For the summer 2 - 6/9


2人で掃除を始めてから30分。
そのたった30分が、まあ辛い辛い。
日差しが熱い。肌が焼ける。

「あっちいな・・・」
「あの、休んでて下さい・・・」
「無茶言うなよい。」

暑さに顔を真っ赤にしながら働く女子を横目に、自分は日陰で涼むとかかなりハードルの高い要求。
やれって言われてもなかなか出来ないだろう、普通は。

「でも、暑いですし、しんどいですし・・・」
「まあ、暑くもないししんどくもねえって言ったら嘘に・・・・」
「・・・丸井君?」
「・・・・・」

丸井は自分の右手を見た。
左手に持ってるのはデッキブラシだが、今右手に持ってるのはホースの方。
じゃぶじゃぶじゃぶ、と出され続けてる水はこんなに冷たいのになあ、なんて思って。

「・・・・うりゃ!」
「丸井君!?」

ホースの先をちょっと潰すと、勢いよく自分の顔に水がかかる。
顔どころか、髪や首まで一気にびっしょりになるが。

「ぷはっ!良いなこれ、涼しいぜ!」
「そ、そうですか?あ、いえ、そうなんでしょうけど・・・」
「お前もやったら?暑そうだし。」
「え?」
「よっ!」
「!」

こういう時身体的にとても鈍な紫希は、咄嗟にデッキブラシを離して手で顔を庇うとか、そういうのが出来ない。
パシャ!と派手な音がして、顔に冷たい水がかかった。

「・・・・・・」

したしたした・・・と雫の落ちる音がする。
顔が冷たい。頭が冷たい。デコルテが冷たい。

「どう?」

そう聞き返してくる目の前の丸井は、濡れてる髪が日に当たってキラキラしてる。
多分、自分も今同じような物。
ああ、今、自分達は2人共びしょびしょでキラキラなんだな。

そう思うと。
なんだか嬉しくて。


「・・・うふ、あはははっ!冷たいです!」


「・・・だろい?おし、もう一回!」
「きゃあ!」

丸井の右手から、又冷たい水がパシャパシャと振ってくる。
勢いはそうでもないけれど、どうしても目を瞑ってしまう紫希に丸井は遠慮なく追撃する。

「よっ!それっ!」
「あはは、丸井君冷たいです!止めて・・・えい!」
「うわ!ははは、冷て!やったな?そら!」
「わ、わ!」

こういう事すると、紫希みたいなタイプはもしかしたら泣いたりとか怒ったりとかするかもとちょっと思った。

でも紫希は笑ってくれた。

もう暑くない。
全身びしょびしょで、今朝プール行きたいなとか言ってたけど、もうほぼプール入ってるのと同じレベルで、周りも体も水浸し。

「きゃあ!背中、背中は止めて下さい冷たいです・・・!」
「・・・ふーん?背中嫌?」
「え・・・」
「うりゃ!」
「きゃあ!や、止めてって言ってるじゃないですかあ!」
「却下♪」
「そんな・・・!」

ああ、全然掃除進んでないです。
と頭の片隅で、紫希は思っている。

ちゃんと、掃除の事考えるだけの脳味噌の余裕はまだある。
忘れてるわけじゃない。言おうと思えば「涼しくなったので遊ぶのはこの辺にして、そろそろ掃除に戻りましょう。」と言えるけど。

「えい!」
「ひっ!」
「・・・・・・」
「・・・あ、いや。今のは違うからな?本当に・・うくっ!」
「それっ、それっ!」
「ははははは!止めろい!横腹くすぐってえんだって!おい!止めーーーあはははは!」


でも。
まだ少し、もう少し、2人はこの時間の中に居たかった。


「えい、えい、」
「そら!」




「こらあああああっ!!!!!」




ビク!
と肩を震わせて2人の動きが止まる。

「さ・・・・」
「・・・真田?」

プールサイドには、腕組みをして仁王立ちの真田が居た。

真田だけじゃない。

「良いなー!紀伊梨ちゃんもあれやりたい、あれー!」
「どうじゃ柳生になっちん、賭けんか?」
「では、私は五十嵐さんが転ぶ方に1000円ほど。」
「俺も同じ方に5000円w」
「俺も転ぶ方に賭けたいんじゃがのう。」
「ちょっと、それどーいう意味ー!?こう見えて紀伊梨ちゃんは体育の成績は良いんですお!」
「でも、もう半分は終わってるんだね。」
「え、でも大体紫希がやったんじゃないの?」
「1人でやった範囲については、今半分出来ている内の更にその半分だろう。」
「進んでねえじゃん。働けよ丸井。」


「皆・・・」
「お前らなんで此処居んの?」
「あのな・・・お前がいきなり、プール掃除行くから自主練パスって言ったんだろ?」
「え!?」
「ああ、春日は気にしないでくれ。まあ、多分こんな事だろうと思ったしな。」

何かブン太がいきなり、プール掃除がどうとか言ってる。
桑原がテニス部でそう話したのをきっかけに、皆それぞれ脳裏にクラスメイトの姿を思い出した。
うちのクラスの奴はサボるとか言ってた。うちも。うちも。うちのクラスは春日が担当だったが。
連鎖的にそんな声が集まると、もう確かめなくても成り行きに想像はつくというもの。

「そうして捨て置けんと思い手伝いに来てみれば・・・お前らは一体何を遊んどるんだ、たるんどるぞ!」
「ご、ごめんさい!すみません、本当にすみません、」
「えー?そんな悪い事もしてねえだろい?」
「抜かせ!良いか、大体ーーー」
「まあまあ、弦一郎。俺達は此処に来たばかりだけれど、2人はずっとここで掃除していたんだよ。多少は休憩を取らないと、この気温じゃとても持たないさ。」
「む・・・しかし、」
「真田君。そもそも、この状況でこの場に2人しか居ないというのが異常な事態です。こういった事が上手く回らないのは、我々生徒会側にも大きな非があるものですので。今回は色々な事が特別であるという事で、見逃してあげてください。」
「・・・・分かった。其処まで言うなら今回の件は不問に、しっ!?」

「あ!」

ビシャ!
と勢いよく真田の顔を水が直撃する。

紀伊梨が落ちていたホースを遠慮なく踏んだのである。

「・・・・・」
「あ、あはははは!あー・・・・ごみんに?」

「この・・・・・たわけがあああ!」

「ごめんてー!ごめんなさいー!わざとじゃないもーん!」
「貴様の不注意だろうが!其処に直れ!」



「さて、俺達は掃除を始めようか。」
「いえ!あの、私が、」
「させときゃ良いんだって。やってくれるんだし。」
「出来ませんよ・・・!」
「こっちの台詞取らないでよwお前、無理って思ったら言い出す癖つけてマジでw」
「出来る予定だったんです・・・」
「確かに、19時頃までずっと動き続ければその頃には終わる確率90%だが。」
「倒れる方が間違いなく早いだろうね。」
「う・・・・」

「サンキュー、ジャッカル!助かったぜい♪」
「はあ・・・あのな、頼むからもう少し順を追って説明してくれよ。」
「確かに、いきなりプール掃除とだけ言われても状況が分かりませんね。」
「ま、説明したらしたで春日と2人で遊ぶ時間は減ったじゃろうからの。」
「いや、別にそういう理由で呼ばなかったわけじゃねえけど?わーっと呼んだら、彼奴が気にするかと思って。」
「何じゃ、つまらん。」
「仁王・・・」
「仁王君?」

(・・・?)

今、自分で言っておいて何かおかしいなと丸井は思った。
いや、別に嘘を言ったわけじゃない。

ただ、そういう理由なら郁を連れてきても良かった筈だ。

それこそ今は「作戦」中なのだし、絶好のチャンスだったじゃないか。

(・・・ま、良いか。一条みてえなタイプは、押すだけじゃなくて偶に引くくらいの方が良い気もするしな。)

その読みは当たっている。
結局こういう所、丸井はコミュ力が高いのである。
だから無意識下でいとも簡単に正解を手繰り寄せる事が出来る。

今だって、ほら。