Wishes 1 - 5/5


「頼むよー。お願いしますよ、マジでー。」
「そう言われましても。」
「黒崎、世の中には出来る事と出来ない事があるぞ。」

「あんたら何やってんの?」

ちょっと兄の所にリズム隊として話をしに来たら、兄は柳と柳生に頭を下げていた。
まあ棗が悪いんだろうという事は分かる。問題はどう悪いかだ。

「ああ、妹か・・・まあお前も味方になってはくれんだろうな、これは・・・」
「まあ私は基本無条件にお前の敵だけど。」
「酷くね?」
「で?何の話?」
「今度の林間合宿の話だ。」
「ホテルを抜け出したいから、生徒会権限で手を回せないかと言われまして。」
「出来るわけないだろ、馬鹿かよ。」

馬鹿かよ、と言いつつ多分棗も本気で融通して貰えるとは思ってはいまい。
ただワンチャン無いかな、もし通れば楽なのにとか考えてダメ元で言ったのだろう。言うのは無料だ。

「やっぱこっそりやるしかないかなー。」
「いつも大体そうしてるじゃん。」
「お前達、一応此処には生徒会の人間が居る事を忘れるな。」
「まあ、今はそれは見逃しましょう。しかし、実際どうするおつもりです?こう言うのも手前味噌ですが、見回りの体制は万全ですよ。先生方と連携を強化していますし。」
「でも、あんた達だってその内寝るでしょ?生徒なんだから。」
「その時には紀伊梨も夢の中モードなんだよねw」
「ああ・・・まあね。」

こういう脱走に際して適した時間の一つが、深夜・丑三つ時と言われる午前2時とか3時である。教師でさえもほぼ寝ている時間だが、早寝遅起きが得意技の紀伊梨に起きろと言うのは辛い。
第一、危ない。そんな時間にホテルを脱走して危ない目に遭っても自業自得。

「と、いうわけなので。当然と言えばそうですが、脱走の手引きは出来ませんね。」
「駄目かー。」
「代わりに、別の方法を提案しましょう。」
「え?」

柳生がちょっと悪戯っぽく笑った。

「そもそもの話ですが、脱走などする必要はありませんよ。」
「は?」
「もしや、脱走ではなく正面から堂々と出て行こうと言う話か?」
「やりたくねえんだよ、面倒だからw」
「ちょっと待ってよ。正面から出るってどういう事?出来るの?」
「どうぞ。」

柳生は千百合にそっと生徒手帳を差し出した。

「其処の、校則の欄の第120条に書いてありますよ。」
「あんた全部読んでんの・・・えーと、120。これか。」
「読みませんか?」
「俺は読んだ。」
「俺もw」
「お前らに聞くんじゃなかった。えー・・・夜間の学習について?」


立海大学附属中学校校則第120条
夜間の学習について
1 生徒の学習に際して、夜間で行うべきと認められた学習内容については、以下の書式を提出し通知を発行された上での物のみ許可する



「・・・・つまり、勉強だって事にするって事?書類を書いて?」
「はい。下手に非合法な手段を取るより、私は楽かと。」
「勉強じゃなくね?」
「解釈次第、という奴だ。物は言い様という事だな。現実的な手段だ、俺は悪くないと思うが。」
「いや、出来るよ?出来るけどさ、面倒じゃんかw」

(此奴ら全員頭良いから、こういう事考えさせたら天下一品ね)

ルールの穴とか法の抜け道とか、そういうのを友人達の前で晒してはいけない事を千百合はもう知っている。よく知っている。こんなガバガバの校則なんてあってないようなもの。

「難があるとすれば、どなたか先生の監督が避けて通れない事でしょうね。」
「まあ勉強と言う名目上それはどうしようもないだろうな。」
「そうねwでも今回大人は振り切らなくて良いかなってw」
「マジ?珍しいじゃん、いつも撒きたがるのに。」
「さしあたっての目的地が夜の神社だからねw大人が居た方が紀伊梨が落ち着くでしょw」

ああ、という呟きが3人から零れ落ちた。

「先日は、五十嵐さんに負担をかけてしまいましたからね。確かにその方が良いでしょう。」
「とはいえ、あまり厳しい教師でも最初の目的から逸れてしまう。此方に振り回される事を良しとしている、遊び心のある人選をすべきだな。」
「うちの担任で良いじゃん。」

その条件を聞いて、千百合は真っ先に担任の顔が思い浮かんだ。

「正ちゃんかw確かに適任かもw」
「新海先生は社会科の先生ですしね。申請も通り易いでしょう。」
「後は、早く行動する事だな。同じ考えの者より早く動かなければ抑えられてしまう。とはいえ、他に同じ事をする者が居る確率は2%程だが。」
「後は精霊探しなんてメルヘン思考に付き合ってくれるかだなw」
「付き合う付き合う。そういうの信じるもん。今日も七夕のお願い今年はどうしようかとか言ってたし。」

というか精霊探しって。
そんな目的で夜遊び目指してたのかと思いつつ、まあ文句言うのも面倒なので任せる気満々の千百合を他所に、3人の話題は今日の七夕イベントに移っている。

「今年なんて書こうかなーwもう大概の事は書きつくしたんだよなw」
「去年と同じ事を書いても問題ないと思うが。俺は毎年同じ事を書く。」
「なんて書くの?」
「無病息災だ。体は資本だからな。」
「確かに、何をするにも健康は大切ですね。」
「お前は?文武両道とか?w」
「毎年色々書きますが・・・やはり、今年はテニスの腕の向上についてですね。」
「あー。」

柳生のテニス部での様子は幸村からもちらちら聞いている。
センスがあるよ、伸びると思うと言われているが、ちょっとセンスがあるくらいじゃ、あのテニス部ではさして勝てるようにならない。

「お前達は何を書くんだ?」


「「フェス。」」


こういう時、柳は流石双子だなと思う。
目つきがそっくりだ。

「俺達こういう外舞台的なのやった事ないからねw」
「ま、他に特に書くような事無いし。トラブルに巻き込まれせんようにとかかな。」
「おや?テニスの事は良いんですか?」
「応援的な事?優勝祈願とか?あんたら、要るの?」
「まあ、別に必要は無い。」

柳はごくごく普通の口調で続けた。


「勝つのは、俺達だ。」