In heaps - 2/6


「良いぞ。」
「へ?」

するん・・・と力の抜けた可憐の手から、持っていたプリントがバサバサと派手に落ちた。

「おい。」
「ああっ!ごめんなさいっ!って、え?良いって・・・良いのっ?」

此処は部室棟で一番広い、跡部が良く居る部屋。
今日内川に頼まれた事を、まあ無理だろうが一応言うだけは言ってみるか・・・と申し出て見た所、なんと王様のOKが出た。

「ただ、部活にはきっちり出ろ。」
「え?へっ?えっ?」
「良いか。元々、今回の水泳大会は部員をそれなりに本気で取り組ませるつもりだった。明日から大会までの10日程を水泳強化月間として、練習を1時間早く切り上げて、プールに居残らせる。」
「どうしてっ?」
「水泳は全身運動だ。基礎体力や肺活量の向上にもなるが、何より大きいのは普段使わねえ筋肉を余すところなく使える所だな。関節に負担をかけず、トレーニングが出来る。」
「へええっ!知らなかった、水泳って凄いんだねっ!」
「ああ。そしてそのトレーニングに使うプールだが、テニス部用のレーンは確保してある。が、それはそれとして他の部の奴らや自主練習がしたい奴にも開放する予定だ。」
「その間、私は真美を見てて良いっ?って事っ?」
「ああ。プールトレーニングの件にマネージャーは関係ねえからな。」
「成程・・・・」

つまり部活を抜けて内川を見るのではなくて、部活の後に内川を見る形に出来るから好きにしていいという事だ。
それなら明日から大会の日ギリギリまで、みっちりと内川に教えることが出来る。

「というかそれ以前に。」
「えっ?」
「お前が泳げるのか?」
「泳げるよっ!これでも、クロールも平泳ぎも人並みには出来ますっ!」

どうも信用出来ないんだけど。
王はこっそり溜息を吐いた。




「信用出来ねえ。」

バッサリ切って捨てるのは向日。

「で、出来るよっ!本当だもんっ!」
「そうじゃなくてよ。足攣らせたりとか。」
「う、」
「間違って水深深いプール行ったりとか。」
「ぐ、」
「背泳ぎしててどっかにぶつけたりとかしねえのかって、そう言うことを言いてーの、俺は。」
「うううう・・・!」

どれもやった事ある。

「ま、人に教える方だってんなら、自分がそんなに泳ぐことにはならねーだろうけどよ。」

「あら、何の話?」

手元にスコアを抱えた網代が近づいてきた。

「茉奈花ちゃんっ!」
「水泳だよ。水泳大会!」
「ああ!可憐ちゃんも練習するの?」
「私は別にって言うか、普通にほどほどに頑張ろうかなって感じなんだけど、真美に頼まれちゃって・・・」
「真美ちゃん?って、内川さん?」
「そうっ。真美、水泳苦手だからっ。」
「ふうん・・・」

網代と内川は・・・というか、伊丹も榎本も、全員面識がある。
春先の2・3年マネージャー全員解雇事件を経て、顔も知らない友達の友達状態から知り合いになった。

「・・・ねえ、可憐ちゃん?」
「うんっ?」
「良かったら、私にも内川さんの事を手伝わせて貰えない、かな?」
「えっ!?」
「ほら、内川さんには前に助けて貰っちゃったし!ちゃんとしたお礼をまだ出来てなかったから、ね?」
「で、でも悪いよっ!」
「良いんじゃねーの?」
「ええっ!?」
「こーいうのって人数多い方が捗るぜ?それに、網代が居た方が何かあった時も安心だろ?」

カナヅチとドジしか居ない水泳練習なんて、そんな怖い響きで大丈夫か、なんて丁度思っていた所だ。網代も居てくれるなら、向日としても心強い。

「お前は泳げるんだろ?」
「もっちろん!ちょっとだけどスイミングもやってたから、クロール・平泳ぎ・背泳ぎとバタフライくらいなら、並み程度には出来るわよ?」
「わあ、凄いっ!確かに、茉奈花ちゃんが居てくれた方が捗るかもっ。」
「決まり、ね?じゃあ明日からって事で。」
「うんっ!真美にも言っておくねっ!」
「うん、よろしく。ところで、可憐ちゃん?」
「えっ?」
「プールなんだけど、どっちのプールを使う予定で居たの?」
「・・・・んっ?えっ?んっ?」
「どっちのプール?って何だ?」

プールはプールだろ?な顔になる可憐と向日に、網代ははあと溜息を吐いた。

「まーた部長様の言葉足らず癖が出たのね?も~、自分の当たり前は当たり前じゃないんだって何度言えば分かってくれるのかしら・・・あのね?今回放課後に使うプールなんだけれど、プールがそもそも2種類あるのね?」
「そうだったのっ?」
「ええ。どっちも開放されるし利用可能だから、好きな方を選べるわ。で、どっちを使って練習するかって話だけれど・・・」
「どう違うんだ?」
「うーーーーん・・・・そうね、端的に言うと。」
「「言うと?」」

「・・・学校のプールと、そうじゃないプール、かな?」