。」
「?何って、お前が責任取れって言ったんだろい?」
「たかだか缶コーヒー一本で僕の命は買われるのか?幾ら下層市民とは言え、安く見られたものだ。」
「分かった分かった、死ぬような目に遭ったらもうちょっと良いもんやるよ。」

絶対そんな事にはならない事を丸井は知ってる。
し、郁も多分知ってるであろう事も知ってる。
目立つの嫌だとか言う割に大袈裟な所がある奴、とか思いながら丸井は自分の分のアクエリアスを買った。

「用事も無いのにスポーツドリンクか・・・」
「え?」
「君は今制服じゃないか。」

そう。
ミーティングの日はそもそもジャージには着替えない。
着替えるのはこれから、自主練する事が決まった後になる。

「いや?これから自主練。」
「ああそうかい。理解できないよ、この暑い中外に出て運動だなんて考えるだけでうんざりだ。」
「テニスは楽しいから良いんだよ。それこそ、プール掃除とかのがこの暑さで地獄みてえなーーー」
「え?プール掃除は明日だろう?」
「え?」
「え?」

明日?
いや。いやいやいや。

「・・・クラスの当番の男子が、明日だと言っていたが。」
「それはねえよ。今日春日が当番に当たってるから放課後遊べないっぽいって五十嵐が6限で言ってたし、俺のクラスでも今日が掃除だとか言ってる奴居たし。」
「ああ・・・なら言い逃げか。」
「言い逃げ?」
「明日だって勘違いしてました、でももう終わっちゃったからね仕方がないね。そういう体でサボりたかったんだろう。男のくせにみみっちい真似をする・・・丸井?」

おい。
待て。
嫌な予感がするぞ。

少なくとも知ってる限りで2人のサボりは確定だ。
他にも居そうな気配もしてる。

で。1人は絶対にサボらない。知ってる。

「・・・プールってどっちだっけ?」
「どっちも何も、其処の窓から見えるぜ。」

そう言われて廊下の反対側にある窓をサッと開ける丸井。

入ってくる熱風に暑い、閉めてくれ、と郁が文句を言う。
閉めるよ、閉めるけどちょっと見たい物見させて。

「・・・居た。」

遠くだが確かにプールが見える。
うん。1人だ、間違いなく1人。

「一体何をそんなに・・・おや。1人でプール掃除とは殊勝な生徒も居たものだね。遠すぎて誰だかは分からないが。」
「あれ、春日だろい。」
「は?見えるのか、この距離で?自慢じゃないが僕だって視力は両目で2.0だぞ。」
「見えなくたって分かるって。彼奴こういうの、絶対サボらねえから。」

言いながらスマホを取り出す。
発信先は桑原。

「・・・お。よ、ジャッカル!」

『よ、じゃないだろ・・・お前何処まで行ってるんだ?』

「4号館。でさ、悪いんだけど。今日自主練他の奴とやってくんね?」

『は?』

「ちょっと用事出来ちまったんだよなー。結構かかりそうだし?」

『用事?』



「プール掃除。」



「は?」
「おう。おう。じゃ、悪い!そういう事でシクヨロ。」

呆気にとられる一条の前で、丸井は通話を切った。

「・・・おい。」
「ん?」
「手伝いに行くのか。」
「うん。」
「春日さんかどうか分からないだろう。」
「春日だって。」
「春日さんならグループLINEにでも助けてと言ってくるんじゃないのか。」
「こねえよ。」

そこで何も言わないから紫希の近くに居続けるのは難しいのだ。
最近はちょっと慣れたと思ったのに、それ見ろ、ご覧の有様だぞ。全然楽させてくれやしない。

良いけど別に。
知ってるから、そういう子だって。

「・・・まさかとは思うが。」
「ん?」
「僕にも手伝えとか言うんじゃないだろうな。」
「言わねえよ、安心しろい。」

(え?)

「もう1本アクエリ要るな。・・・おし!行くか。」
「え、ちょ・・・」
「じゃあな。」

丸井は手早くスポドリを追加購入すると、パタパタと駆けて行ってしまった。

後に残された郁は、唖然と丸井の背中が消えて行くのを見守る。

「・・・なんなんだい、彼奴は。」

手伝えって言ったり。
手伝いは良いって言ったり。
どっちなんだよ。

いや、別に。
手伝いたいわけじゃないけどさ。

「・・・・・・・」

閉めろって言ったのに閉めるのを忘れて行かれた窓。
其処から相変わらず誰かが1人でデッキブラシ動かしているのが遠く見える。

(・・・1時間にしよう。)

後、1時間。
後1時間経ってあそこに今居るあの子と、それから丸井の2人しか居ないようなら、自分も行こう。

「・・・あそこに居るのが本当に春日さんなら、恩を返す良いチャンスだからね。」

そうだ、丸井が紫希だ紫希だと言うから。
本当に紫希なら、流石に見て見ぬふりは忍びないし。
それにほら、あんな事言ってたけどあれはええかっこしいで、本当は丸井は手伝いに行く気なんか無いのかもしれないし。それならあの子は1人で可哀想じゃないか。

だから行くんだ。
そう、別に一緒に行こうと誘われなかったのが寂しいからじゃない。

そんな事、ない。