In heaps - 4/6


移動した方が良いかもしれない。
と、網代が言い出したのは4日後の事だった。

だもんで、今日は競泳用プールの中でもプールを変えてみた。
此処は50mプールで、進めば進むほど水深が深くなる。一番深い所で凡そ1.5m。
其処で今日は練習する。

「茉奈花ちゃん、良いのっ?こんな所でやると真美が怖がるんじゃ・・・」
「そうね、怖いと思うわ。でもそこがポイントなのよ。」
「っていうと~?」
「内川さん、貴方は元々運動神経が良いわ。息継ぎも段々出来るようになってきてるし。」
「え?エヘヘー、いやそれほどでもー。」
「調子に乗るな!25mもまだ泳ぎ切れないくせに!」
「そう、そこよ!そこが問題なの!内川さん、はっきり言うね?内川さんはもう、実力的には25mくらいなら泳げるはずよ?」
「「「「え?」」」」

可憐達4人は顔を見合わせる。

「イヤ・・・うーん、確かに12、3m位なら足着かないで泳げるようになってきたけどー・・・」
「でも、いっつも途中で止まっちゃうよねっ?」
「ええ、そこなの。何故いつも止まると思う?息継ぎが苦しいから?足も腕も疲れ切って動かないからかしら?いいえ、違うわ!内川さん、貴方に足りないのは自信よ!」
「・・・そうなの、真美~?」
「えっ!イヤ、分かんない・・・」
「内川さん、貴方内心では、25mなんてそんな距離泳げないと思っていない?25mって凄く凄く遠い所だと感じていないかしら?泳いでも泳いでも全然前に進んでいない、これじゃいつまで経ってもゴールに着けない・・・泳いでいる時、そんな事を感じてるんじゃないの?」
「う!」
「図星なのね・・・」
「だってー!見てる風景が変わんないんだもーん!」
「ああ、でも分かるよっ!海とかじゃないから、進んでるのか進んでないのか分かりづらいよねっ!」

そう、競泳用のプールと言うのは進んでも進んでも景色が変わらないので泳ぐ途中で飽きてくる。泳げる人なら「飽きて来たなー」で済むけれど、これが苦手な人に対しては心を折る悪魔になってしまう。頑張って頑張って泳いでるのに、ゴールが一向に近づかないような錯覚を起こしてしまうのだ。

「だから、内川さんに必要なのは経験よ!」
「経験・・・」
「そう!自分は25m泳げる!出来る!出来た!っていう成功体験が必要なのよ!その為にこのプールが必要なの。」

網代はウインクを自信ありげに飛ばした。

「見てて!内川さんは絶対泳げるはずよ。」






網代が考えた事は2つ。

先ず、風景の対策。

進んでも進んでも景色が変わらない。
なら、景色を作れば良いじゃない。

という事で。

「えーと?18m・・・この位?かなっ?」
「其処!可憐ちゃん、その辺りよ!」
「はあーいっ!」

可憐達は今、大凡6m間隔でプールに並んで立っている。
スタートから6mの所に榎本。12mの所に伊丹。18mの所に可憐。25mのゴール地点に網代が居る。
これで声掛けをしながら泳いでもらう事で、「進んでいる感」を演出し、内川を励ますのだ。

そしてもう一つ。
足が簡単に着くと、内川のようなケースは直ぐ足を着いてしまう。
足を着いてはやり直し、又足を着いてはやり直し・・・を繰り返すうちに疲弊して、終いに本当に泳ぎ切る体力がなくなる。

それなら実力はもうあるのだし、もう足は着かない状態にして勢いで泳ぎ切らせる。というのが今回の作戦だ。
もし本当に沈みそうになっても、一定間隔で誰かは居るので直ぐに助けに行くことが出来るし。

「よ~し、じゃあどうぞ~?れでぃ~・・・ご~!」

そう言って、一番近い榎本が号令をかけるが。

「・・・・・・」
「・・・真美?れでぃ~・・・ご~!」
「・・・・・・」
「あれ~?」
「ちょっと真美ー!泳ぎなさいってばー!」
「ま、待って待って待って待って!何か網代さん遠くない!?ヤッパ25mって遠いって!ココロの準備が!」
「つべこべ言わずに泳げよ~。」
「ガブッ!?ブハ!た、助けて!死ぬ!」
「もう、朝香!」
「あ、ごめんイライラしちゃってつい~?」



「あら、スタートが切れなくなっちゃったか。」
「ああ・・・で、でもっ!多分朝香達がなんとかしてくれると思うしっ!」
「そうね、もう少し待ちましょうか。」

可憐達が居る所は、水深1.3m前後と言った所。
真っ直ぐ立って頭が水面から出るか出ないか位の位置なので、足は着かないがちょっと立ち泳ぎするだけで其処に居続ける事は出来る。

だから内川がこっちに来るまでの間、2人はお喋りを交わす余裕があるわけだが。

「・・・ねえ、可憐ちゃん?」
「ん?」
「部活の話になっちゃうんだけど。」
「うん。」

「忍足君と喧嘩でもした?」

不意打ち。
可憐にとっては正に不意打ちであったが、網代はずっと可憐に聞く機会を伺っていた。

向日に先日色々言われたが、向日はあくまで「お手伝い」である。当事者ではない。
本人の様子を探らないで事に当たるだなんて、愚の骨頂だ。

「なっ・・・なんでっ!?」
「だって最近、おかしいじゃない?可憐ちゃんたら、忍足君に近寄りもしてないわよ?」
「そ、そんな事・・・・」
「ない?」
「・・・・あ、あるかもだけど・・・」
「ふふふっ!」

最近の振る舞いを思い返してみても、「そんな事ない」の根拠に当たる事が出来ていない。
反論不可。

「で、でもっ!喧嘩してるわけじゃっ!」
「ああ、それはなんとなく分かってるの。2人とも、売り言葉に買い言葉で怒鳴りあったりするタイプじゃないものね。」
「あ、うん。」
「でも、だからこそどうしてなのか分からないんだけどね?」
「あう・・・!」

網代がくすくす笑うと、可憐はなんだかちょっと恥ずかしくなった。
なんだか、自分ばっかり大袈裟に構えているようで。

(・・・茉奈花ちゃんはこんな悩み抱えたりしないんだろうな。)

そもそも今回の話の発端は、忍足が網代を好きという事から。
そこからなるべく離れた方が良いよね、あわよくばもう助けてもらうのは卒業しなくちゃ、という方向に舵を切った結果が今。

網代なら多分、距離を取るのも取り過ぎず近づき過ぎず、スッと適切な距離に行けるのだろう。助けてもらうのだって、わざわざ頑張らなくても元々何でもそつなく出来るのだから、そもそも卒業しなくちゃ!なんて意気込む必要が無い。

「・・・ねえ、茉奈花ちゃん。」
「うん?」
「どうしたら誰にも迷惑かけないでいられるのかなあっ?」

それが出来ればそれが一番良い。
でもそれが出来なくて、出来るようになろうとあがくけどやっぱり上手くいかない。

どうしたら良いんだろう・・・と途方にくれる可憐に網代はカラッと笑って言った。

「無理、ね。」

「えええっ!?」
「あはは!やあね、当たり前よ。誰だって生きてる限り、誰かに迷惑はかけてるものなの。しょうがないわよ?誰にも迷惑かけないで、なんてそんなの無理。皆それぞれ迷惑かけて、かけられて、そうやって過ごしてるんだから。」
「で、でもっ!でも・・・・」

それはそうかもしれない。
今網代が言った事には納得がいった。

でも、何か違う気がする。

「・・・忍足君は・・・」
「あ。」
「えっ?」
「分かった、分かったわ。」
「えっ?えっ?」
「そうよ、すっかり忘れていたわ。相手は侑士君なのよ、向日君でもなければ芥川君でもないんだわ。ああ、私ったらこんな基本的な事を・・・」
「ええええ・・・・?」

すっかり合点がいった様子でうんうん頷く網代だが、可憐は何が何なのやらさっぱり分からない。

「わかった、ごめんね可憐ちゃん。」
「えっ?」
「可憐ちゃんに話を聞こうっていうのが、ある意味土台間違っていたわ。悪いのは侑士君の方なんだから、侑士君にもっと話をするべきだったのよね。」
「えええっ!?」
「安心して、可憐ちゃん!可憐ちゃんは何も悪くないわよ!私がちゃんと言い聞かせておくからね!」
「何をっ!?っていうか、それは何か違うよっ!忍足君は何も悪い事なんかないよ、私がーーーー」


「お疲れさん。」
「よっ。」


噂をすれば何とやら。
2人が振り向くと、真後ろのプールサイドに件の忍足と向日が並んで立っていた。