桐生可憐はドジである。
ドジであるが、それは抜けてるという事であって、別に頭が悪いとか運動音痴だとかそういうわけじゃない。ちゃんと慌てないで落ち着いて取り組めれば、大概の事には実はそう苦労はしない。
「・・・真美?」
「お願いします、カミ様ホトケ様可憐様!
私に水泳を教えて下さい!」
7月に入り、来週には氷帝である催しが控えている。
水泳大会。
学校を上げて開催されるこの大会は体育祭や文化祭と同じ、漏れなく全員参加である。
水泳部だろうが金槌だろうがそんな事は関係ない、兎に角全員参加。
「悲壮ねえ。」
「真美って泳げなかったんだあ~。意外~。」
「お、泳げなくたって困らなかったし!ベツに良いもん泳げなくたって!もし船に乗っててチンボツとかしても、救命胴衣が私を助けてくれるから!」
「で、でも今困ってるんでしょっ?」
「くう・・・・!部長が!部長さえあんな事を思いつかなければこんな事にはっ・・・!」
「陸上の部長って誰だっけっ?」
「あれよ、ほら。あの、堺とかいう名前の人。」
「エキセントリックで有名だよね~。」
女子陸上部を束ねる部長は腕は確かだが変な事を言い出すのでも有名である。
今回彼女が思いついたのが、「肺活量の向上の為、各々一定の成績を叩き出せるよう努力するべし」という事。
「あれっ?でも言ってる事は普通なんじゃっ?」
「出来なかったブインは!新学期明けてからの3ヶ月、基礎練習4バイだよ、4バイ!」
「そ、そっか・・・」
「だからお願い!可憐にしか頼めない!」
何故可憐かと言うと、可憐はマネジだからである。
別に内川はマネージャーが大変じゃないとは思っていないが、自分は短距離走を走る。
伊丹はホルンの奏者で、榎本はバドミントンプレイヤー。
所謂「選手」に属さないただ一人の友人が可憐なのだ。
選手は部活を休むとそれが即部活の成績に直結してしまうが、マネージャーは違う。
可憐もそれは分かってる。
別に自分が抜けた所で、ちゃんとマネジ業が回るなら、構わないと言えば構わないが。
「でもさ~、真美~?やっぱりちょっと無理があるんじゃない~?」
「ぐ!」
「一日や二日の話じゃないからね。可憐もそんなしょっちゅうは無理でしょ?」
「うん・・・やっぱり、泳げなかったのが泳げるようになろうと思ったら、そんな急には出来ないしっ。」
そもそも、やれと言われて出来るんだったら本人だってとっくにやってる。
それなりに頑張って、でも出来ない事を人は「苦手」というのだからして。
「ううう・・・だよね・・・・」
「一応聞いてはみるけど・・・」
「まあ多分無理でしょ。」
「許可しないよね~、誰も~。」
「ま、基礎練頑張んなよ。」
「くそおおおおお!」
内川の叫びが教室に木霊した。