ところで、小学校というのは公立に通う限り学区が決められている。
要は家の位置で予めここの小学校に通う事になりますよ、と言うのが決められているのであって、住所によっては決められてる小学校より隣の小学校の方が近いんですが・・・みたいな事も起こったりする。
丸井と桑原は学区こそ同じだが、家と家の距離は言うほど近いわけじゃない。
だから帰る時は、そんなに長い時間一緒に帰路につけるわけじゃなかった。
そして今。
丸井と郁にはそれと全く逆の現象が起きている。
「・・・・なあ。」
「・・・・・」
「別に誰も居ねえんだし、普通にしてて良いんじゃねえ?」
「ごめん被る。」
郁は丸井から2、3m離れた後ろを歩いている。
学区は違うけれど、家の方向がほぼほぼ一緒であることが判明した2人。
丸井は当然のように一緒に帰ると思っていたが、郁にそんな気はない。
「君みたいなのと並んで下校なんかしてみたまえ。その響きだけで僕は当分月のない夜に気を付けないといけなくなる。」
「なんでだよ・・・」
さっぱりわからない、その思考回路。
「普通に普通の事してるだけだろい?」
「分かってないね。そういう所がカースト上位の自覚が足りないと言ってるんだよ。「男子テニス部と一緒に下校」。この状況が手に入るんなら、ある程度の事はやってのける女子がどれほど居ると思ってるんだい。」
「ある程度の事とやらをするより、一緒に帰ろうって言い出した方が早いんじゃねえの?」
「言い出すと駄目なんだよ、こういうのは。ごく自然な流れでその状況に辿りつくと言うのが肝心なのさ。」
「なんで?」
「言い出して一緒に帰るという事は、逆に言うと言い出さない限りはそうなれないという事だろう。皆それよりは、いちいち約束を取り付けなくたって一緒に下校できるポジションの方が良いじゃないか。」
「へえ。」
「もっと言うと、自分から何も言い出さないでも君から誘って欲しいと言うのが君のファンの願いだろうぜ。」
「俺から?」
「誰だって、自分と一緒に居たいと表されるのは嬉しい物だろう。君でもそれ位は分かるだろう?」
「ああ・・・」
確かにそれは分かる。
人から誘われるのって、基本的には嬉しいものだ。
「分かるのかい?」
「?分かるぜ?」
「此処が分かるのに、その先がどうして分からないんだい君は。」
「は?」
「良いかい、君から何かに誘われる人。その次に君と自然に一緒に居る人、そしてその次に自分から君に近づきに行く人の順で、君はその人が好きなわけだし、周りにもそれがわかるわけだ。そしてそれが女子だった場合、同じポジションに居たいと思う女子からやっかまれるわけなんだよ。
特に一番最後のは兎も角、最初のなんかはもう特に顕著だ。アイドルが特定のファンを贔屓にしていると炎上するだろう、それと一緒なんだよ。」
「・・・・・・・」
なんだろう。
分かるような分からないような理屈。
「・・・俺、そもそも其処まで考えて人に声かけてるわけじゃねえんだけど?」
「だから君が考えようと考えまいと、実際問題事実としてあるんだから配慮してくれと言ってるんだよ分からない奴だな!さもなきゃ放っておいてくれ。近寄るな。」
「分かった分かった、お前はそうなんだな?分かったよ、そうする。」
「ああそうかい、ならーーー」
「要は、お前と関わろうと思ったら理由を用意して来いって事だろい?」
「ーーーーーーー」
絶句。
「ま、そうか!考えてみたら、お前今日もプール掃除っていう理由があったら来たもんな。」
「いやあの、」
「えーと、LINE、LINE。」
良い事を聞いた。紫希にも教えておいてやろう。
「おい、聞け!」
「何だよ?」
「何だよじゃない、というかこっちの台詞だ!」
「何が?」
「何だってそうやって僕と関わりを持とうとするんだよ!」
「友達になりたいから。」
最終目標、そこ。
友達になれたら、この態度の悪さはきっと和らぐだろうし。
それに紫希が言っていたことがなんとなく丸井は分かりだしていた。
確かにというかなんというか、郁は余りにも自分達を別世界の人間として捉え過ぎている。
平凡な日常とか近づいたらやっかまれるとか、一緒に下校したら新月の夜が危ないだとか。
此奴はテニス部の事をなんだと思ってるのだろうか。世界を席巻くアイドルグループか何かとでも思ってないか。
まあただ、こういう時は本人に幾ら違うからと言い募った所で聞きはしない。
お前が思ってるより何でもないよ、と経験を通して覚えていってもらうしかない。
「・・・・なんで。」
「お前のその良くわかんねえ思い込みを何とかしてえなって思ってる奴が居るんだよい。」
その何とかしたいと思っている本人は、この間一緒に下校どころか一つの傘に一緒に入ったけど。ああでも確かに、誤解の元だとか言われてたっけ。
まさか今頃死んでないとは思うけど、とか思いながら丸井は追加のLINEを送る。
『ここ最近、誰かに刺されたりしてねえよな?』
『何の話ですか!?』