For the summer 2 - 8/9


「はー!楽しかったー!」

紀伊梨はご満悦で下校していた。

「やっぱ水遊びって楽しーよね!涼しくもなって良い感じっしょー!」
「ふふっ。一応、プール掃除っていう名目で集めたんだけどね。」
「まあ遊びますよねw」

皆でやったプール掃除は、最終的にもう一度水遊びになってしまった。
紀伊梨が掃除中に再度誤爆で真田に放水し、それに真田が放水で応じたせいで結局大体の人間がどこかしら濡れる事になった。

「千百合ちゃんは、大丈夫だったんですか?」
「私精市の近くに居たから。」
「妹wお前あれは卑怯だぞw」
「そーだよー!結局ゆっきーも千百合っちも無傷なんだからー!」
「ふふふっ!確かに濡れてないけれど、俺達もちゃんと参加していたよ?五十嵐と棗に当てたじゃないか。」
「それが悔しいのー!もー!絶対絶対次はリベンジするんだからー!」
「次って何時よ。」
「え?海っしょ?あ、プールでも良いよ!」

勿論、どちらにも行く予定である。紀伊梨の中では。
問題は以前柳に言われたようにテニス部との予定の調整だが、そこはそれまあなんとかなるっしょ!というのが紀伊梨の基本スタンス。

「プールは他のお客さんに迷惑になりやすいですから、海になるでしょうか?」
「えー、海でもやんの。しんど。」
「残念だけど拒否権はないぞw物は買っちゃったんだw」
「あ。もうウォーターガンを見繕ったんだね?」
「おお!流石なっちん、仕事が早いー!」

今日はホース対ホースの戦いで、しかも全体に2、3本しかないのをとりあう事になった。
今度はそれが解消されるというわけだ。
棗の事だから、武器の大小はあれど人数分は揃えているに違いない。

「あ!」
「どうなさいました?」

「海行く時さーあ?いっちーも呼ばない?」

郁は結局紀伊梨からいっちーと綽名を付けられた。まあ綽名とかは別に目立つような物とかじゃないし、小学校からいっちーとは時たま呼ばれていたし・・・という事で以外にもこれはすんなり通った。

まあつまり紀伊梨は、郁も海に誘おうかと言ってるわけだが。

「一条さんをかい?」
「うん!いっちーも今日のリベンジをやりたいと思うんだよねー!それに、皆が言ってるほどいっちーってぶーぶー言ってなかったよ?」
「ぶーぶーも言えなかったでしょ、今日はw」
「あはは・・・お掃除しながら水遊びでしたものね。私は願っても無いですけれど・・・」
「私は嫌。」

にべもないのが千百合である。

「えー?なんでー?」
「めんどくさそうだから。言ってる事とやってる事が矛盾してる。」
「あ!矛盾は知ってる!こないだ紫希ぴょんに習った!って、あれ?いっちーってそんな変な事してる?」
「まあなんとなく言いたい事は分かるよw目立つの嫌だ関わるの嫌だって言う割に、割と距離感近いよねあの子w」

紀伊梨も棗も、其処はおや?と思った所であった。

特に棗は、紫希と丸井が動き出したから手伝いになればと思い独自で郁の事を調べてみたが、まあテニス部の評判は軒並み悪かった。
確かに働きは良いが、とかく態度が悪い。ツンデレとか意地っ張りとかじゃなくて、嫌ですという空気が漏れているようだという、まあ筋金入りの嫌な感じ。

だが今日実際に会ってみて、意外に話せるなという印象に変わった。

少なくとも自分達ビードロズのメンバーとはそんなに会話を切り上げよう切り上げようとはしていないし、目立つのイヤイヤという割にテニス部レベルで目立っている紀伊梨の事は、そんなに無下に扱ったりはしなかった。掃除中も、紫希の為だから、あくまで紫希の為だからと少々くどい位言ってる雰囲気はあったが、確かに行動はテキパキしていた。
水遊びに来たわけじゃない!と言って、流石に放水された時は怒っていたけど。

「んー・・・あれだよ!きっと紫希ぴょんとブンブンが頑張って仲良くしよーとしてるから、それのおかげって事で☆」
「い、いえ!まだ何も出来ていませんし、」
「えー?でもいっちー言ってたじゃん?紫希ぴょんの為に手伝いに来たんだよーって!それで最後には皆ともお喋り出来たっしょ?だから、」

「私、そこが一番嫌なんだけど。」

そう、千百合が何より引っかかっている点は其処。

「紫希の為紫希の為って、紫希を言い訳にすんなよって感じ。実際紫希の為って言うの部分もあるんだろうけどさ、でもーーー」
「千百合ちゃん。千百合ちゃん、良いんです。」
「えー。」
「一条さんが私たちの事どう思ってらっしゃるのかは分かりませんけれど。でも、私の為と思っていてくれるのは有難いですし。仮にそうじゃなくて・・・私の事が所謂言い訳であったとしても、それはそれで良いんです。関わろうとしてくれてる事には、違いないですから。」
「・・・そうだね。確かに、春日の当初の目的としては別に不利になってはいない。」

言い訳にするなと千百合は言うが、言い訳とはそもそも何か?
何に対しての言い訳かというと、皆うっすらなんとなーく気づいている。

一条は、心の奥の方で本当はテニス部とも仲良くやっても良いんじゃないかなと思っている、という事に。

「ですから、心配してくれて有難うございます。千百合ちゃんにそうやって気にかけて頂けるのはとっても嬉しいですけれど・・・私別に、その点は何とも思ってないというか、寧ろラッキーに思ってるくらいなので。」
「・・・・そう。」
「・・・うん!じゃあいっちーは海には「呼ばないで欲しいんだけど。」なんでえ!?」
「それはそれとして、私どうも好きくないから。」
「まあウマが合う方ではないだろうけどw」
「ううん・・・ただ、それ以前に一条さんは呼んでも来ないだろうとは思うけれど。」
「え?何で?」
「今日は偶々関わる事が出来たけれど、基本的な彼女のスタンスは「重要な用事がない限り極力テニス部と関わらない」からまだまだ変わらないだろうからね。ただ遊ぶためだけに来いと言っても、難しいよ。」
「まあまして海だしなw苦手な奴の前で水着で遊べって、辛いでしょああいうタイプはw」

紀伊梨は知り合いになったばっかりの人の前でも、水着姿を見せたりする事に全く抵抗の無いタイプだが、勿論逆も居る。
一条はそっち側だろう、おそらく。
遊園地に誘う方がまだ目は有る筈だ。海とかプールは、多分とてもハードルの高い部類。

「あー!そーだ紫希ぴょんに千百合っちー!ねえねえ、水着買いに行こうよ水着ー!」
「「水着?」」
「要るっしょ?要るっしょ?もう中学生だしー!」
「面倒くせ。」
「まあまあ・・・実際必要ですよ、きっと。私達皆、背とか伸びていますから、どっちみち去年のはもう使えないのでは。」
「マジ?」
「ふふっ。良いんじゃないかな、買っておいたら。仮に今年は着られたとしても、来年はもう間違いなく無理だろうし。」
「うんうん!ちゅーがくの間に一回は行かないとなんだしさー、ね?ね?」
「ちょっと待って、更にそれで思い出したわwお前らは浴衣も買っておけ、去年丈ギリギリだったぞw」
「はっ!?」
「そう言えばそうでした・・・」

思い出される去年の夏祭り。
どうにかこうにか3人共浴衣は着たけれどおはしょりの長さがギリギリ過ぎて、来年はもう駄目だね、そうですね、なんて母親同士苦笑して居たものだ。

「あ!という事は、下駄も多分もう駄目ですから買い換えませんと。」
「えーーー。もう面倒いんだけど。」
「良いじゃーん!ねー、着よーよ、千百合っちー!ほら!ゆっきーに可愛い所見て貰うチャンス・・・ぐはっ!」
「紀伊梨ちゃん!?」
「紫希、構うな。」

夏はこういう事が頻発するから嫌なのである。
私服の機会が増える。非日常が増える。

恥ずかしいからその非日常と幸村との事を極力絡めたくないのに、どんなに頑張ってもいつも絡まる。
なにが可愛い所だそんなつもりで浴衣着てねーよ、と思いつつ、着たら幸村が喜ぶ事も知っている。なんだかんだ褒められたら嬉しい。そんな事考えてる自分が恥ずかし過ぎて周りの人間全員消したい。

「千百合。」
「・・・何。」
「着てくれないのかな?」
「・・・・・」
「駄目かい?」

千百合は幸村のこういう所がとても腹立つ。

駄目かと聞いてくる割に、目が笑ってる。
最終的に自分の為に千百合が折れる事を知っている。知っていて聞いて来ているのだ。

「あ・・・では、この際公平を期すというのはどうでしょうか?」
「公平?」
「幸村君も浴衣を着るんです。部活の帰りなので、ちょっとしんどいかもしれないですけど・・・」
「あー!良いねそれ、良いよ良いよー!確かに、ゆっきーばっかり可愛い千百合っちを見てゆっきーは何も見せないってゆーのは不公平ですなあ!なっちんも着るよね?」
「えー、面倒だからスルーしてたのにw」
「あ、めんどーって言ったー!駄目駄目ー!もー、ニオニオも桑ちゃんも面倒だし疲れるから嫌だとか言うんだよー!なっちん位は着ようよー!」
「下駄苦手なんだよw足痛くなるしw」
「紀伊梨ちゃんも痛くなるから、ビーサンにするお?」
「流石に格好つかないでしょうw」
「ううん、そうですけれどやっぱり慣れないと痛いですから、あまり無理しないで・・・」

わあわあ話す3人は、すっかり話題が「下駄を履くべきか否か」に変わっている。

「確かに、俺だけ着ないのは不公平だね。」
「・・・・・」
「千百合、どうかなそれで。」
「・・・分かった。」
「有難う。楽しみにしてるよ。」
「せんでいい。」

そもそもそっちがそうやって煽るから余計に着るのが恥ずかしいんだよ、と思いつつ。ただ幸村が喜ばないなら、それこそ面倒だから紫希と紀伊梨だけで着たら、とも思うし。

結局着る気になっているのは幸村が居るからで、ああ自分はいつから此処まで行動の優先順位が幸村に占められるようになったんだかさっぱり分からない。

「あ。そうだ、千百合。着てくれるんなら頼みがあるんだけれど。」
「化粧とかしないわよ。」
「あはは!違うよ、そうじゃなくて。下駄を買わないで欲しいんだ。」
「は?」

幸村は楽しそうに微笑んでいる。

「ちょっと考えてる事があってね。良いかな?」
「それはまあ良いけど。でもじゃあ、代わりに何履いたら良いの私。」
「それはその日に言うよ。」
「?」