「あー!お星さマンだー!おーい、お星さマーン!」
「おい!小学生に交じろうとするな、たるんどるぞ!」
「着ぐるみですか、久しぶりに見ましたね。」
ちびっこを守る正義の味方、お星さマンはこういう星の行事の際にとても出番が多い。
足元には幼児から小学生の子供が纏わりつき、ナチュラルに加わろうとする紀伊梨の首根っこを真田が捕まえる。
「えー!お星さマン見たーい!握手したーい!」
「ならん!子供が優先だ!」
「・・・!五十嵐さん!後ろです!」
「へ?わきゃっ!」
「うっ!」
真田を振り切ろうと頑張っていた紀伊梨は、背後を横切ろうとした歩きスマホの少女とドン!とぶつかった。
「あてててて・・・」
「たわけが!こんな所で暴れるからこうなるのだ!」
「う・・・・いたた、」
「申し訳ありません、友人が失礼を。大丈夫ですか?」
「ええ大丈夫・・・私もボーっと歩いてたから。」
などと言って助け起こした少女に、柳生は一抹の見覚えを感じた。
「・・・・・・」
「・・・あの?」
「ああ、いえ。・・・失礼ですが、何処かでお会いしましたか?」
年の頃は自分達よりおそらく年上。高校生くらいだろう。
でも、見た事が有る。絶対ある。どこだったか思い出せないけれど。
しかし少女は柳生にそう言われると、急に暗い顔になって俯いた。
「・・・人違いじゃない?そんなわけないわ。」
「・・・そうですか。」
「おねーさん!おねーさん、だいじょーぶ?」
どこも血が出てない事を確認し、すっかり元のテンションになった紀伊梨は、少女の沈んだ様子になど全く気付く事無く無遠慮に話しかける。
ただ、その明るい紀伊梨の様子に感化されたのか、少女の方も少し表情を和らげた。
「ええ、平気よ。」
「こら!ちゃんと謝らんか!」
「今から謝るとこなのー!ごめんなさい!」
「いえ、良いの。私の方もあんまり周りを良く見てなかったから。」
「それではこれから、お星さマンは一度休憩に入りまーす!」
マイクを持ったスタッフの声が会場に響いた。
「「「「「えー!」」」」」
「大丈夫!出番はまだまだありますよー!後で皆又、一緒に遊ぼうねー!バイバーイ!」
子供を笑顔であしらうスタッフに連れられて、手を振りながら引っ込んで行くお星さマン。
紀伊梨もしょんぼり顔で手を振って見送る。
「お星さマーン!後でねー!後で遊ぼうねー!」
「はあ・・・・」
「まあまあ、真田君。好きな物は好きで、良いではないですか。」
「・・・何故?」
「およ?」
「お星さマンの、何がそんなに良いの?誰にでも聞こえの良い事を言って、媚びを売っているだけなのに。」
お星さマンというのは。
彼はそもそも子供向けというか幼児向けのマスコットキャラクターなのであって、聞こえの良い事ばっかりとか媚びを売ってるとか、お前は一体何に向かって何目くじら立てているんだよ、と柳生はおろか真田でさえも思った。
また少女の目があくまで真剣なものだから、余計に2人はちょっと引いてしまう。
(此奴、よもやあのキャラクターに向かって政治家の様な振る舞いを求めているのか?)
(アンチ、という奴でしょうか?それにしたって、アレに向かってアンチになるというのは、かなり風変わりな事ですが・・・)
紀伊梨は目をパチクリさせて少女を見上げる。
何故?
何故お星さマンが好きか?
「・・・お星さマンはねー。」
「ええ。」
「いつも一緒に居てくれるから好き!」
お星さマンはお星さま。
皆を守る時以外は空に居て皆を見守ったり、一緒に遊んだりしてくれる。
悪者が居る時だけ出てきて、倒したらさよならじゃない。悪者が居ようと居なかろうとそこに居てくれる、その安心感に紀伊梨は幼少の頃、どれだけ夜のトイレまでの道中を救われたか。
「・・・一緒に居てくれるから?」
「うん!」
「居るだけよ?導いてくれないわよ?」
「導いて・・・?」
「ええと、だから。貴方の人生の指針にはならないというか、人の事を甘やかしているだけと言うか、」
(おい。お星さマンとはそんな話だったのか?テレビでいつもこんな哲学のような事を?)
(まさか!ただの、ごく普通の子供向けアニメですとも。)
もしかして本当に、居よう筈もないと思っていたお星さマンアンチなのか。
お星さマンだぞ、お星さマン。あんなアンチするにしてもどうにもならないような、子供向けキャラクターに向かってアンチって。
「???」
「だからつまり、アドバイスはくれないでしょう?ああした方が良いとか、こうした方が良いとか、そういう事をーーー」
「そーゆー事は自分で考えるから良いよ!」
星には思想などない。
ただ見ている。困っていたら励ましてくれる。目を向けるとピカッと笑ってくれる。
喜ぶ人と共に喜び、怒っている人を宥め、悲しむ人を慰めて、楽しい人と一緒に遊ぶ。
星がコンセプトであるお星さマンは、徹底してそういうキャラクターにされている。
紀伊梨はお星さマンのそういう優しくて分かり易い所が好きだった。
少女はハッとした顔をした。
「・・・・そう。」
「うん!・・・あれ?」
「?」
「おねーさんどこかで見た?」
「!き、気のせいよ、見るわけないわ!ぶつかってごめんなさい、私もう行くから!」
そう言うと、彼女は鞄からサッと帽子を出して、被って何処かへ走り去ってしまった。
「およー・・・」
「・・・なんだ、彼奴は。」
「変わった方でしたね。」
「ねーねー!さっきのおねーさん2人共どこかで見なかったー?」
「俺は知らんが。」
「私は知っています。」
「おー!ねー、誰誰ー?」
「それが、私もよく覚えていないのです。彼女の顔には、間違いなく見覚えがあるのですが。」
「そーそー!そーなんだよねー、紀伊梨ちゃんもぜーったいどっかで見たのになー!」
「ふむ。もしやすると、高等部の生徒かもしれんな。」
「その線はありますね。」
「そおー?そーかなー・・・・」
確かに顔には覚えがあるが、立海の制服姿とどうも重ならない。
学校じゃないような気がする・・・と思う紀伊梨の視線の先には、もう彼女は居なかった。